6 / 9
Scene1 突然の出逢い
Cut5
しおりを挟む「ピピピ……ピッ」
明るくなった室内に目覚まし時計の音が鳴り響く。
が、それも一瞬の事ですぐに部屋に静けさが戻った。
ベッドに横たわるのはぐしゃぐしゃの髪で布団に抱き付く朔夜。
目覚ましはいつものように六時にセットしてあったが、夜中に一度目が覚めて信じられない事があってからは寝る事も出来なかったのだからたいして意味がなかった。
早朝の空気は好きだが寝起きが悪いというやっかいな体質の朔夜だったが、それでもいつも時間通りに起き上がっていた。
今日も普段と同じようにヘアブラシを持ちカーテンを開けてベランダに出る。
突っ掛けた薄いピンク色のサンダルはここへ引っ越した時買ったものでまだ新しい。
清々しい澄んだ空気に包まれて伸びをする。
こうして髪を梳かしながら朝の景色を眺める日課が出来たおかげか、朔夜の寝起きは昔と比べてかなり良くなっていた。
五月半ばの朝。今日はなかなかに寒い日だ。息を吐くと白く見え、遠くに見える山の上には未だ綺麗な白い冠が残っている。
この冬は雪が多く、通学路にある長い坂は圧雪アイスバーンになり毎朝誰かの悲鳴が聞こえていた。
朔夜は自分も一度転びそうになって路肩の雪山に足を突っ込んだ事を思い出し、クスクスと笑った。
「朝っぱらから楽しそうだな」
不意に声がして、朔夜はそちらを振り返る。そこには、フリースの上着を羽織った智哉が立っていた。
「あ……な、と!」
繋がっているベランダの事を、完全に失念していたようだ。
智哉の顔を見て急激に昨日の出来事を思い出した朔夜は部屋に入り窓を閉め、ついでにカーテンも勢い良く引く。
薄いレースカーテンと小花柄の白いカーテンを押さえるように握り締めていると、そこに智哉の影が映った。
「あー……昨日は、その……。あのどうしても、話したくて」
――なら、早く話してよ!――
耳を澄ませる朔夜。しかし、聞こえてきたのは智哉の言葉では無く、大きく響き渡るくしゃみだった。
話を始める気配も部屋に戻る気配も無くくしゃみを続けるだけの智哉に痺れを切らし、朔夜は仕方無く窓を開ける。
「とりあえず、入って」
「はい……くしゅ!」
「……もう、少し外に出たくらいで何よ」
「いやいや、五月にもなってこんな寒いのがおかしいんだって」
部屋に招き入れられた智哉は朔夜がクローゼットから引っ張り出した毛布にくるまり座り込んだ。
「まあ今朝は寒い方だけど……今そんな状態じゃ、一月や二月は耐えられないわよ」
「どんだけ寒くなるんだよ……」
東京に暮らしていた智哉には、ここの気候は信じられないのだろう。朔夜は寒い寒いと言い続ける智哉に温かい飲み物を持ってくると言い残し部屋を出た。
――――――
「あら、おはよう」
キッチンには美沙子が立っていた。これから朝食を作る所らしく、調理台の上に食材が並べられている。
「ごめんねー、朝ごはんまだなの。なかなか寝付けなくて」
ふわあ、と欠伸をすると、美沙子はボウルの縁で卵を割り始めた。
「そんなのいいからもう少し寝たら? どうせパパだっていないんだし」
いつも食事はまだかとうるさい父親の篤は出張中だ。帰宅予定は今日の夕方、篤がいないだけで家の中は驚くほど静かになる。
「んー……でも、そうもいかないじゃない。智哉君が来て初めての食事だし」
歓迎の食事が朝食って、なんか変な感じ――朔夜がそんな事を思いながら小鍋に水を入れていると、美沙子が卵を混ぜる手を止めた。
「サク、何作ってるの?」
「ミルクティー。寒い寒いってうるさいから」
すぐに沸騰したお湯の火を一旦止め、中に砂糖と紅茶のティーバッグを放り込み蓋をする。ニヤニヤとしながら隣でフライパンを取り出す美沙子が独り言のように呟く。
「ちゃんと仲良くしてるのねー、智哉君の為にミルクティーをなんて……ねー」
「別に、仲良くなんかないわよ、ただ引っ越し早々風邪ひかれても困るなと思って」
その言葉にも美沙子は「ふーん」「はーん」と答えるだけだ。
「違うってば、もう!」
朔夜は出来上がったミルクティーをカップに注ぎ入れると、逃げるように二階へ向かった。
0
あなたにおすすめの小説
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる