英雄たちはもう一度。

鼓月幸斗

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青年達は王に打ち勝つ。

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「『複製せよ』『併せて』『射出せよ』」

 オリリアが飛び降りながら魔術を唱える、背負った一本の矢は二つ、四つ、八つと増え十六に増えた矢は一本を除いて宙に浮き、まるで見えない弓に引かれたかのように放たれた。

「BOoooooo!!!!」

 ただの鹿からはありえない、汽笛と間違える様な声を上げる森の王は角を地面に突き刺すとそのまま土の礫を空へ放つ。

「っ……」

 オリリアはワイヤーを伸ばし、空中で軌道を曲げ礫を避けるが矢は全て撃ち落された。

「『我が理想よ!その光を小さき剣に!』」

 剣を薄い光で覆ったザラは、背後から森の王を斬りつける。

「か……硬い!?」

 しかし、魔力で剣を鋭くして尚ザラの剣技は森の王に届かなかった。

「BoooOOOoo!!!」

「くっ……!」

 後ろ蹴りを放たれたザラは剣で防ぐが、その一撃は酷く重い。

「はあッ」

 ワイヤーを使い、足を絡めとろうとするオリリアだが暴れ続ける森の王の足を奪うのは至難の業だった。

「十秒欲しい、止めて」

「承った!『我が栄光!!何人もその目を逸らす事は出来ず!!!』」

 ザラから放たれた輝かしい光はどこまでも眩く、暴走する森の王の怒りを買うには十分だった。

「BOoooOOO!!」

「来いっ!!」

 殺意を持った角の一撃をザラは受け止めるが、地面を抉り取りながらも森の王は止まる事無く、そのままその角で貫こうと前進を続けている。

「ぐ……ううぅぅ……!!」

「『凍れ、凍れ。宙の温度。冷たく、寒く、どこまでも。いつか見た蒼い夢の様に』……離れて」

 詠唱を終えた瞬間、森の王より何倍も大きい氷塊が地面から花の様に咲き誇り、森の王は素早く飛び退いたザラを追いかける事も出来ず、氷の檻に閉じ込められた。

「こ……これがエルフの魔術……!」

『私の教えた魔術だ、当然だが……オリリア!拘束の準備だ!』

「了解、ザラ、構えて」

「っ、ああ!」

 二人が構えた瞬間、氷の中の森の王とザラの視線が合う。そしてザラが剣に魔力を纏った瞬間、氷塊に罅が入り森の王は飛び出した。

「森の王と呼ばれてる訳だ、強さが違う!!」

 森の王が再び突進してくる直前、ザラは剣を突き出し相殺した。

「やっ!」

 ザラが受け止めた瞬間、オリリアがワイヤーを放ち森の王の後ろ脚を縛り付けるとそのまま木を利用して勢いよく引っ張った。

「BOOOOOOOOOO!!!」

 森の王はたまらず転倒すると、その動きを僅かだがその場に止めた。

『今だ!エクト!』

「行ける……いける行ける……よしいくぞ……行くぞぉ!!」

 エクトは木の上から飛び降りる、森の王の頭部に向かって。

「うおおおぉぉぉ!!!!」

 エクトは手を前に突き出し、何かを抱える様な姿勢になると魔法を使う。

「BOooo!?」

 突然現れた丸太に目を丸くした森の王は、防ぐことも避ける事も出来ずただ落ちてくる質量を眺めているだけだった。

 鈍い音と共に森の王は容赦ない頭部への直撃で地面に倒れ伏した。

「ぐえっ!?……痛……たた」

「大丈夫ですか!?急いで治療を……!」

「だ、大丈夫。怪我はしてないよ、それより森の王は……」

 エクトが立ち上がり、森の王を見るとヴァルトが近くに寄り何かを確認していた。

『何してんだ?』

『原因を探ってるに決まっているだろう……オリリア、こっちへ』

「うん」

『土と水の複合、流動と浄化だ。いけるな?』

 ヴァルトの言葉にオリリアは無言で頷くと、詠唱を開始する。

「『土の温もり、水の安らぎ。交わり芽吹くは癒しの華。』……ぽい」

 ぽたりと、一滴の雫が森の王に降りかかると黒い靄のような物が森の王から抜け出し、森の王から静かな寝息が聞こえてくる。

 ヴァルトはぐるぐると森の王の周りを飛び、何かを確認している。

『困ったな……』

「?」

『ああ、心配するなオリリア。森の王は大人しくなった、それは間違いない』

『じゃあ何に困ってんだよ』

 オリリアが首を傾げるが笑ってヴァルトは答える。では何に困ったのかとカナカが問うと

『あの黒い靄、あれが森の王が暴走した原因だろう。が……あれが何かがわからない、暴走の原因は取り除かれたが暴走の原因はわからないままだ』

『そりゃあれは……ん、確かに何だ?あれ』

「知らない?」

『魔王が生きてた頃、俺達もこういうトラブルは何度もあったけど……こんなのは初めてだな』

『仮に魔王が原因だとしても、儂らの時とは違う事が起きているかもしれん。カナカ、儂らも気を引き締める必要があるかもしれんぞ』

『わかってるよ……お、こいつ目覚めたみたいだぞ』

 目を覚ました森の王は、ゆっくりとその体を起こすとエクト達を順に見渡し、最後にヴァルトとカナカに目を合わせる。

『……おい、もしかして見えてんのか?』

『儂らは既に死した身だが、この世にこうして干渉している……魔獣ともなれば少なからず認識だけでも出来るのかもしれんな』

「うわ……な、何?」

 突然、森の王はエクトに近寄るとその目をじっと、見つめてくる。思わず見返すエクトだったが、森の王の眼は暴走していた時と比べ穏やかに見えた。

 暫く見つめ合っていた一人と一体だったが、森の王は突然踵を返すと何度もこちらを振り返ってきた。

「もしかして……ついて来いと言っているのでしょうか」

「ついてく?」

「もう暴走はしないみたいだし……行ってみよう」

 ・
 ・
 ・

 森の王に従い不滅の森を歩いていると、見覚えのある木に気が付いた辺りでエクトは察した。

「ここは……バータルア村?」

 森の王は躊躇いなく門の前に飛び出すと門番のエルフ達は驚きながらも武器を構える。

『も、森の王!?まさかあいつらがやらかしたのか!?』

「やっほー」

 門番は森の王の後ろに居るオリリア達に気が付くと、安堵したような表情と共に武器を降ろした。

「ま、まさか森の王を連れてくるなんてな……という事はもしかして……」

「なんとかした、いえい」

 あまり変わらない表情でピースをするオリリアに、門番達は慌てて村長を呼びに向かった。

「しかし、たった三人で鎮めちまうとはな……オリリアはまあ知ってたが人間も大概ヤバいな……」

「あ、村長だ」

「おぉ、おぉ……何と……森の王を本当に鎮めたのか……」

「村長さん、森の王について報告したい事が」

 そして村長の家に移動したエクト達三人は村長に森の王に憑りついていた何かについて話をした。

 尚その間森の王は家の前で待っていた。

「黒い靄……それが暴走の原因だと?」

「はい、それで心当たりか何か、あるでしょうか」

「いや……四百年生きて来たがそんな話は聞いたことが無い。だが事実森の王は暴走し、それが取り除かれてから鎮まった……そうだな?」

「はい、まるであの黒い靄に憑りつかれたかのような感じでした」

「……

「は……はい?」

「まだ考える事は残っているが……お主ら二人は何であれ我らの問題を解決してくれた。それには相応の礼を示さねばならない」

 そう言うと村長は二人にそれぞれペンダントを手渡す、そのデザインはオリリアが持っているものとよく似ていた。

「それは我らバータルア村のエルフが客人として認めた者の印、それを持っていれば結界に阻まれずここに来れる。それに他のエルフにも悪い印象は与えないだろう」

「わあ……ありがとうございます」

「ありがたく頂戴します」

 二人が礼をした時、家の扉の隙間から森の王が覗いてきた。

「うわっ、びっくりした」

「そ、そういえば忘れていましたが結局どうして森の王はここへ連れて来たのでしょう?」

 ザラが首を傾げるとまた森の王はついて来いと言わんばかりに歩き始めた。

「あれ、村長もついて来るんですか?」

「森の王が人に干渉するのは初めてだからな、何があるか見てみたいというものよ」

 ・
 ・
 ・

 そこは泉だった、森の中にある開けた空間。そこは森の王と共に訪れるまで誰も気づくことの無かった隠された場所だった。

「こんな所があったとは……」

『驚いた、儂もこんな場所があったとは知らなかった。結界でも張られていたのか?』

「あ、見てください。あそこに何かありますよ」

 ザラが指した先は、泉の奥にある小さな空間だった。

 綺麗な円を描く様に地面が整地されており、中心には一本の蒼い槍が刺さっていた。

 森の王は槍に近づくと口で咥え引っこ抜き、エクトの目の前にそれを置いた。

「……くれるのか?」

「村長さん、あの槍が何か知ってますか?」

「ううむ……槍にまつわる伝説は聞いたことが無い、しかしあの様子を見るにただの武器でも無いのだろう」

「でもこんな重そうな物……っとと!?軽いっ」

 エクトは槍を受け取るとその槍の軽さに思わずよろめきそうになる。

『ヴァルト、お前でも知らないのか?あの槍』

『魔術はともかく武器は専門外でな……しかし、エクトの反応と魔力を見る限り素材は推測できる。魔力を多分に含み金属とは思えない軽さを持つ鉱石……ミスリルだろう』

「ミスリル?」

「わかるんですか?オリリアさん」

「師匠が言ってる」

「ミスリルは魔力を他の鉱石より多く含む鉱石の代表みたいなものだ、……代表とは言ったがそもそも魔力を多く含む鉱石自体希少だが……それはお前さんが持っていくと良い」

「良いんですか?」

 村長がそう言うとエクトは躊躇う様に聞くが村長は鼻で笑うと

「はっ、森の王が直々にお主に渡したのだ。それを奪うなどできようか」

「それなら……うん?」

「エクト、どうしたの?」

「なんか……よく見たら柄に文字が……」

 エクトは蒼い槍の柄に文字が書かれているのを発見するが、それはエルフの文字でも人間の文字でも無かった。

「これは確か……ドワーフ文字だ、以前僕が訪れた街で見た事がある」

『ドワーフ文字?エルフの住む森で?』

『ドワーフか……製作と金属を愛する小さな種族だ、ミスリルを加工するのも容易という事か』

「なんと書いているんですか?」

「えっと……間違ってないなら『リウム・ガーネット』って書いてる、製作者かな?」

 その名前に、二人の英雄が反応した。

『『ガーネット……だって(だと)?』』

「師匠知ってるの?」

『リウムという名は知らないが、ガーネットは……儂らの仲間、つまりドワーフの英雄ミネルの姓だ』
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