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第4章 ゴブリン退治
第28話 貴族と国家。
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第28話 貴族と国家。
「僕はゴブリンを狩りたいです」
僕の一言にみんな黙り込む。
それはそうだろう。
ゴブリンなんて銅級が戦えばいい弱いモンスター。
青銅級が相手にするには不足な相手。
ゴブリン退治はギルドでの評価が低いから、次の鉄級に昇格する為には非効率だ。
「ユキナ。気持ちはわかるがその考えは泥沼だぞ」
「どうしてですか?」
僕の発言を聞いていたシグレさんが言う。
僕はゴブリンに凌辱されて心と身体に傷を負った人たちを沢山見てしまった。
あんな犠牲者をもう出したくない。
その考えが間違っているとは思えない。
「ユキナはゴブリンの被害に遭う人を減らしたいんだね。ボクは賛成するよ」
ミレーヌは僕の意見に賛成してくれるようだ。
嬉しいけどミレーヌが鉄級になる機会を当分先延ばしにする事になる。
それをわかっていて賛同してくれた事が素直に嬉しかった。
「う~ん。それは一度は考える事だけどね。あたいも反対かな」
セシルさんが空になったジョッキを手で弄びながら答える。
シグレさんもセシルさんもどうして反対なんだろう。
僕の考えは間違っていない筈。
「ユキナとミレーヌは自分でゴブリンを100匹殺せると思うのか?」
シグレさんにそう言われると言葉に詰まる。
数匹なら自信があるけど100匹は無理だろう。
少なくとも今すぐは無理だ。
「確かに僕にその力はありません。ですが村の人たちを見殺しにはできないです」
「ユキナは真っすぐなのだな。その考えはとても良い事だがそれならユキナはもっと上を目指すべきだ」
どういう意味だろう。
僕はシグレさんの言葉の意味を考える。
「ゴブリンは冒険者になりたての銅級でも倒せるし、ちゃんと訓練した軍隊なら地域から掃討する事も可能だろう。だが奴らの繁殖力は凄まじい。ゴブリンを狩りつくす事など多分不可能だ」
「だからって村の人達を見殺しには出来ないです」
「それは王や貴族の仕事だ」
そう言ってシグレさんはアクラ酒の入ったジョッキを静かにテーブルに置いた。
それは僕を威圧するような置き方では無くて静かな置き方。
つまり僕の意見をちゃんと聞いてくれているという事だ。
「ゴブリンを狩りつくせずとも村の防衛を強化し、防衛のための兵士を配置すればゴブリンの被害は激減する。だが貴族も王もそれをしない。なぜならその金がない。兵士を守りにつかせる程の利益を村は領主にもたらす事はできない」
「そんな事はありません。街道を安全にすれば経済が潤って貴族にも利益が出る筈です」
「その前に貴族は村の防衛費で経済破綻する。ユキナの言いたい事はわかるし今までもそう言った意見はあったが、未だに実施されないのはそう言う事だ」
僕の持っている知識はこの異世界フォーチュリアでは通用しない。
異世界フォーチュリアは貧しい。
この世界には米や麦といった人口を支えるために不可欠な、栄養価が高くて収穫量が大きい作物は今の所存在しない。
また存在したとしても貴族特権で領地が細分化されていて大きな土地をもつ貴族は少ない。
王でさえ配下の貴族に収穫量が未知数の作物の栽培を強制出来ないし、王の領地で失敗すれば今度は王が権力を失う。
この世界には村人を守り支える経済力も軍事力も無いのだ。
ローマ帝国のように強大な国土と軍隊がいれば国境から蛮族を締め出す事も可能だが、その為に必要で不可欠な事がある。
戦争だ。
王権が弱いなら王が貴族を攻めて領地を奪い、直接統治できる国を作らなくてはいけない。
勿論貴族も反発してどちらが勝つにせよ長い戦乱になる。
当然村々は焼かれて被害者はゴブリンに襲われる比ではないだろう。
ゴブリン被害を減らすために領地を差し出す貴族など存在しない。
経済的、人道的理由で先祖代々受け継いだ権力を手放す馬鹿はいない。
貴族は武力で屈服させない限り言う事を聞かないのだ。
とかく戦争と言えば否定的な意味合いが強いが、人類にもたらした利益も計り知れない。
戦争が不幸を呼ぶのは当然だが、戦争によって土地が大規模に開発され豊かとなった事実も知られるべきだろう。
非戦主義の日本で生まれ育った僕は、入院中に読んだ歴史や好きだったシミュレーションゲーム知識があるので理解できたが、感情では納得できなかった。
「それではどうしろというんですか?」
「もっと強くなり、ゴブリンなど比較にならないモンスターを狩るんだ。村を襲うのはゴブリンだけではない。オーガなどゴブリンが10匹いても軽く蹴散らすくらい強い。オーガだけではない。他にも村や街、国さえも揺るがす災厄としか呼べないモンスターも多いのだ。小を見て大を忘れてはいけない」
「………」
僕はシグレさんを睨みつけてしまう。
それは大人の意見としては正しいと思う。
だけどゴブリンの被害に遭う人を見殺しにはできなかった。
睨む僕をシグレさんは真剣に見つめ返す。
威圧的じゃない。
僕を見る目がどこか懐かしそうなように見えるのはシグレさんも同じ気持ちになったからかもしれない。
「ま、今のユキナとミレーヌの実力じゃ大したことができないって事だよ。ユキナがもっと強くなれば今よりもっとゴブリンを殺す事ができる。青銅級のユキナが一度に戦えるゴブリンは精々5匹くらいだろ?鉄級のあたいなら10匹は軽く相手にできるね」
僕とシグレさんの会話にセシルさんが口を出す。
セシルさんはテーブルの上の皿からチーズを摘まみながらそう言って僕を見つめる。
セシルさんの目にも僕を威圧するような光は無く、むしろ優しく受け止めてくれているように思えた。
今回鉄級のシグレさんとセシルさんが僕とミレーヌと組んでくれたのは純粋な好意からだとわかった。
装備の選び方や旅の間に沢山の知識を教えてくれた。
その恩人を睨んでしまった。
僕は自分の未熟さと愚かさを恥じる。
「ごめんなさい。僕の考えが足りませんでした」
「気にしなくていい。みんな一度は通る道だ。間違いを認めれるユキナは昔の私より頭がいい」
そう言ってシグレさんが笑って僕とミレーヌの頭を優しく撫でてくれる。
シグレさんの手はとても優しく暖かだった。
シグレさんやセシルさんのように、心も体もより強くなろうと僕は誓った。
「僕はゴブリンを狩りたいです」
僕の一言にみんな黙り込む。
それはそうだろう。
ゴブリンなんて銅級が戦えばいい弱いモンスター。
青銅級が相手にするには不足な相手。
ゴブリン退治はギルドでの評価が低いから、次の鉄級に昇格する為には非効率だ。
「ユキナ。気持ちはわかるがその考えは泥沼だぞ」
「どうしてですか?」
僕の発言を聞いていたシグレさんが言う。
僕はゴブリンに凌辱されて心と身体に傷を負った人たちを沢山見てしまった。
あんな犠牲者をもう出したくない。
その考えが間違っているとは思えない。
「ユキナはゴブリンの被害に遭う人を減らしたいんだね。ボクは賛成するよ」
ミレーヌは僕の意見に賛成してくれるようだ。
嬉しいけどミレーヌが鉄級になる機会を当分先延ばしにする事になる。
それをわかっていて賛同してくれた事が素直に嬉しかった。
「う~ん。それは一度は考える事だけどね。あたいも反対かな」
セシルさんが空になったジョッキを手で弄びながら答える。
シグレさんもセシルさんもどうして反対なんだろう。
僕の考えは間違っていない筈。
「ユキナとミレーヌは自分でゴブリンを100匹殺せると思うのか?」
シグレさんにそう言われると言葉に詰まる。
数匹なら自信があるけど100匹は無理だろう。
少なくとも今すぐは無理だ。
「確かに僕にその力はありません。ですが村の人たちを見殺しにはできないです」
「ユキナは真っすぐなのだな。その考えはとても良い事だがそれならユキナはもっと上を目指すべきだ」
どういう意味だろう。
僕はシグレさんの言葉の意味を考える。
「ゴブリンは冒険者になりたての銅級でも倒せるし、ちゃんと訓練した軍隊なら地域から掃討する事も可能だろう。だが奴らの繁殖力は凄まじい。ゴブリンを狩りつくす事など多分不可能だ」
「だからって村の人達を見殺しには出来ないです」
「それは王や貴族の仕事だ」
そう言ってシグレさんはアクラ酒の入ったジョッキを静かにテーブルに置いた。
それは僕を威圧するような置き方では無くて静かな置き方。
つまり僕の意見をちゃんと聞いてくれているという事だ。
「ゴブリンを狩りつくせずとも村の防衛を強化し、防衛のための兵士を配置すればゴブリンの被害は激減する。だが貴族も王もそれをしない。なぜならその金がない。兵士を守りにつかせる程の利益を村は領主にもたらす事はできない」
「そんな事はありません。街道を安全にすれば経済が潤って貴族にも利益が出る筈です」
「その前に貴族は村の防衛費で経済破綻する。ユキナの言いたい事はわかるし今までもそう言った意見はあったが、未だに実施されないのはそう言う事だ」
僕の持っている知識はこの異世界フォーチュリアでは通用しない。
異世界フォーチュリアは貧しい。
この世界には米や麦といった人口を支えるために不可欠な、栄養価が高くて収穫量が大きい作物は今の所存在しない。
また存在したとしても貴族特権で領地が細分化されていて大きな土地をもつ貴族は少ない。
王でさえ配下の貴族に収穫量が未知数の作物の栽培を強制出来ないし、王の領地で失敗すれば今度は王が権力を失う。
この世界には村人を守り支える経済力も軍事力も無いのだ。
ローマ帝国のように強大な国土と軍隊がいれば国境から蛮族を締め出す事も可能だが、その為に必要で不可欠な事がある。
戦争だ。
王権が弱いなら王が貴族を攻めて領地を奪い、直接統治できる国を作らなくてはいけない。
勿論貴族も反発してどちらが勝つにせよ長い戦乱になる。
当然村々は焼かれて被害者はゴブリンに襲われる比ではないだろう。
ゴブリン被害を減らすために領地を差し出す貴族など存在しない。
経済的、人道的理由で先祖代々受け継いだ権力を手放す馬鹿はいない。
貴族は武力で屈服させない限り言う事を聞かないのだ。
とかく戦争と言えば否定的な意味合いが強いが、人類にもたらした利益も計り知れない。
戦争が不幸を呼ぶのは当然だが、戦争によって土地が大規模に開発され豊かとなった事実も知られるべきだろう。
非戦主義の日本で生まれ育った僕は、入院中に読んだ歴史や好きだったシミュレーションゲーム知識があるので理解できたが、感情では納得できなかった。
「それではどうしろというんですか?」
「もっと強くなり、ゴブリンなど比較にならないモンスターを狩るんだ。村を襲うのはゴブリンだけではない。オーガなどゴブリンが10匹いても軽く蹴散らすくらい強い。オーガだけではない。他にも村や街、国さえも揺るがす災厄としか呼べないモンスターも多いのだ。小を見て大を忘れてはいけない」
「………」
僕はシグレさんを睨みつけてしまう。
それは大人の意見としては正しいと思う。
だけどゴブリンの被害に遭う人を見殺しにはできなかった。
睨む僕をシグレさんは真剣に見つめ返す。
威圧的じゃない。
僕を見る目がどこか懐かしそうなように見えるのはシグレさんも同じ気持ちになったからかもしれない。
「ま、今のユキナとミレーヌの実力じゃ大したことができないって事だよ。ユキナがもっと強くなれば今よりもっとゴブリンを殺す事ができる。青銅級のユキナが一度に戦えるゴブリンは精々5匹くらいだろ?鉄級のあたいなら10匹は軽く相手にできるね」
僕とシグレさんの会話にセシルさんが口を出す。
セシルさんはテーブルの上の皿からチーズを摘まみながらそう言って僕を見つめる。
セシルさんの目にも僕を威圧するような光は無く、むしろ優しく受け止めてくれているように思えた。
今回鉄級のシグレさんとセシルさんが僕とミレーヌと組んでくれたのは純粋な好意からだとわかった。
装備の選び方や旅の間に沢山の知識を教えてくれた。
その恩人を睨んでしまった。
僕は自分の未熟さと愚かさを恥じる。
「ごめんなさい。僕の考えが足りませんでした」
「気にしなくていい。みんな一度は通る道だ。間違いを認めれるユキナは昔の私より頭がいい」
そう言ってシグレさんが笑って僕とミレーヌの頭を優しく撫でてくれる。
シグレさんの手はとても優しく暖かだった。
シグレさんやセシルさんのように、心も体もより強くなろうと僕は誓った。
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