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三年生にとって学校生活というのはもう一年もない。正確には高校に進むのだから、学生生活の終わりを指すのではなく、単純に中学生としての思い出作りに友達同士相談したりしていた。それが羨ましく感じないわけでもない。私だって…… 。
しかし、いくらネチネチしたところで現状は変えられない。割り切るしかないのだ。
そんなことを思いながら、今日も一人で下校していた。
部活動ではテニス部はうまくやっていけていた。ただ、一緒に帰ろうも方向が違った。別にボッチというわけでもない。むしろ、部活動でもうまくやっている。ただ、両親はあまりそう思ってないらしく、まぁ、原因はだいたい自分でも分かっているけど。
途中、帰り道に一台の白いワゴン車が通り過ぎていった。
今日すれ違ったのはそれぐらいで、車の交通量は少ない。前にいた場所より通学路が安全、というぐらいか。引っ越して良かったことは。
勿論、私には三つ子というお友達はいるが、申し訳ないがもう3人の見分けは諦めている。むしろ、三つ子の両親に見分け方のコツをこっそり聞いておきたいところだ。
◇◆◇◆◇
その先程すれ違った白いワゴン車だが、そのスーツ姿の運転手は七不思議と呼ばれている斜めった柿の木が庭にあるお婆さんのお家へと向かっていた。
助手席の上にはファイルが置かれてある。ファイルの中身は『駅高架化計画』とタイトルがあり、新しい町モデルの絵が描かれてある。古くなった駅を耐震工事で済ませるか、駅を新しくするかの長年の議論でようやく、駅を新しくするという方向性が決まった。その際に駅を高架化するというものだ。それに伴い貨物駅の移転の為の立ち退きをお願いしてもらおうという話しだ。しかし、これが実際のところ応じてもらえていない土地が一件だけあった。その家とは、高齢女性が一人で暮らしているという平屋建てである。その家が応じてもらえれば、強制的に実行することなく交渉により応じてもらえたことになる。これは凄いことだ。しかし、それを隔てているのがそのお婆さんだった。
市長としては公約通り粘り強い説明と交渉により、納得していただいた上でこの計画を進めると言ってしまった。そうなると、公約通りにやり通したいところだが、ここまで交渉が難航しているとなると、計画はどんどん後ろになっていくだけだった。経済において期待が持てる今回の政策において、一人の為にこれ以上の延期をするぐらいなら、強制的にやってしまった方がいいのではないかとさえ思う。市民に対しては市長は記者の前で粘り強い交渉を行っていったが、一件だけ、この一件を強調した上でこれ以上は先伸ばせられないと残念な顔をして、市民に訴えた上で思いきって実行してもらいたいものだと思う。が、市長は次の選挙が控えていて、イメージが少しでも悪くなるから、おそらくは選挙後に動きを決めるだろう。もう、それでいいのではないかとさえ思う。この何度目になるか分からない交渉も、やっているアピールでいい。とにかく、交渉は無理だ。市長には是非とも理解していただいて、交渉は諦め、是非とも思いきった決断をしてもらいたい。そして、是非とも私に期待しないでいただきたい。
空いている駐車場に車をとめ、ファイルを持ち、家の玄関まで向かった中年男性はインターホンを押した。すると、直ぐにインターホンから「誰だい」と家の主の声がした。
「あ、私市役所から来た渡辺と言います」
「またあんたかい。諦めな、この土地はあんたらにはやらない。踏切がなくなって交通の便が良くなるからとかそんなのはね、私には関係ないんだよ」
「まぁ、話しだけでも聞いていただけませんか?」
「帰ってくれ」
まぁ、こうなることぐらいは想像通りだったが。まさにこれが俗に言う門前払いというやつだ。
そもそも今、問題となっているのは駅からさほど離れていない場所にある踏切だ。その道路は交通量が元から多く、朝早くから夜遅くにかけて渋滞によくなっていたのだ。駅から近いこともあって、踏切が直ぐに降りてしまうのだ。だから、歩行者も踏切の下をくぐってしまったりと大事故に繋がりかねない危険な状態が続いていたのだ。駅の老朽化の問題になった時、ついでにと浮上したのが駅の高架化であった。
しかし、渡辺職員が出来ることはインターホンを押して、出てきてくれるのを待つだけ。出てきたらお話をする。それだけでも高いハードルだ。当然、相手は交渉に応じるつもりは最初からないのだから、此方の話しなんて全く興味もないだろうし、さっきみたいに聞いてももらえない。
もう無理だ。諦めよう。
とりあえず、インターホンは押した。それでいい。
あっさり降参し、車に引き返す。しつこくやると、苦情を入れられかねない。そうなっても面倒だ。
エンジンをかけて駐車場から車を出す。
最後にあの家の前をゆっくり走ることにした。
家の横にある庭に斜めった木がある。
「あれ?」
通り過ぎる瞬間、なんだかあの木が歪んだように見えた。
気のせいだよな。
目を擦り、目の疲れのせいにした。
そう言えば先輩は言っていたな。
「あの木はな、ひねくれてるんだ」
なんのことだか全く分からなかった。聞いても教えてはくれなかった。だが、何度かあの家に行けば分かると言っていた。今のがそれなのか? まだ、よく分からないが、オカルトとかだったらやめてもらいたい。
渡辺はホラーがかなり苦手だった。
◇◆◇◆◇
「ねぇ、本当にいるの?」
「いるって! だって吉田君と及川さんは本当にカップルになったじゃん」
「でも、七不思議ってあんま信用ならないじゃん」
二人の可愛いらしいピンク色の高校生の制服が、駅の北口前に来ていた。
駅の北口には居酒屋が周りに集中しており、逆に南口は北口より寂しい感じだ。かわりにホテルがやたら多い気もする。
北口には噴水があり、その噴水の近くに二人はいた。
一人はポニーテール。もう一人はそばかす顔のショートヘアだった。お互い、ペアルックのキーホルダーを学校の鞄につけていた。
「この噴水に百円を投げればいいんだよ。そうすると、キューピット様があなたの恋を叶えてくれるよ。試すだけでもいいからやってみたら? 何事もやらなきゃ始まらないよ?」とポニーテールの子はそばかす顔の子に言う。
「う、うん」
長財布から百円を出すと、それを噴水に投げた。
ぽちゃんと音がして、その子は両手を合わせて心の中でお願いした。
「……特に変わった感じしないけど、これで合ってるの?」
「まぁ、あとはキューピットが叶えてくれるのを期待するしかない」
「でも、噴水に沢山百円があるよ」
「え? ああ、うん。そうだね」
「キューピットってこれ全部叶えるの?」
「さぁ、そこまでは」
「あ!」
「どうしたの?」
「あれ見てよ!」
興奮気味に言ったので、なになにとその先を見ると、噴水の中に一万円札が入っていた。
「マジか……」
しかし、いくらネチネチしたところで現状は変えられない。割り切るしかないのだ。
そんなことを思いながら、今日も一人で下校していた。
部活動ではテニス部はうまくやっていけていた。ただ、一緒に帰ろうも方向が違った。別にボッチというわけでもない。むしろ、部活動でもうまくやっている。ただ、両親はあまりそう思ってないらしく、まぁ、原因はだいたい自分でも分かっているけど。
途中、帰り道に一台の白いワゴン車が通り過ぎていった。
今日すれ違ったのはそれぐらいで、車の交通量は少ない。前にいた場所より通学路が安全、というぐらいか。引っ越して良かったことは。
勿論、私には三つ子というお友達はいるが、申し訳ないがもう3人の見分けは諦めている。むしろ、三つ子の両親に見分け方のコツをこっそり聞いておきたいところだ。
◇◆◇◆◇
その先程すれ違った白いワゴン車だが、そのスーツ姿の運転手は七不思議と呼ばれている斜めった柿の木が庭にあるお婆さんのお家へと向かっていた。
助手席の上にはファイルが置かれてある。ファイルの中身は『駅高架化計画』とタイトルがあり、新しい町モデルの絵が描かれてある。古くなった駅を耐震工事で済ませるか、駅を新しくするかの長年の議論でようやく、駅を新しくするという方向性が決まった。その際に駅を高架化するというものだ。それに伴い貨物駅の移転の為の立ち退きをお願いしてもらおうという話しだ。しかし、これが実際のところ応じてもらえていない土地が一件だけあった。その家とは、高齢女性が一人で暮らしているという平屋建てである。その家が応じてもらえれば、強制的に実行することなく交渉により応じてもらえたことになる。これは凄いことだ。しかし、それを隔てているのがそのお婆さんだった。
市長としては公約通り粘り強い説明と交渉により、納得していただいた上でこの計画を進めると言ってしまった。そうなると、公約通りにやり通したいところだが、ここまで交渉が難航しているとなると、計画はどんどん後ろになっていくだけだった。経済において期待が持てる今回の政策において、一人の為にこれ以上の延期をするぐらいなら、強制的にやってしまった方がいいのではないかとさえ思う。市民に対しては市長は記者の前で粘り強い交渉を行っていったが、一件だけ、この一件を強調した上でこれ以上は先伸ばせられないと残念な顔をして、市民に訴えた上で思いきって実行してもらいたいものだと思う。が、市長は次の選挙が控えていて、イメージが少しでも悪くなるから、おそらくは選挙後に動きを決めるだろう。もう、それでいいのではないかとさえ思う。この何度目になるか分からない交渉も、やっているアピールでいい。とにかく、交渉は無理だ。市長には是非とも理解していただいて、交渉は諦め、是非とも思いきった決断をしてもらいたい。そして、是非とも私に期待しないでいただきたい。
空いている駐車場に車をとめ、ファイルを持ち、家の玄関まで向かった中年男性はインターホンを押した。すると、直ぐにインターホンから「誰だい」と家の主の声がした。
「あ、私市役所から来た渡辺と言います」
「またあんたかい。諦めな、この土地はあんたらにはやらない。踏切がなくなって交通の便が良くなるからとかそんなのはね、私には関係ないんだよ」
「まぁ、話しだけでも聞いていただけませんか?」
「帰ってくれ」
まぁ、こうなることぐらいは想像通りだったが。まさにこれが俗に言う門前払いというやつだ。
そもそも今、問題となっているのは駅からさほど離れていない場所にある踏切だ。その道路は交通量が元から多く、朝早くから夜遅くにかけて渋滞によくなっていたのだ。駅から近いこともあって、踏切が直ぐに降りてしまうのだ。だから、歩行者も踏切の下をくぐってしまったりと大事故に繋がりかねない危険な状態が続いていたのだ。駅の老朽化の問題になった時、ついでにと浮上したのが駅の高架化であった。
しかし、渡辺職員が出来ることはインターホンを押して、出てきてくれるのを待つだけ。出てきたらお話をする。それだけでも高いハードルだ。当然、相手は交渉に応じるつもりは最初からないのだから、此方の話しなんて全く興味もないだろうし、さっきみたいに聞いてももらえない。
もう無理だ。諦めよう。
とりあえず、インターホンは押した。それでいい。
あっさり降参し、車に引き返す。しつこくやると、苦情を入れられかねない。そうなっても面倒だ。
エンジンをかけて駐車場から車を出す。
最後にあの家の前をゆっくり走ることにした。
家の横にある庭に斜めった木がある。
「あれ?」
通り過ぎる瞬間、なんだかあの木が歪んだように見えた。
気のせいだよな。
目を擦り、目の疲れのせいにした。
そう言えば先輩は言っていたな。
「あの木はな、ひねくれてるんだ」
なんのことだか全く分からなかった。聞いても教えてはくれなかった。だが、何度かあの家に行けば分かると言っていた。今のがそれなのか? まだ、よく分からないが、オカルトとかだったらやめてもらいたい。
渡辺はホラーがかなり苦手だった。
◇◆◇◆◇
「ねぇ、本当にいるの?」
「いるって! だって吉田君と及川さんは本当にカップルになったじゃん」
「でも、七不思議ってあんま信用ならないじゃん」
二人の可愛いらしいピンク色の高校生の制服が、駅の北口前に来ていた。
駅の北口には居酒屋が周りに集中しており、逆に南口は北口より寂しい感じだ。かわりにホテルがやたら多い気もする。
北口には噴水があり、その噴水の近くに二人はいた。
一人はポニーテール。もう一人はそばかす顔のショートヘアだった。お互い、ペアルックのキーホルダーを学校の鞄につけていた。
「この噴水に百円を投げればいいんだよ。そうすると、キューピット様があなたの恋を叶えてくれるよ。試すだけでもいいからやってみたら? 何事もやらなきゃ始まらないよ?」とポニーテールの子はそばかす顔の子に言う。
「う、うん」
長財布から百円を出すと、それを噴水に投げた。
ぽちゃんと音がして、その子は両手を合わせて心の中でお願いした。
「……特に変わった感じしないけど、これで合ってるの?」
「まぁ、あとはキューピットが叶えてくれるのを期待するしかない」
「でも、噴水に沢山百円があるよ」
「え? ああ、うん。そうだね」
「キューピットってこれ全部叶えるの?」
「さぁ、そこまでは」
「あ!」
「どうしたの?」
「あれ見てよ!」
興奮気味に言ったので、なになにとその先を見ると、噴水の中に一万円札が入っていた。
「マジか……」
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