〜異世界自衛官〜戦闘経験ゼロですが、89小銃で無双します!!

木天蓼

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序章 陸上自衛官。日本一

状況開始。

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「現在時刻マル0ナナ7ニィ2ヒト1。……状況開始」

 日本時刻七時二十一分。無線機から聞こえるノイズ混じりの音声が戦闘開始の合図を送る。
 むき出しの地面の上には壮観とも言える多種多用な戦闘車両が並んでいて、それらは状況開始の無線と共に一斉にエンジン音を響かせる。
 唸る戦車の排気音がドス黒い煙とともに空へと吹き出す。
 上空には戦闘ヘリが飛び、風切り音という生易しい表現では無い爆音を轟かせる。
 装輪装甲車が駆動音を響かせながら前に進む。百メートルほど進み急停止すると車両後部のリアハッチが軋んだ音と共に開き始める。ゆっくりと開いたハッチは地面と水平の位置にて止まり中からは完成武装の屈強な男達が現れる。男達の手には様々な大きさの銃火器が握られていた。

 オーソドックスな形をした自動小銃アサルトライフル

 リンク弾をぶら下げる小銃よりやや大きな軽機関銃ライトマシンガン

 自動小銃を手に握り、背中に背負うは個人携帯対戦車弾パンツァーファウスト

 腰に拳銃ハンドガンを装着し、肩に背負う形で持つのは携帯型無反動砲カールグスタフ

 身に着けているのは銃火器だけではない。鉄板を仕込んである防弾チョッキも身につけている。
 常人ならばとてもでは無いが、走ることはおろか動くことすらままならない。
 だが、そんな重い装備にも関わらず、彼らは装甲車から降りた後一度も止まることなく走り続ける。


「分隊、横隊に展開。配置に着き次第射撃準備。……分隊目標正面のてき。各個に撃てぃッッ!」

 隊長の号令で男達は縦隊から横隊へと素早く展開し、速やかに射撃姿勢をとる。
 一瞬の間を置いたのち、彼らの持っていた火器から一斉に銃火が放たれる。
 曳光弾えいこうだんが描く赤く白い光の線が目標の的にまっすぐ向かう。まるで空に輝く数多の流星群のように光の帯を作りだした弾丸は、目標物を無慈悲にも、跡形もなく、粉微塵にする。

「分隊、撃ち方めぃッッ! 対戦車火器、前へ。分隊は横隊のまま左右に展開」

 隊長の指示と同時に銃火は止まり、先程までの激しい銃声音が嘘のように場は静まりかえる。
 あまりにも静かになりすぎて、早朝の鳥のさえずりが聞こえてきそうな程だ。
 分隊員が移動する足音だけが聞こえ、二種類の対戦車火器が前に出る。

「個人携帯対戦車弾! 目標三百五十の的。準備出来次第撃て」

「後方良し! 準備良し!」

「良しッ。撃てッッ!」

 瞬間、耳を塞ぎたくなるような爆発音が鳴り響く。鼓膜を守るための耳栓を着けてなければ間違いなく聴覚は失ってしまうと思えるほどの爆音だ。

 筒状の先端に付いていた弾薬は爆発と共に目標へと飛んでいく。弾頭からは四枚の翼が生える。先端から長く伸びた筒状の突起の四枚の翼によりさながら鳥が飛んでいるようにも見えた。
 だが、それを認識できるのは一瞬だけ。
 弾頭はあっという間に目標物へ命中し爆発する。無論、その爆発で目標物が無事であるはずが無い。弾着した周辺は爆発により吹き飛ばされ、跡には黒く焦げた地面だけが残っていた。

「射手、後方へ移動して待機。携行型無反動砲、前へ!」

 爆音の耳鳴りがまだ耳に残っているのだが、不思議と隊長の声だけは聞こえる。
 携行型無反動砲を持った大柄な者が前に出る。

「分隊員。更に横隊へと広がれ! もっと……もっと……良しッッ」

「後方良しッ! 無反動砲、射撃準備良し!」

「良しッ! 目標七百の的、準備出来次第撃て!」

「準備良しッ!」

「良しッ! ……撃てぇいッッ!!」

 耳をつんざくような爆音が衝撃波と共に鳴り響く。もし、銃で両手を塞がれていなかった躊躇いなく両手で耳を塞いだだろう。音とほぼ同時に上がった白煙が的を粉々に粉砕したことを告げていた。

「撃ち方止め! 安全装置かけぃ!」

「安全装置良しッ!」

「良し、撤収だ。車両に乗車ァッ!」

「了解ッ!」

 隊長の号令が耳に届いた瞬間、身体は動いた。横隊に展開していた分隊員は真っ直ぐに乗っていた装甲車へと向かい、乗り込む。
 一人、二人、三人と、続々と乗り込み、最後に号令を掛けていた隊長が乗り込む。

「良しッ。ハッチ閉めぃ。……オイ、オイッ!? 日本一・・・ッ! お前だよ、お・ま・え! ハッチを閉めろよ!」

「えっ、俺っすか? ……了解」

 俺は慌てて小銃を片手に持ち替え、空いた手でハッチを閉めるボタンを押す。
 ゆっくりとしまっていくハッチ。それに全く合わせず装甲車は動き出し反転する。すれ違いざまに眼に映るのは我が日本国が誇る最新式の10式戦車だ。その威圧的な砲身がいきなり火を噴き轟音が鳴り響く。

「ウッッッセェェェエッッ!」

「バッカ野郎ッッ! 早く閉めろや!」

 周りからは罵声混じりの非難の声が聞こえる。いや、戦車の砲撃音をモロに聞いたのだから聴力は一時的に無くなっている。あくまで聞こえた気がしただけだ。

先輩パイセン? 俺が閉めるんでイイっすよ!」

 目の前の男がボタンを押し、少しだけ開いていたハッチが完全に閉まる。外の騒音が聞こえなくなったお陰か、今度は装甲車の駆動音が聴覚を攻撃する。
 常人なら五月蝿くて何も聞こえないのだが、この車両に乗っているのは装甲車での移動に慣れた者ばかり、普通に会話をしている様子だ。中には銃を抱えたまますでに爆睡をしている者もいる。


 俺は耳に付けていた耳栓を外し目の前の男に礼を言うために顔を上げる。

 目の前にはまだ高校生ぐらいに見える童顔の若い男がいた。
 人懐こっい顔立ちで、憎めない性格のこの男を俺はよく知っている。

 西野正樹にしのまさき。俺の一期下の後輩だ。

「西野、サンキューな。助かった」

「イイっすよー、それよりパイセン? タバコくんねぇっすか?」

 西野は俺に向けて人差し指を立てる。俺は軽く笑って防弾チョッキのマガジンポーチに入れていたタバコを取り出す。
 マルボロのミディアム、周りからは臭いが不快いとよく言われていたが俺はこのタバコが好きだ。一本取り出し西野に渡す。
 西野はタバコを口に咥えると親指をしきりに動かし始めた。俺はその行動が何を意味しているのかすぐにわかったので懐からライターを取り出し火をつける。そして口から白く薄い煙を吐き出すと満足そうに笑う。

「あざーす、パイセンまじイイ人っすわー」

「調子良すぎだっての! ……まっいいや。俺もタバコ吸おっと」

 目の前で美味そうに煙を吐き出す西野に触発され、俺もタバコを口に咥え火をつける。一仕事終えた充足感からか、いつもより美味く感じる。喉に煙が引っかかり軽くむせると隣にいた屈強な体格をした男が鬱陶しそうに手で煙を払う。

 南野武久みなみのたけひさ。俺の三期上の先輩だ。

「あっタケさん、すんません……」

「お前ら……俺が禁煙中なの知ってんだろ?」

 イライラしているのか指で携行型無反動砲をトントンと叩いている。
 どこの組みの若頭ですか。っと思ってしまうほどイカツイ顔をしているが、意外にもゲーム好きで面倒見がいいのを俺は知っている。

「禁煙してどのくらいなんでしたっけ?」

「今日で二日目だ。……日本一・・・タバコ俺にもくれよ」

 俺は思わずガクッと肩を落としてしまった。舌の根も乾かぬうちとはこの事だろう。

 指を二本合わせて俺に突き出すタケさんは俺のことを真顔で見ている。面倒見は良いのだが、逆らうと怖いので黙って差し出す。
 タケさんはタバコを口に咥え火を点けると大きく吸い込む。チリチリと赤い光を放つと先端がみるみるうちに短くなっていく。
 深く吸い込み、白く濃い煙を吐き出すタケさんは苦い顔で俺を見た。

「まっずぅぅ……メンソールにしろよ」

「貰っておいてそれは無いんじゃ無いっすか?」

「あっ!?」

 ただでさえ強面の顔がさらに険しくなり俺は少しだけすくんでしまった。

「なんでも無いっすわ」

「あっそう。あー、不味いな……」

 危ない危ない、怒らせると怖いんだったこの人は。

 俺はそっと視線を外し、口から吐き出す紫煙の行方を目で追っていた。


「今日の訓練終わったな。日本一・・・、後でゲームやろうぜ?」

 タケさんは俺の肩を掴んで嬉しそうに笑っている。それとは対照的に俺は少しだけイラついた顔をする。

「タケさん、そのあだ名で呼ぶのやめてって言いましたよね?」

「あん? そうだっけか?」

「そうですよ……全くいいですか? 俺にはちゃんとした名前があるんですよ?」

 俺はそう言いながら胸の所にあるネームプレートを指差す。


「俺の名前は日本一ひのもとはじめ、断じて日本一にほんいちって名前じゃ無いんですよ!」


 日本一ひのもとはじめ。日本国でこの名前をもつ者は恐らく他にはいないだろう。

 俺がタバコを一本吸い終わるのとほぼ同じタイミングで、無線機からノイズ混じりの音声が聞こえた。
 甲高いハウリングが鳴り響くが、すでにそれよりも大きな音を聞いていた俺は耳を押さえずにただぼんやりと無線機の声を聞いていた。


「状況終了、状況終了。本日の訓練終わり、各隊は事後の行動にかかれ。繰り返す。状況終了…………」


 無線機の音声は、本日の仕事が終わったことを告げていた。

 俺はタバコの火を手でもみ消してポケットから取り出した携帯灰皿に入れ、同時に懐からスマートフォンとイヤホンを取り出す。訓練終わりの際に音楽を聴くのは俺の密かな楽しみの一つなのだ。

 聴く曲は最近巷で話題になっている、電子の歌姫の曲だ。機械の音声に人の感情が込められていてなんとも病みつきになる。
 車の揺れで持っている小銃を落とさないように抱きしめる形で固く握りしめ、俺は目を瞑った。
 早朝からの訓練で疲れた身体はそれだけで睡魔に侵され、やがて、俺は気を失うように深い眠りに落ちていった。
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