早贄は、彼岸の淵で龍神様に拾われる

束原ミヤコ

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鳥の獄

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 竹でできた四角い鳥籠が、縁側に無数に並んでいる。
 滑らかな緑色の小さな小鳥が、鳥籠の中で囀っている。
 目の周りが白い愛らしいその鳥の名は、メジロという。それから、ウグイスに、ヒヨドリ。
 ある日、朱鷺子さんが小鳥を飼いたいと言った。
 幸次郎さんがとりもちを縁側で練って作って、庭木に塗って、小鳥を捕まえた。

「面白いぐらいに、小鳥がとれる。鳥というのは頭が悪いのだね」

 何羽も捕まえた鳥を鳥籠に入れて、幸次郎さんは笑っていた。
 朱鷺子さんは小鳥を近くで見ることができて、すぐに満足してしまったらしい。
 興味を持ったのは一瞬のことで、一日経ったら鳥籠の中の小鳥たちに見向きもしなくなり、鳥を捕まえることは幸次郎さんの趣味になったようだった。
 
 幸次郎さんは小鳥を捕まえることが好きらしく、捕まえたらそれで満足してしまうようだ。
 世話をしなければ、鳥籠の小鳥は弱ってしまう。
 弱りきってしまう前に逃してあげれば良いのに、幸次郎さんはそれもしなかった。
 だから私は毎日時間をつくっては、小鳥たちに餌や水をあげて、鳥籠の掃除をしていた。

 小鳥たちは愛らしく、けれど誰にも見向きもされないのに鳥籠に入れられているのが、不憫でならなかった。
 いっそ全て逃してあげたいと思ったけれど、そんなことをしたらどんな仕置きをされるか分からない。
 ただでさえ小鳥の世話をする私を、お母様は「幸次郎さんに媚を売っているのね」と言って、快く思っていないようだった。

 もう入れる鳥籠もないのに、幸次郎さんはお休みの日になると飽きもせずにとりもちを作って、庭木に塗っていた。
 そうしてーー百舌鳥が捕らえられた。
 百舌鳥は、小さな体をした愛らしい小鳥だ。
 橙色の体に、羽と目は黒い。夕焼けや宵闇を思わせる色合いのその小鳥を捕まえて、幸次郎さんは鳥籠に入れた。
 私は庭の掃除をしていたので、それを見ていた。
 幸次郎さんは私に微笑みながら「蜜葉、百舌鳥を捕まえたよ」と言って、自慢げに見せてくれた。

 そこにお母様と朱鷺子さんがやってきた。
 お母様は鳥籠の中を覗き込むと、悍ましいものを見たように顔をしかめた。

「百舌鳥なんて、不吉な鳥……! こんな鳥、殺してしまって!」

「確かに、そうだね。それでは、台所から包丁でも持ってこようか。それとも、布切りバサミの方が良いかな」

 まさかと思い、私は目を見開いた。
 罠を仕掛けて小鳥を捕まえたのは幸次郎さんなのに、逃しもせずに、殺すなんて。
 お母様は私に布切りバサミを持ってくるように命じたけれど、私は庭掃き用の竹箒を手にしたまま動くことができなかった。
 幸次郎さんが私の様子を見かねたのか「自分でとりにいくから良いよ」と言って、立ち上がった。
 その瞳はどことなく、好奇心の輝きに満ちている気がした。
 百舌鳥を殺せることが嬉しい。
 私にはそんな表情に見えた。
 とても、耐えられなかった。
 鳥籠の中の小鳥たちは、まるで自分のように思えた。
 先ほどまで自由に空を飛んでいたのに、人間の都合で、理不尽に命を奪われてしまうなんて。
 それも食べるため、なんかじゃない。
 なんの意味もない行為だ。

「……蜜葉!」

 幸次郎さんの姿が見えなくなった瞬間、私は走り出していた。
 竹箒を放り出して、鳥籠の元まで駆ける。
 お母様の叱責が聞こえる。
 きっと、ひどく叱られるだろう。
 でも、考えるよりも先に体が動いていた。
 私は百舌鳥の鳥籠を両腕に抱いて、庭の真ん中まで逃げた。
 鳥籠を開くと、小鳥は聡明そうな黒い瞳をぱちりと一度またたいて、それから空へと飛び立っていった。

「蜜葉、なんていうことを! それは幸次郎さんが捕まえた鳥なのに、なんて勝手なことをするの!」

 私を追いかけて庭に降りてきたお母様が、私の頬をはった。
 力一杯頬を叩かれて、私は庭に転がった。
 砂利に体が擦れる。
 そのまま、お母様に髪を掴まれて、私は母屋の奥へと引きずられるようにして連れて行かれた。

 そしてーー火箸で、背中を焼かれた。
 

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