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第9章 勇者と恋人
第60話 ハーフエルフとして生きる。
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第60話 ハーフエルフとして生きる。
シグレさんとセシルさんが一緒に来てくれるのは嬉しい。
問題はクヌートとフェリシアだ。
多分クヌートが望んだより大金が手に入ったから二人はこのまま冒険者を引退するかもしれない。
僕の視線に気が付いたクヌートが少し困った様子で話を切り出す。
「俺とフェリシアは家を買うよ」
「それってやっぱり冒険者を引退するって事?」
「冒険者は続けるさ。俺とフェリシアは帰る場所が欲しかったんだ。だからいつかは自分の家を買おうと金を貯めていたんだが」
「予想外に沢山お金が入ってしまったのでクヌート兄さまも私も困ってしまったのです」
確かに首都の一等地に豪邸を建てる事も出来るくらいの収入があったけど。
お金がありすぎて困るというのも珍しい。
そう言ってフェリシアが苦笑しながらクスコという甘いフルーツワインを飲む。
よく見ると二人とも今日は機嫌よく肉を食べている。
エルフは肉を食べず野菜でタンパク質を摂取する事が出来るがハーフエルフはそれが出来ない。
エルフの里でハーフエルフが迫害される理由の一つが肉食だという事。
肉食いと呼ばれハーフエルフの子供の為に嫌々狩りをするエルフの気持ちはわからないでもない。
でもそれはクヌートとフェリシアが悪い事ではなく仕方がない事じゃないか。
こんな風に僕が考えるのは僕がエルフではなくて人間だからという証なのだろう。
クヌートもフェリシアもいつもは肉を最低限しか食べない。
幼少期にエルフの里で肉食いと言われ差別され虐められたことが原因のようだ。
ハーフエルフにとって肉を食べる事は悲しみでもある。
それなのに二人は今日楽しそうに肉を食べている。
ミレーヌの勇者の光でクヌートとフェリシアの心に宿っていた卑しい肉食いという負い目が浄化されたのだと思う。
勿論完全には乗り越えていないだろうが、自分たちがハーフエルフだという事実を認めたのだろう。
エルフのように肉を食わずに生きる事も出来ず、人間のように社会的に集団生活を行う事もできない。
でもハーフエルフだけがエルフよりも人間よりも優秀な、ウィザードという最高ランクの魔法使いになれる。
二人は今回の旅でその事を自負したんだ。
自分のよって立つ所を認められた者は強い。
「それでフェリシアとも相談したんだが、もう少し旅をして金を貯めたら街中に集合住宅を建てようと思う。俺とフェリシアは勿論住むが、宿なしのハーフエルフも一緒に住まわせるつもりだ。ハーフエルフはエルフからも人間からも差別されて乞食や浮浪者同然の生活から盗みなどに走る者が後を絶たない。だから帰る場所を作ってやりたい」
確かに僕がたまに見かけるハーフエルフは住み込みで働いている子ばかりだった。
朝早く起きて日が暮れるまで働いて、へとへとになって勉強して眠る。
同居している雇い主が優しいという保証はなく、むしろ虐められる事の方が多いだろう。
24時間針のむしろの生活だと心が荒む。
二人が作る場所はハーフエルフにとって安息の場所になるに違いない。
帰る場所があるから人は前を向くことができる。
「とてもいい事だと思うよ」
「そうだろう。冒険者を引退したらそこで魔法や文字書きも教えたい。勿論俺とフェリシアだけでは人手が足りないから人間の教師を雇う。そこで育つハーフエルフが社会的に成功しなくても、生まれてきて良かったと思える場所を俺たちは作りたいんだ」
「私とクヌート兄さまも皆さんと旅を続けるのが楽しくて仕方がないんです」
そう言ってクヌートは満面の笑みで歯を見せて笑う。
クヌートってこんな笑顔になれるんだ。
クヌートの偽りない笑顔を初めて見た。
クヌートは今までフェリシアを守る事だけを考えて生きて来た。
でも今は自分たちハーフエルフの未来を考えている。
クヌートもフェリシアもミレーヌの勇者の光で闇を浄化されて本来の心を取り戻したようだ。
ハーフエルフのうける差別や好奇の視線はまだまだ根深い。
一旦浄化されたとはいえクヌートとフェリシアの闇はまたすぐ心を覆うだろう。
少しずつでいいから前を向いて欲しい。
これから二人の人生は長いのだから。
ハーフエルフはエルフ程では無いけど長生きだと聞く。
クヌートの事はフェリシアに任せようと思う。
きっとこの二人ならもう闇に囚われる事はないだろう。
「それじゃみんなと共にこれからも旅を続ける事に決定でいいのかな」
僕がそう言うとみんなグラスを掲げる。
それぞれ飲む酒が違うように目的も違うけど同じ仲間の冒険者だ。
自分から旅をやめて引退するか、どこかで死ぬか。
自分の生き方を自分で決めるのが冒険者なのだ。
僕は食事を楽しむ仲間をみながら、引退したらみんなどうなるのかなと思っていた。
もしかしたらセシルさんは目ざといから商売で成功するかもしれない。
経営資金はたっぷりある。
世の中の裏側を良く知っているから裏社会でも成功するかも。
シグレさんはずっとセシルさんの面倒を見ているような気がする。
冒険者の時のようにスカウトとして前を歩くセシルさんの背中を守るのがシグレさんらしい生き方だ。
ただシグレさんはまた冒険者に戻る気がする。
セシルさんが落ち着いたら旅立つような気がする。
クヌートは全寮制の学校をつくるのだろうか。
初期資金はクヌートとフェリシアが用意できるとしてその後はどうするのだろう。
何らかの形で資金を工面する事になるだろうし。
理想は巣立ったハーフエルフが資金面の援助をしてくれるのがいいのだけど。
フェリシアはクヌートの背中を守り続けるのだと思う。
生まれた時から一緒に育った二人だから、お互いの事もよくわかっている。
クヌートが完全な闇の感情に堕ちなかったのはフェリシアのお陰だと思う。
楽しい食事と笑いの宴。
僕達の回りの冒険者もいつの間にか参加して飲み食いを始めた。
いつ死ぬかわからない生を生きている冒険者達。
願わくは皆が本当に望む未来を見つけれるように。
僕とミレーヌはそう思いながら宴を楽しんだ。
シグレさんとセシルさんが一緒に来てくれるのは嬉しい。
問題はクヌートとフェリシアだ。
多分クヌートが望んだより大金が手に入ったから二人はこのまま冒険者を引退するかもしれない。
僕の視線に気が付いたクヌートが少し困った様子で話を切り出す。
「俺とフェリシアは家を買うよ」
「それってやっぱり冒険者を引退するって事?」
「冒険者は続けるさ。俺とフェリシアは帰る場所が欲しかったんだ。だからいつかは自分の家を買おうと金を貯めていたんだが」
「予想外に沢山お金が入ってしまったのでクヌート兄さまも私も困ってしまったのです」
確かに首都の一等地に豪邸を建てる事も出来るくらいの収入があったけど。
お金がありすぎて困るというのも珍しい。
そう言ってフェリシアが苦笑しながらクスコという甘いフルーツワインを飲む。
よく見ると二人とも今日は機嫌よく肉を食べている。
エルフは肉を食べず野菜でタンパク質を摂取する事が出来るがハーフエルフはそれが出来ない。
エルフの里でハーフエルフが迫害される理由の一つが肉食だという事。
肉食いと呼ばれハーフエルフの子供の為に嫌々狩りをするエルフの気持ちはわからないでもない。
でもそれはクヌートとフェリシアが悪い事ではなく仕方がない事じゃないか。
こんな風に僕が考えるのは僕がエルフではなくて人間だからという証なのだろう。
クヌートもフェリシアもいつもは肉を最低限しか食べない。
幼少期にエルフの里で肉食いと言われ差別され虐められたことが原因のようだ。
ハーフエルフにとって肉を食べる事は悲しみでもある。
それなのに二人は今日楽しそうに肉を食べている。
ミレーヌの勇者の光でクヌートとフェリシアの心に宿っていた卑しい肉食いという負い目が浄化されたのだと思う。
勿論完全には乗り越えていないだろうが、自分たちがハーフエルフだという事実を認めたのだろう。
エルフのように肉を食わずに生きる事も出来ず、人間のように社会的に集団生活を行う事もできない。
でもハーフエルフだけがエルフよりも人間よりも優秀な、ウィザードという最高ランクの魔法使いになれる。
二人は今回の旅でその事を自負したんだ。
自分のよって立つ所を認められた者は強い。
「それでフェリシアとも相談したんだが、もう少し旅をして金を貯めたら街中に集合住宅を建てようと思う。俺とフェリシアは勿論住むが、宿なしのハーフエルフも一緒に住まわせるつもりだ。ハーフエルフはエルフからも人間からも差別されて乞食や浮浪者同然の生活から盗みなどに走る者が後を絶たない。だから帰る場所を作ってやりたい」
確かに僕がたまに見かけるハーフエルフは住み込みで働いている子ばかりだった。
朝早く起きて日が暮れるまで働いて、へとへとになって勉強して眠る。
同居している雇い主が優しいという保証はなく、むしろ虐められる事の方が多いだろう。
24時間針のむしろの生活だと心が荒む。
二人が作る場所はハーフエルフにとって安息の場所になるに違いない。
帰る場所があるから人は前を向くことができる。
「とてもいい事だと思うよ」
「そうだろう。冒険者を引退したらそこで魔法や文字書きも教えたい。勿論俺とフェリシアだけでは人手が足りないから人間の教師を雇う。そこで育つハーフエルフが社会的に成功しなくても、生まれてきて良かったと思える場所を俺たちは作りたいんだ」
「私とクヌート兄さまも皆さんと旅を続けるのが楽しくて仕方がないんです」
そう言ってクヌートは満面の笑みで歯を見せて笑う。
クヌートってこんな笑顔になれるんだ。
クヌートの偽りない笑顔を初めて見た。
クヌートは今までフェリシアを守る事だけを考えて生きて来た。
でも今は自分たちハーフエルフの未来を考えている。
クヌートもフェリシアもミレーヌの勇者の光で闇を浄化されて本来の心を取り戻したようだ。
ハーフエルフのうける差別や好奇の視線はまだまだ根深い。
一旦浄化されたとはいえクヌートとフェリシアの闇はまたすぐ心を覆うだろう。
少しずつでいいから前を向いて欲しい。
これから二人の人生は長いのだから。
ハーフエルフはエルフ程では無いけど長生きだと聞く。
クヌートの事はフェリシアに任せようと思う。
きっとこの二人ならもう闇に囚われる事はないだろう。
「それじゃみんなと共にこれからも旅を続ける事に決定でいいのかな」
僕がそう言うとみんなグラスを掲げる。
それぞれ飲む酒が違うように目的も違うけど同じ仲間の冒険者だ。
自分から旅をやめて引退するか、どこかで死ぬか。
自分の生き方を自分で決めるのが冒険者なのだ。
僕は食事を楽しむ仲間をみながら、引退したらみんなどうなるのかなと思っていた。
もしかしたらセシルさんは目ざといから商売で成功するかもしれない。
経営資金はたっぷりある。
世の中の裏側を良く知っているから裏社会でも成功するかも。
シグレさんはずっとセシルさんの面倒を見ているような気がする。
冒険者の時のようにスカウトとして前を歩くセシルさんの背中を守るのがシグレさんらしい生き方だ。
ただシグレさんはまた冒険者に戻る気がする。
セシルさんが落ち着いたら旅立つような気がする。
クヌートは全寮制の学校をつくるのだろうか。
初期資金はクヌートとフェリシアが用意できるとしてその後はどうするのだろう。
何らかの形で資金を工面する事になるだろうし。
理想は巣立ったハーフエルフが資金面の援助をしてくれるのがいいのだけど。
フェリシアはクヌートの背中を守り続けるのだと思う。
生まれた時から一緒に育った二人だから、お互いの事もよくわかっている。
クヌートが完全な闇の感情に堕ちなかったのはフェリシアのお陰だと思う。
楽しい食事と笑いの宴。
僕達の回りの冒険者もいつの間にか参加して飲み食いを始めた。
いつ死ぬかわからない生を生きている冒険者達。
願わくは皆が本当に望む未来を見つけれるように。
僕とミレーヌはそう思いながら宴を楽しんだ。
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