132 / 162
鏡の呪い 2
しおりを挟む私は落ちた燭台を拾い、カンテラから火を分けてもらい蝋燭に炎を灯す。
蝋燭で照らしながら、記録書のページをめくった。
あの首輪は何?
どうして鏡の中にいるの?
どうして、古の大神官様は、こんな恐ろしいものを使って王子の魂を奪うことができたの?
とても、人の命令に従うようには思えないのに。
「死ね、魔物が!」
伸ばされた手を剣で切り落とす。すぐに再生する手を、何度も腕の付け根あたりから切り落とした。
切り落とされた腕は床の上でビチビチと跳ねて、消えていく。
再生は無限なのか、一瞬のうちにその腕は元通りになった。
両手の攻撃に加えて、鋭く尖った髪がゼフィラス様の体を貫こうとする。
ゼフィラス様は私たちに攻撃が届かないように、それら全てを剣で弾き、切り裂いた。
「本当に、不死なのか……? このままでは、押し負けてしまう……それに、ここは地下だ。天井が崩れれば、僕たちは生き埋めになる」
アルゼウス様が震える声で言った。
私はページを指で辿る。
ゼフィラス様を守りたい。失いたくない。
こんなところで死にたくなんかない。
「あれは恐ろしい。恐ろしいが役に立つ。砂漠の遺跡から鏡を掘り起こし、持ち帰ってきた。眠りについていたあれに、魂を贄として捧げて、目覚めさせた。封印されているために鏡に繋がれている。だがそのうち封印も綻ぶだろう。どのみち私が死んだ後のことだ。数百年後のことなど、私には関係がない」
古の神官長の自分勝手な言葉が、記録書には続いている。
「血の盟約を結んだ。清らかな王子の魂を喰えと命じた。それが何よりもの馳走であると覚えさせた。再び眠りにつかせるために、二人の王妃を喰わせた。この国を守るためだ。あれは、王家の血を好む。その身にその味が刻まれたのだ。だから、触れてはならない。外に出してはならない」
「なんと、勝手な……」
「女性を食べて再び眠りにつくのなら、私が……!」
「何を言っているのですか、リーシャ! 駄目に決まっているでしょう!」
倒せないのなら、眠りにつかせるしかない。
一歩前に進もうとすると、アルゼウス様に腕を掴まれて、叱責される。
「リーシャ、不滅な存在などはない。そう思われていただけだ。こいつは、ここで殺す」
再び再生が始まる前に、ゼフィラス様の剣がアルマニュクスの胴体を切り裂いた。
その速度は再生よりも速く、その剣は落雷のように重い。
体を切り裂かれたアルマニュクスは、断末魔の叫び声をあげる。
けれどすぐにぼこぼこと闇がその体から吹き出して、切られた体は元に戻った。
「……闇の魔物。闇の魔物の特徴。その体は闇でできているために実態はない。再生を繰り返す。喰らった分だけの魂をその体にもつ」
メルアのご両親の書いた魔物研究書が、思い出される。
これは、女神様の導きなのかもしれない。
メルアを救い、仇をとったゼフィラス様を、私を――お二人が助けようとしてくれている気がした。
「不死だと思われているのは、食べた分の魂が体にあるから。その回数、再生ができるから。……魂を溜め込む場所は、頭部。頭部を潰す。聖炎で焼く。喰われた魂は女神のもとにのぼり、再生ができなくなれば魔物は、死ぬ……!」
「頭だな、リーシャ。わかった」
「聖炎……聖炎……! ゼフィラス様、僕の剣を使ってください。女神の像の前で祝詞を捧げて清めたものです。炎は、カンテラの火を……!」
アルゼウス様が剣にカンテラのオイルをぶちまけて、火をつける。
ゼフィラス様はその剣を拾い上げると、もう片方の手に持った。
自分の剣でアルマニュクスの腕を切り、髪を切り裂きながら駆ける。
アルマニュクスの頭に、燃え盛る剣が突き刺さった。
聖炎がアルマニュクスの頭を炎で包み込む。苦しげに身を捩るアルマニュクスの体から、ポワポワと幾つもの光が飛び出して、暗い部屋を明るく照らした。
40
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
【完結】王妃を廃した、その後は……
かずきりり
恋愛
私にはもう何もない。何もかもなくなってしまった。
地位や名誉……権力でさえ。
否、最初からそんなものを欲していたわけではないのに……。
望んだものは、ただ一つ。
――あの人からの愛。
ただ、それだけだったというのに……。
「ラウラ! お前を廃妃とする!」
国王陛下であるホセに、いきなり告げられた言葉。
隣には妹のパウラ。
お腹には子どもが居ると言う。
何一つ持たず王城から追い出された私は……
静かな海へと身を沈める。
唯一愛したパウラを王妃の座に座らせたホセは……
そしてパウラは……
最期に笑うのは……?
それとも……救いは誰の手にもないのか
***************************
こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!
みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。
幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、
いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。
そして――年末の舞踏会の夜。
「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」
エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、
王国の均衡は揺らぎ始める。
誇りを捨てず、誠実を貫く娘。
政の闇に挑む父。
陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。
そして――再び立ち上がる若き王女。
――沈黙は逃げではなく、力の証。
公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。
――荘厳で静謐な政略ロマンス。
(本作品は小説家になろうにも掲載中です)
【完結】今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】
聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)
蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。
聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。
愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。
いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。
ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。
それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。
心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。
婚約者の私を見捨てたあなた、もう二度と関わらないので安心して下さい
神崎 ルナ
恋愛
第三王女ロクサーヌには婚約者がいた。騎士団でも有望株のナイシス・ガラット侯爵令息。その美貌もあって人気がある彼との婚約が決められたのは幼いとき。彼には他に優先する幼なじみがいたが、政略結婚だからある程度は仕方ない、と思っていた。だが、王宮が魔導師に襲われ、魔術により天井の一部がロクサーヌへ落ちてきたとき、彼が真っ先に助けに行ったのは幼馴染だという女性だった。その後もロクサーヌのことは見えていないのか、完全にスルーして彼女を抱きかかえて去って行くナイシス。
嘘でしょう。
その後ロクサーヌは一月、目が覚めなかった。
そして目覚めたとき、おとなしやかと言われていたロクサーヌの姿はどこにもなかった。
「ガラット侯爵令息とは婚約破棄? 当然でしょう。それとね私、力が欲しいの」
もう誰かが護ってくれるなんて思わない。
ロクサーヌは力をつけてひとりで生きていこうと誓った。
だがそこへクスコ辺境伯がロクサーヌへ求婚する。
「ぜひ辺境へ来て欲しい」
※時代考証がゆるゆるですm(__)m ご注意くださいm(__)m
総合・恋愛ランキング1位(2025.8.4)hotランキング1位(2025.8.5)になりましたΣ(・ω・ノ)ノ ありがとうございます<(_ _)>
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる