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相棒
しおりを挟む「アンドロイドはお嫌いですか?」
「え…」
突然の質問に、目を白黒させるヘルトに構わず身を乗り出した。
「いかがでしょうか?」
アンドロイド…または、マノイド種、そう呼ばれるソレは様々な用途に合わせ、魔術を始め、倭の国から持ち込まれた技術を使用して作られた生命ではない人型のなにかだ、と歴史の教科書で読んだことがある。マノイド種は秘匿の技術を利用して作ることから稀少とされ新たに作られる個体数は限られており、作りたいのであれば使用用途を明確にして国に報告する義務がある上に高額、しかも中々申請が通らず現存するアンドロイドもアンティークに近い性能で、個体数も少数だ。以上のことから今では殆ど姿を見ない。
そこで、彼女の容姿をしっかりと見つめ直した。限りなく人に近い造形。眼球をよく見つめないと、違和感すらわかない。
現在は人に近すぎる造形の知的物を製造する事は倫理的に良くないとされ、かぎりなく人型に近い造形のそれは根絶したと言われている。彼女はきっと、根絶したと言われている人型のマノイド種の生き残り、破棄から免れた個体なのだろう。
そこまで考えた後、彼女の質問に対する答えを自問自答する。
アンドロイドが嫌いか否か。数は少なくとも確かに存在する。ヘルトも、何度か彼らを見た事があるが、彼らは無感情かつ無表情ではあるが、人のようにヘルトに何かを期待したり、失望して当たることは無かった。
感情的に関わって来ないだけ、生身の人間と相対するよりよっぽど気が楽だったような気さえしてくる。
「や、あの…嫌いじゃ、ない、です…」
思わずそう返すと、シュティルは満足げに微笑んだ。
「それは良かった。それなら、先入観なく売り込みができますね」
「売込みって…何を?」
「もちろん、この私を」
「は、はぁ!?」
突然の展開にヘルトが思わず目を丸くすると、シュティルはそれまでの乏しい表情から一転して自己紹介をしたときのように口角を上げ、丸い瞳でヘルトの瞳を覗き込むように見つめる。
「相棒に、戦闘用アンドロイドはいかがです?」
至近距離にある、煌めく瑠璃色に頬に熱が集まる。近くで見て気づいた事だが、彼女の瞳の中には氷雪ガラスのようにチラリチラリと雪の粒に似た魔力が舞い散って見えた。それはまさしく、彼女が人間ではない事の証明のようだった。
「そ、それはつまり…」
ごく、と唾を飲み込む
「貴方の相棒に、立候補、してるのですが」
願ったりな申し出に驚いて目を剥く。
「それは、嬉しいが…どうして?」
「貴方がいないと、私、死んでしまいます」
「し、死ぬ!?」
「あ、いえ…死ぬ、って言うよりも、長く活動出来なくなると言うのが正しいかもしれない。今、私の持ち主はあなたと登録されていますので」
シュティルは指先を唇に寄せて首を傾げた。まるで人間のような仕草だが、違和感がない。人外の少女の人間然くさい動きに違和感がない事に違和感をぬぐえなかった。
会話をしていくうちに、無機質だったこのアンドロイドの少女はどんどん人間味を増していくように思えた。
「待ってよ、持ち主って言ったって俺はなにも…」
「私の製作者を除いて、最初に私を起動した相手があなたです。多分、ヘルトに他意はなかったのでしょうけれど、私の真横で魔力を練ったでしょう?」
「あ…」
そういえば、魔物と対峙した時に魔力を練った先から抜き取られていくような感覚があったのを思い出した。
「私の起動条件は半径1m以内で30秒以上の時間魔力構成を立ち上げ続ける事。その場合は起動に必要な量の魔力を術者から半ば強制的に貰うような設定をされていたのです」
そこまでいうと、シュティルはヘルトを見つめた。
「私は対大軍兵器なので、起動するだけでも結構な量を消費するはずなのにヘルトはぴんぴんしてるし、その割には小物そうな魔物に怯えてるみたいだから驚いてしまいました」
にこり、彼女が浮かべているのは朗らかだが無機質な笑みだ。好意的に見えるが、彼女の考えはとても読みづらい。何を求めているのだろう。
「ええと、つまり…シュティルはまだ起動していたいから、力を貸す代わりに魔力の供給をしてほしいと言う事、であってる?」
「概ね間違ってはいませんが、付属事項が何点か」
複雑な表情になったヘルトに意義あり、とでも言いたげなシュティルが口を挟む。
「私は、あなたの相棒になりたいと思っています。利用し合う関係と言うのも合理的ですが…もちろん、貴方が嫌だと言うのなら断って構いません」
それは、ヘルトにとってあまりにも都合がよすぎる誘いだった。
「…いくつか、聞いても良い?」
こくり、と一つ頷くとヘルトの次の言葉を待つように唇を閉じた。ヘルトは、そんな少女の目の前に座り視線を合わせる。
「シュティルの必要とする魔力は、だいたいどれくらいの量なの?流石に、毎回意識を失うほど持っていかれてしまうのは困るっていうか…」
「それはその時の活動状況によりますが、よほど面倒な相手でなければあれほど貰う事は殆ど無いはずです。あれは、起動後すぐの戦闘を開始しないといけなかったから体中に魔力を回してスムーズに動かす必要があったので。だから、さび付いた身体を動かす潤滑剤代わりに大目に貰いましたが、今後はよっぽどでない限りあんな事は無いと考えます。普段は私と一緒に生活してくれるのなら、漏れてる魔力を勝手に貰ってここに貯めておきます」
言いながら、手首に絡みつく小さな黒い粒がいくつもついたアクセサリーを目の前に掲げるように見せる。
よくよく見ると、その中には白い魔力がほんの微かに溜まっていくのが見えた。
「漏れてる魔力?」
ヘルトは目を瞬かせて、驚いた表情を浮かべる。
そんな事、学園の教師にだって言われた事が無い。
「気付いていなかったんですか?ヘルトの周りにそれなりの量ずっと漂っているのに…」
そう言って、辺りにちらりと視線を投げる。
「あまり、自分では分からないな…そういえば魔力は、俺以外から供給できないの?」
「…契約者以外からの供給」
そう言うと、シュティルは目を伏せ記憶を探る様に数秒沈黙する。
「…出来るようです。データベースに書いてあった情報によると魔力の源のマナは食事にもある程度含まれていることから、私の内部エンジンで食事の素材を分解、再構築してマナを練って魔力に変換することもできそうです」
「そうなんだ…」
「あとは…そう…。咄嗟に出来る核心は無いけれど、他人の攻撃魔法を取り込んで属性と魔力を分解して魔力のみ吸収することもできると思われます。これは、かなり練習が必要な技術と思われますが…どちらにせよこの体の核を構成している魔力がヘルトのものなので、今の状態であんまりにも長期間あなたと離れると活動停止します」
そこまで聞いて、ヘルトは少し考えこんだあと、口を開く
「あの、…最後に、一つだけ聞いても良い?」
「なぁに?」
「もし、俺が断ったら…君はどうなる?」
これは、ヘルトにとって賭けのようなものだった。これを言った時、彼女は、この案外表情豊かなアンドロイドはなんと返してくるのだろう。
この恩知らずと罵りの言葉を吐くのか、それとも死にたくはないと泣くのだろうか。はたまた、学園の者達と同じように利用できない事に落胆するのだろうか。
「大人しくあの屋敷に帰って誰にも見つからないよう眠るつもりです」
「君は…それで、良いの?まだ起動していたいんでしょ?やりたいことが有るんじゃないの?」
何て事無いようにあっけらかんとした様子に、ヘルトの方が動揺してしまう。アンドロイドとは、あまり執着が無い物なのだろうか。
「もともと、私はヘルトを安全な場所まで運んだらそうするつもりでした。でも、自分が囮になるから逃げろとか、一人で置いて行けないとか…ヘルトが私の事普通の女の子だと思ってたのは知ってはいたのですが」
そこまで言った後、言葉を切り思考するように腕組みをする。小首をかしげる姿がどこか人間くさく、思考がバグってしまいそうだ。
「…人間はこういう時なんていうのか分からないから、これであっているのか分かりませんが。優しい、というのでしょうか?この優しい子を守るべきだと。そう思ったから、願いをかなえてあげたくなった、というだけです。心ない機械が何を、と思われたかもしれませんが」
それを聞いた瞬間、ヘルトは思わず目を目を見開いてシュティルを凝視した。
優しい子、なんて。守る、なんてここ数年言われた事は無かった。
臆病者の使えない奴。肩書きだけは立派な恥知らず。
学園に入学してすぐの頃はその肩書につられた者が幾人もすり寄って来たが旨味が無い事に気付くと蜘蛛の子を散らすように去っていく。
「…俺は、本当に弱いんだよ。君は優しいなんて言ってくれたけど、見捨てて逃げる勇気が無かっただけ」
「弱くても問題ありません。私が強いですから」
「他の奴からも馬鹿にされるし」
「そんな相手、私が全部追い払ってあげましょう」
「名声とか、名誉とか…そんなたいそうな物あげられない」
「私にそんな物必要ありません。アンドロイドですから」
「…俺は、すぐ、泣くよ。意気地なしの臆病者なんだ」
これまで人々にされた過去の扱いが思考に過ぎる。投げかけられた罵声、陰口、哀れみの視線、失望の眼差し、離れていく友人達、自分を置いていく両親の後ろ姿。
ついに、ヘルトの目に微かに涙が滲む。
情けない、本当に情けない。そう思いながらも、じわじわとかさを増す涙は止まらなかった。
「その時は、私が拭けばいいでしょう」
白く、冷たい指先が目元を優しく擦って言った。
「他に私への願いはありますか?」
瑠璃色のキラキラと輝く大きな瞳には、ぐしゃぐしゃに濡れたヘルトの顔だけが映っている。
「…君を、俺の相棒にしたい…」
しゃくり上げながら言うと、シュティルはどこか慈しむ様な声音で言った。
「そんな願いなら、いくらでも」
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