14 / 33
幕間__SS
SS4
しおりを挟む
また彼女の姿を見かけなくなる。まさか、結婚して引っ越したのか? アイツと? 彼女が幸せならそれでいいと思う。でもあのため息をついた表情が忘れられない。
諦めと惰性で続く日々は虚しい。こんな俺のどこがいいのか女が寄ってくる。そういえば、再会した彼女はタバコを吸っていなかった。止めたのか。子供ができたのか? あの男の? いや、カフェインを摂っていた、違うか、考えすぎか。ますます目の前の女に、こんなことをしている自分に嫌悪感を抱く。それに気がついてからは、もう別の女を抱きたいと思えなくなった。
いい加減諦めるべきだと思う。昔なら結婚して子を持って初めて一人前だ、みたいに言われた。さすがに面と向かってそんなことを言う連中は、今は、この会社にはいない。決心して書類仕事を終え、店を出る。
なのに、彼女は俺に忘れさせてくれない。駅の方へテクテクと歩く彼女を見つけた。俺の前を通り過ぎた。
ギョッとした。いい年の大人が5年もすれば老い衰える、いやそう言うことではない。目の下にはくっきりとここ数日でできたとは思えないクマがあった。それ以上に、今にも泣き出しそうで、辛そうで、でも歩調は怒っているかのようにツカツカと歩き、ふと歩調を緩め、ため息をつくその表情が痛々しかった。いつも座っている彼女を見るか、俺が座っている状態で彼女を見るかしていて知らなかったが、だいぶ小柄な体型だ。
なんとなく、彼女のかなり後を歩く。すぐ後ろにいた男を振り返り、先へ通す。まあ、たまたま同じ方向だったとしても女の後ろをあんなぴったりついてたら、女は警戒するだろう。
裏道というような狭い道に入り、こじんまりとした品のいいレストランやバーのある一帯へ来る。1軒のバーの前で立ち止まり意を決したように、大きく深呼吸してドアを開けた。
彼女が入ってもしばらくその場に立ちすくんで、どうしようか考えた。待ち合わせ、アイツと? いや、彼女の指輪は銀色の元のに戻っていた。え、ならこれってチャンス?
俺もドアを開け、中に入る。
彼女の背中側のソファ席で静かに酒を飲む。なかなかいい雰囲気の店だ、よく知ってるな。ほぼ真後ろに座ってしまったため、彼女の表情はうかがい知れないが、それほど酒が進んでいる様子はない。
カウンターの反対端にいた男が席を立った、と思ったら彼女に近づき、何やら話しかけている。そうか、待ち合わせか。
なのに、待っても相手が来る気配がない。彼女もスマホを取り出し時間を気にしている。もう一度男が彼女に近づいた。男の顔を眺める。感じが悪い。下から覗き込むように相手の反応を窺うその視線が自信無げなようで無性に腹立たしい。ああ、あの男アイツに似てるんだ。……イライラしていたところ、男が彼女のすぐ隣に座り込みタバコに火をつけた。
彼女の、今にも泣き出しそうな声が聞こえ、気がついたら彼女に触れようとしていた男の手首を掴み、カウンターに押さえつけていた。
彼女の待ち合わせの相手には、場所の移動を伝えればいいだろう。でも相手が来るまで独りぼっちにさせるのは気がひける。
そう思ったのに、彼女が手を握り、腕に抱きついて来る。これはどういうこと? 待ち合わせはあの男を追っ払う口実? 単純に行動を理解していない? 小さな体をギリギリまで近づけられる。見上げ、俺の目を覗き込む。縋るような視線だ。
触れていない体温が伝わって来る。
理性での抵抗をやめ、そっと彼女を抱き寄せた。
諦めと惰性で続く日々は虚しい。こんな俺のどこがいいのか女が寄ってくる。そういえば、再会した彼女はタバコを吸っていなかった。止めたのか。子供ができたのか? あの男の? いや、カフェインを摂っていた、違うか、考えすぎか。ますます目の前の女に、こんなことをしている自分に嫌悪感を抱く。それに気がついてからは、もう別の女を抱きたいと思えなくなった。
いい加減諦めるべきだと思う。昔なら結婚して子を持って初めて一人前だ、みたいに言われた。さすがに面と向かってそんなことを言う連中は、今は、この会社にはいない。決心して書類仕事を終え、店を出る。
なのに、彼女は俺に忘れさせてくれない。駅の方へテクテクと歩く彼女を見つけた。俺の前を通り過ぎた。
ギョッとした。いい年の大人が5年もすれば老い衰える、いやそう言うことではない。目の下にはくっきりとここ数日でできたとは思えないクマがあった。それ以上に、今にも泣き出しそうで、辛そうで、でも歩調は怒っているかのようにツカツカと歩き、ふと歩調を緩め、ため息をつくその表情が痛々しかった。いつも座っている彼女を見るか、俺が座っている状態で彼女を見るかしていて知らなかったが、だいぶ小柄な体型だ。
なんとなく、彼女のかなり後を歩く。すぐ後ろにいた男を振り返り、先へ通す。まあ、たまたま同じ方向だったとしても女の後ろをあんなぴったりついてたら、女は警戒するだろう。
裏道というような狭い道に入り、こじんまりとした品のいいレストランやバーのある一帯へ来る。1軒のバーの前で立ち止まり意を決したように、大きく深呼吸してドアを開けた。
彼女が入ってもしばらくその場に立ちすくんで、どうしようか考えた。待ち合わせ、アイツと? いや、彼女の指輪は銀色の元のに戻っていた。え、ならこれってチャンス?
俺もドアを開け、中に入る。
彼女の背中側のソファ席で静かに酒を飲む。なかなかいい雰囲気の店だ、よく知ってるな。ほぼ真後ろに座ってしまったため、彼女の表情はうかがい知れないが、それほど酒が進んでいる様子はない。
カウンターの反対端にいた男が席を立った、と思ったら彼女に近づき、何やら話しかけている。そうか、待ち合わせか。
なのに、待っても相手が来る気配がない。彼女もスマホを取り出し時間を気にしている。もう一度男が彼女に近づいた。男の顔を眺める。感じが悪い。下から覗き込むように相手の反応を窺うその視線が自信無げなようで無性に腹立たしい。ああ、あの男アイツに似てるんだ。……イライラしていたところ、男が彼女のすぐ隣に座り込みタバコに火をつけた。
彼女の、今にも泣き出しそうな声が聞こえ、気がついたら彼女に触れようとしていた男の手首を掴み、カウンターに押さえつけていた。
彼女の待ち合わせの相手には、場所の移動を伝えればいいだろう。でも相手が来るまで独りぼっちにさせるのは気がひける。
そう思ったのに、彼女が手を握り、腕に抱きついて来る。これはどういうこと? 待ち合わせはあの男を追っ払う口実? 単純に行動を理解していない? 小さな体をギリギリまで近づけられる。見上げ、俺の目を覗き込む。縋るような視線だ。
触れていない体温が伝わって来る。
理性での抵抗をやめ、そっと彼女を抱き寄せた。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる