英雄たちはもう一度。

鼓月幸斗

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青年は森へ向かうために。

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「魔王……今更そんな、五百年も経ってるのに?」

『俺達は封印しただけだ、倒せていない。それに……ここまで俺達の時と同じ悲劇が起こるなら魔王を疑いたくもなる』

「それなら魔王の復活を広めないと……いや、信じないな……少なくとも一介の学者が何の裏も無しにただ「魔王が復活する!」なんて言ったら僕は変な思想を植え付けられたと思う」

 エクトは起き上がると体の調子を確認する、腕を回す限り調子は万全に近い。

『頼む……これが杞憂だったら謝る、だがせめて原因だけでも知りたいんだ』

 頭を下げる五百年前の英雄に、エクトは彼が本気だと悟った。

「頭を上げて、そもそも僕も受けようと思ってたし」

『エクト……ありがとう』

「さて、依頼にあるのは不滅の森……僕はここがエルフが管理する場所以上の事を知らない。カナカは知ってる?」

『不滅の森か、昔はこんな名前じゃなかった気がするが……ここはエルフの英雄、ヴァルトが生まれた場所だ。特に排他的主義のあいつらからあのヴァルトが生まれたのは奇跡だな』

 そう言うとカナカは難しい顔をする。

『それで情報だが……俺もあいつから又聞きしただけだからな、よく知らない。わかるのは森にあるエルフの集落には結界が貼ってあって、認められた奴以外はお偉い王様でも入れないとか』

「……どうやって調査しろと?」

『集落は森に比べてそれほど大きくない、森自体は調査できる筈だ』

「そうだね……知識のない二人が頭を捻ってもしょうがない、確かイニィーツィオは大図書館があった筈だ。不滅の森に関する資料もあるかもしれない」

『それなら今日は最後の休息だ、それまでいつもの特訓も休みだからしっかり寝ておけよ』

「う……わかった」

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「―――――さて、返事はどうする?」

「受けるよ、報酬もきっちりね」

「そうか、様子を見る限り吹っ切れたか?……まぁ、本気で決めたならそれはそれでいい」

「あ、その前に行きたいところがあるんだけど……」

「構わないと思うが、どこだ?依頼を受けた以上遠出は厳しいと思うが」

「イニィーツィオには大図書館があった筈だけど、そこに行きたいんだ」

「……確か、西にあるやつだな。案内が居るなら警備隊に連絡するぞ?」

「頼めるなら、この都市にはあまり詳しくなくてね」

 そう言うとドクターは備え付けられている受話器を手に取りどこかへと話し始めた。

「――――はい、案内を。――えぇ、そうです。――――イニィーツィオ図書館に行くようです。―――――はい、はい……では」

 話し終えると受話器を置き、こちらに結果を伝えてくる。

「一時間以内に来るそうだ、それまでに準備でもしておくといい」

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「イニィーツィオ警備隊隊長、ザラ・アパルです―――昨日ぶりですね」

 きっかり一時間後、ザラは重苦しい金属鎧では無く軽量な革鎧を着こみ現れた。

「昨日ぶりです……けど、警備隊隊長なんじゃないんですか?忙しいんじゃ」

「隊長というのは案外時間的余裕があるので、それに貴方の護衛担当も私になりましたので」

「護衛?」

「えぇ、学者や研究職といった方を一人で調査に行かせるわけないでしょう?……その顔、まさか一人で行くつもりだったんですか?」

「き、聞いただけですよ」

 そのまさかだったがエクトは呆れられそうな気がしたので何も言わない事にした。

「まあいいです、イニィーツィオ図書館へは魔導列車に乗るのが早いですが……フィーネ通貨は持ってますか?」

「あー……ちょっと待って……」

 エクトはコートに手を入れるふりをして魔法を使い、異空間の中を確認する。

 しかしどこにもない、少なくとも4か国分の通貨は持っているのだがフィーネ通貨は無い様だった。

「無いです……」

「わかりました、今回は建て替えましょう。なに、依頼の報酬から頂きますので大丈夫です」

「すいません……」

『通貨が統一されてたらいいのにな』

「全くだよ……」

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 気を失っていた間も合わせると一週間ぶりの外の空気だ。

 イニィーツィオという都市は、世界中で見ても比較的発展している都市でありフィーネ国内では最大の都市である。

 魔術とは学術の一種であり、他の分野に比べ特に強い熱量を持って研究される分野でもある。特にこの都市では魔力を利用する道具を研究する魔術工学に長けており、その影響は街中に設置された魔力灯や都市を走る魔導列車が物語っていた。

「凄い栄えているな……」

「四百年続いている国の中心、それがイニィーツィオ大都市です。ここ最近は特に目覚ましい発展が見られますね、とはいえ治安が良くなったわけではありませんが」

 先導するザラに続いて歩くエクトは、視界に映るカナカがいつになく興奮しているのを感じていた。

『おお!あれはゴーレムか!?すげぇなあの大きさを制御できるのか!お!あの機械はなんだ!?』

「と……所でザラさん?昨日に比べて今日は軽装だけど理由でも?」

「あの鎧は警備時の制服です。目立つし警備隊がいる、という意志表示になるので治安維持には良いんですよ、重いですし蒸れますけど。今回は個人の護衛なので脱いでます、それに私……実は鎧を着たまま動くのは得意じゃないんですよ」

「制服……確かにあれだけの鎧を着てる人は騎士でもない限りそうはいないか……」

「そろそろ停留所です、ここから図書館までは列車で十分ほどですね」

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『最っ高だったぜ!今の時代はすげぇな!座ってるだけであっという間についちまう!馬車なら俺の時代にもあったがここまで早くて静かじゃないからな!』

「(全然休まらなかった……)」

 子供のようにはしゃぎ続けるカナカに無駄に気力を削がれたエクトにザラは不思議な顔をしていた。

「こちらがイニィーツィオ図書館です、全五階層からなる大規模な図書館でフィーネ国だけでなく殆どの国の書物が読めると言われています」

 エクトは思わず見上げる程の大きさを誇る図書館に感嘆の声が漏れる、周囲にある建物の数倍はあるだろう。

「ここに入館するには一定の入館料か特別な会員証が必要ですが、今回は警備隊に支給されている会員証を使いましょう。二人までならゲストとして扱われるので安心してください」

「ありがとう、早いうちにフィーネ通貨も用意しておかないとな」

『二人までって事は俺も無料か、太っ腹だなイニィーツィオ!』

 館内に入ると心地よい涼しさを感じた、どうやら魔術によって空調を管理されているようで相当金がかかっている等と思ってしまう。

 ザラが受付で用意した会員証を見せると二人にそれぞれ魔術が施されたリストバンドを渡される、説明を聞く限り盗難防止且つ簡易的な検索機能が付いているようだった。

「それで、やはり不滅の森についてしらべるのでしょうか」

「そのつもり、後は一応エルフについて書かれた本を幾つか読んでおきたいな」

 エクトは早速リストバンドを使って検索すると、凡そ100冊程の関連本が見つかった。

「……これとこれと……これかな。ザラさん、三時間後にこの場所に集合でいい?」

「ええ、わかりました。ですがなるべく近い位置に居ますので何かあれば呼んでください」

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 二時間後、エクトは備え付けのテーブルに何冊もの本を並べながら紙に書いて情報を整理していた。

『それで?もう二時間経つけど何か見つかったか?』

「色々調べたけど、役に立ちそうなのは三つ。あの森は中心に近づく程魔力濃度が高くて、下手に近づきすぎると魔物になってしまう可能性がある事。」

『ほう、エルフは魔力の許容量が多い種族だ。あれなら魔物にならずに中心にいれるって事か』

「二つ目だけど、結界は認識阻害の類みたいだ。この『不滅の森にエルフはいるのか』という本の著者が五年に渡って不滅の森に挑戦していたけどついぞ集落には行けなかったらしい」

『物好きもいたんだな、しかし物理的な障壁ならまだしもこういうのは何処から結界の範囲か認識しずらいのが厄介だ』

「で、三つ目だけどあの森、燃えないらしい」

『うん?どういう事だ?』

「こっちの『森林白書』に不滅の森についての記述があるんだけど、一度あの森で迷った人間が狼煙の為に火を放ったらしい。だけど火が木々に燃え移る前に突然、魔力を多量に含んだ雨が降り出して鎮火したという事例があったと。森に精霊でもいるのかなんて仮説もあるけど、とにかくあの森は燃えないらしい」

『精霊か……今の時代だと滅多に姿を見せないんだったか、とにかくあの森は燃えないと。それで、何か糸口は見つかったか?』

「まず魔力濃度の対策だけど……こっちは思いついた、後は結界だけど……そもそも僕らの任務は不滅の森の調査、こっちはエルフが偶然結界の外にいる事を期待しよう」

『まあ、遠回りだがそっちの方が楽か』

「そろそろ集合地点に戻ろう、ザラさんを待たせる訳にはいかない」

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「時間通りですね、満足のいく結果にはなりましたか?」

「ええ、道中話そう。それともう一箇所行きたい場所が出来たんだけどいいですか?」

「大丈夫ですよ、行きましょうか」

 用事が出来たというエクトが、ザラの案内の元訪れたのは―――

『魔道具屋?てっきり防具店にでも行くのかと思ったぜ』

「ここがイニィーツィオで一番有名な魔道具店、『ナーサリー魔道具店』です。携帯照明や簡易着火器、即席テントもなんでもござれ……がコンセプトですね、私もお世話になってます」

 ナーサリー魔道具店と書かれた店舗は中々大きく、扉を行き交う人々から相当繁盛していることがわかる。

「ナーサリー魔道具店……ナーサリー?どこかで聞いたような……」

 エクトが首を傾げているとザラは率先して扉を潜っていく。

 慌ててエクトが追いかけると既にザラが店主らしき女性と会話をしているのを発見した。

「成程ね?あんたの護衛対象ってのは……」

 変わった見た目の女性だった、ショートヘアーは頭頂部から毛先につれ赤から青に染まっていき、両目はオッドアイか、同じく赤と青の目がこちらを覗いて来る。他のエプロンを纏い忙しそうな店員と比べると服装も作業着の様になっておりなにより店の隅っこでザラと雑談をしていた。

「ああエクトさん、紹介しますね、こちら私がお世話になっている店長の―――」

「マリィ・ナーサリー。魔術工学の権威で魔導列車の設計者ですね」

「おお?今時あたしを知ってる奴がいるのか……エクトっつったな。知ってるぜ、若き歴史学者でもう結果を幾つも残した奴だろ、あんたの論文読んだことあるぜ、暇つぶしだったけど。ジジイばっかの学者達ん中では随分と若いから記憶に残ってるぞ」

「それはどうも……所でマリィ・ナーサリーと言えば70を超えた老人と聞いてたんだけど……」

「あぁ、間違ってないぜ?ただちょちょいっと金にモノを言わせて意地汚く生きてるだけさ。まだまだ作りたいものがあるんでね」

 からからと笑いながらナーサリーは笑う、しかしすぐに職人としての顔になるとエクトに問いかけた。

「さて、有名人がウチに来たんだ。真面目に接客しようとしますかね?何が欲しくて来たんだい?」

「これから不滅の森に調査をしに行くんだけど、魔力濃度を対策したいんだ」

「ふむ、それなら……アン!ちょっと来な!」

 言われてやって来たのは赤い髪をしたショートヘアーの少女だった。

「孫のアンだ、あたしと違ってできた子だよ。アン、確かあんたが作ったマスクがあっただろう?持って来な」

「え、でもおばあ様、あれは試作品でお客様に出せるものでは……」

「なに、この二人は変わった客さ。ちょっと壊れてても問題ない」

「いや壊れてるのは流石に……」

「……わかりました!持って来ますね!」

「わかりました??」

 そうして店の奥に引っ込んだアンは、すぐに全面ピンク色のマスクを二つ持ってきた。

「どうぞ!私の作った「マジックフィルター(仮)」です!」

「わぁ、すっごいピンク」

「この子、大のピンク好きだからねぇ。性能は保証できるよ」

 エクトとザラはマスクを受け取る、鼻から下をすっぽり覆うマスクは、内部に機械が組み込まれているのか少し厚く、何故か猫の口を模したデザインが描かれていた。

「わ……私はこういう可愛いものは……」

「似合いますよ?さあどうぞ!」

 エクトは少し、ザラはかなり躊躇ったがいざ着けると思った以上に快適だった。

「ぶふっ……どうだい?」

「少しは息苦しくなると思ってたけど……それほど重くないし何より声がこもらない」

「最低限の耐久性もありそうですね、それに常に新鮮な空気を吸っている気もします」

「そうなんです、それは周囲の魔力を吸い取って装着者の魔力吸収量と空気を調整するんです。高山や不滅の森といった場所でも問題なく呼吸でき、まだ構想途中ですが将来的には水中でも使える様にしたいんですよ」

「それにそいつの燃料は……ま、魔力だから……ふっ……魔力濃度が薄い場所でもない限りずっと使えるんだよ……あはははは!真面目なのに猫の顔とか駄目だ面白すぎる!」

 爆笑するマリィにザラは顔を赤くして外し、続いてエクトも外した。

「それで……!これは幾らなんですか?」

「試作品だからね、値段は開発者が決めるべきさ、アン?」

「えっ、そ、そうですね……私としては誰かが使ってくれるならそれでいいんですが……じゃあこれで」

 アンは指を五本立てるとザラは少し苦い顔をした。

「む、五万ですか。予想はしてましたが財布には……一万足りません」

「いえ、五千でいいですよ?」

『安っ!?俺の時代だとこんなもん十万でも買えないぞ』

「いいの?」

「はい、それほど苦労したものでもないですし……それに高すぎて誰も使わなかったら悲しいですし」

「わかりました、それではこれで二人分です」

「ありがとうございます!」

「初めて売れたじゃないか、アン。良かったさね」

「それじゃあザラさん、出発しよう」

 エクトはザラからマスクを受け取ると店を後にする。

「待ちな、エクト」

「はい?……っとと!」

 突然筒の様な物を投げ渡されたエクトは驚いて受け取ると、マリィは腕を組んで笑っていた。

「それは餞別さ、これからウチを贔屓にしてくれるならサービスしてやるよ」

「勿論……けどこれは一体?」

「説明書も入れてる、後で読みな」

「ありがとう、それじゃあ今度こそ!」
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