幼馴染の婚約者に浮気された伯爵令嬢は、ずっと君が好きだったという王太子殿下と期間限定の婚約をする。

束原ミヤコ

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 鏡の呪い 2

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 私は落ちた燭台を拾い、カンテラから火を分けてもらい蝋燭に炎を灯す。

 蝋燭で照らしながら、記録書のページをめくった。

 あの首輪は何?
 どうして鏡の中にいるの?

 どうして、古の大神官様は、こんな恐ろしいものを使って王子の魂を奪うことができたの?
 とても、人の命令に従うようには思えないのに。

「死ね、魔物が!」

 伸ばされた手を剣で切り落とす。すぐに再生する手を、何度も腕の付け根あたりから切り落とした。
 切り落とされた腕は床の上でビチビチと跳ねて、消えていく。

 再生は無限なのか、一瞬のうちにその腕は元通りになった。
 両手の攻撃に加えて、鋭く尖った髪がゼフィラス様の体を貫こうとする。
 
 ゼフィラス様は私たちに攻撃が届かないように、それら全てを剣で弾き、切り裂いた。

「本当に、不死なのか……? このままでは、押し負けてしまう……それに、ここは地下だ。天井が崩れれば、僕たちは生き埋めになる」

 アルゼウス様が震える声で言った。
 私はページを指で辿る。
 ゼフィラス様を守りたい。失いたくない。
 こんなところで死にたくなんかない。

「あれは恐ろしい。恐ろしいが役に立つ。砂漠の遺跡から鏡を掘り起こし、持ち帰ってきた。眠りについていたあれに、魂を贄として捧げて、目覚めさせた。封印されているために鏡に繋がれている。だがそのうち封印も綻ぶだろう。どのみち私が死んだ後のことだ。数百年後のことなど、私には関係がない」

 古の神官長の自分勝手な言葉が、記録書には続いている。

「血の盟約を結んだ。清らかな王子の魂を喰えと命じた。それが何よりもの馳走であると覚えさせた。再び眠りにつかせるために、二人の王妃を喰わせた。この国を守るためだ。あれは、王家の血を好む。その身にその味が刻まれたのだ。だから、触れてはならない。外に出してはならない」

「なんと、勝手な……」

「女性を食べて再び眠りにつくのなら、私が……!」

「何を言っているのですか、リーシャ! 駄目に決まっているでしょう!」

 倒せないのなら、眠りにつかせるしかない。
 一歩前に進もうとすると、アルゼウス様に腕を掴まれて、叱責される。

「リーシャ、不滅な存在などはない。そう思われていただけだ。こいつは、ここで殺す」

 再び再生が始まる前に、ゼフィラス様の剣がアルマニュクスの胴体を切り裂いた。
 その速度は再生よりも速く、その剣は落雷のように重い。

 体を切り裂かれたアルマニュクスは、断末魔の叫び声をあげる。
 けれどすぐにぼこぼこと闇がその体から吹き出して、切られた体は元に戻った。

「……闇の魔物。闇の魔物の特徴。その体は闇でできているために実態はない。再生を繰り返す。喰らった分だけの魂をその体にもつ」

 メルアのご両親の書いた魔物研究書が、思い出される。
 これは、女神様の導きなのかもしれない。
 メルアを救い、仇をとったゼフィラス様を、私を――お二人が助けようとしてくれている気がした。

「不死だと思われているのは、食べた分の魂が体にあるから。その回数、再生ができるから。……魂を溜め込む場所は、頭部。頭部を潰す。聖炎で焼く。喰われた魂は女神のもとにのぼり、再生ができなくなれば魔物は、死ぬ……!」

「頭だな、リーシャ。わかった」

「聖炎……聖炎……! ゼフィラス様、僕の剣を使ってください。女神の像の前で祝詞を捧げて清めたものです。炎は、カンテラの火を……!」

 アルゼウス様が剣にカンテラのオイルをぶちまけて、火をつける。

 ゼフィラス様はその剣を拾い上げると、もう片方の手に持った。
 自分の剣でアルマニュクスの腕を切り、髪を切り裂きながら駆ける。

 アルマニュクスの頭に、燃え盛る剣が突き刺さった。

 聖炎がアルマニュクスの頭を炎で包み込む。苦しげに身を捩るアルマニュクスの体から、ポワポワと幾つもの光が飛び出して、暗い部屋を明るく照らした。

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