婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ

文字の大きさ
12 / 12

愛しい君に


 アダムは牢から出ると、胸に手をあてた。
 何故シャロンが目覚めないのか、ようやく理解できた気がした。

 精霊の湖は、願いを叶える力があるという。
 精霊が、住んでいるのだ。
 信じてなどいなかったが、シャロンの望みはきっと、叶えられてしまったのだろう。

 シャロンが望んでいたのは、自死ではなくて、消え去ること。
 死ではない。消えること。だから目覚めない。その魂は、湖の底へと連れ去られてしまった。

 どうか戻ってきてくれ。君を愛しているのだと、伝え続けた。
 筋力が落ちないように丁寧に体を動かして、体を清めて。

 食事は、受け付けなかった。けれど、その肉体は滅びなかった。
 不思議な力が働いているとしか思えなかった。

 精霊の湖に祈りを捧げ、シャロンを返して欲しいと伝えて――。
 
 三年。二度とその目は開かないのかと思っていた。
 肉体だけでもいい。ずっと傍においておこうと、覚悟を決めていた。

 だって、これほどまでに愛しているのだから。

 目覚めたシャロンは、少し話しただけだと言った。
 シャロンにとってはそうかもしれない。けれどアダムは、三年間毎日ずっと、シャロンに話しかけ続けていたのだ。

 誰にも話すことのなかった、過去の話も。
 僅かに残った母の思い出も。

 君にまた、撫でて貰いたい。
 隣で眠って貰いたい。

 君と話がしたい。声が聞きたい。助けられなくて、すまなかったと。何度も、何度も。

 だから――。

「もう、君を脅かすものはなにもない。これからは、私の傍にいて欲しい。泣いたり笑ったり、怒ったり。君の心はもう自由なのだから」

「……アダム様。分かりません。私には、何が起ったのか。どうして、アダム様が私を……」

「これから時間をかけて、君に愛を捧げていくよ。覚悟しておいて欲しい」

 手を握ってそう告げると、恥ずかしそうに微笑むシャロンが、愛しい。


 どうか、思い知って欲しい。


 どれほどこの気持ちが激しく重く、暗いものなのかを――。




 
感想 5

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(5件)

ririka
2024.11.21 ririka

切なくて、美しいお話。
神秘的な湖に浮かぶ、月明かり…
残酷なまでの深い愛が、なぜか泣けてくる…。
作者さまのお話に沼ってしまいそうです。

解除
大倶利伽羅(小笠原樹)
2024.01.08 大倶利伽羅(小笠原樹)

月の光は静かに
そして仄暗く・・・

白銀色の鏡の様に
綺麗で美しい・・・
それでいて冷たく光るナイフのような

なんと形容すればいいのでしょうか。

一気に読んでしまいました。
読み終えて ほぅっと息を吐く位
綺麗な 仄暗い物語です。


次回作 楽しみです。

解除
LIZU
2024.01.08 LIZU

先程 見掛けて 一気に読んでしまいました

ラストは 一応 ハッピーエンド になるのでしょうが

とにかく 切なくて 涙腺が…( > <。)


涙活したい時に
めっちゃ オススメしたい作品ですね(♡>ω<♡)

解除

あなたにおすすめの小説

死ぬまでに叶えたい十の願い

木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」 三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。 離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する—— 二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。 この度改編した(ストーリーは変わらず)をなろうさんに投稿しました。

美人な姉を溺愛する彼へ、最大の罰を! 倍返しで婚約破棄して差し上げます

佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢マリアは、若き大神官フレッドとの結婚を控え、浮かれる日々を送っていた。しかし、神殿での多忙を理由になかなか会えないフレッドへの小さな不安と、結婚式の準備に追われる慌ただしさが、心に影を落とし始める。 海外で外交官の夫ヒューゴと暮らしていた姉カミーユが、久しぶりに実家へ帰省する。再会を喜びつつも、マリアは、どこか寂しい気持ちが心に残っていた。 カミーユとの再会の日、フレッドも伯爵家を訪れる。だが、その態度は、マリアの心に冷たい水を浴びせるような衝撃をもたらした。フレッドはカミーユに対し、まるで夢中になったかのように賛辞を惜しまず、その異常な執着ぶりにマリアは違和感を覚える。ヒューゴも同席しているにもかかわらず、フレッドの態度は度を越していた。 フレッドの言動はエスカレートし、「お姉様みたいに、もっとおしゃれしろよ」とマリアにまで、とげのある言葉を言い放つ。清廉潔白そうに見えた大神官の仮面の下に隠された、権力志向で偽善的な本性が垣間見え、マリアはフレッドへの信頼を揺るがし始める。カミーユとヒューゴもさすがにフレッドを注意するが、彼は反省の色を一切見せない。

婚約破棄した王子は年下の幼馴染を溺愛「彼女を本気で愛してる結婚したい」国王「許さん!一緒に国外追放する」

佐藤 美奈
恋愛
「僕はアンジェラと婚約破棄する!本当は幼馴染のニーナを愛しているんだ」 アンジェラ・グラール公爵令嬢とロバート・エヴァンス王子との婚約発表および、お披露目イベントが行われていたが突然のロバートの主張で会場から大きなどよめきが起きた。 「お前は何を言っているんだ!頭がおかしくなったのか?」 アンドレア国王の怒鳴り声が響いて静まった会場。その舞台で親子喧嘩が始まって収拾のつかぬ混乱ぶりは目を覆わんばかりでした。 気まずい雰囲気が漂っている中、婚約披露パーティーは早々に切り上げられることになった。アンジェラの一生一度の晴れ舞台は、婚約者のロバートに台なしにされてしまった。

「女友達と旅行に行っただけで別れると言われた」僕が何したの?理由がわからない弟が泣きながら相談してきた。

佐藤 美奈
恋愛
「アリス姉さん助けてくれ!女友達と旅行に行っただけなのに婚約しているフローラに別れると言われたんだ!」 弟のハリーが泣きながら訪問して来た。姉のアリス王妃は突然来たハリーに驚きながら、夫の若き国王マイケルと話を聞いた。 結婚して平和な生活を送っていた新婚夫婦にハリーは涙を流して理由を話した。ハリーは侯爵家の長男で伯爵家のフローラ令嬢と婚約をしている。 それなのに婚約破棄して別れるとはどういう事なのか?詳しく話を聞いてみると、ハリーの返答に姉夫婦は呆れてしまった。 非常に頭の悪い弟が常識的な姉夫婦に相談して婚約者の彼女と話し合うが……

要らないと思ったのに人に取られると欲しくなるのはわからなくもないけれど。

しゃーりん
恋愛
フェルナンドは侯爵家の三男で騎士をしている。 同僚のアルベールが親に見合いしろと強要されたと愚痴を言い、その相手が先日、婚約が破棄になった令嬢だということを知った。 その令嬢、ミュリエルは学園での成績も首席で才媛と言われ、一部では名高い令嬢であった。 アルベールはミュリエルの顔を知らないらしく、婚約破棄されるくらいだから頭の固い不細工な女だと思い込んでいたが、ミュリエルは美人である。 ならば、アルベールが見合いをする前に、自分と見合いができないかとフェルナンドは考えた。 フェルナンドは騎士を辞めて実家の領地で働くために、妻を必要としていたからである。 フェルナンドとミュリエルの結婚を知ったアルベールは、ミュリエルを見て『返せ』と言い出す、というお話です。

【完結】「別れようって言っただけなのに。」そう言われましてももう遅いですよ。

まりぃべる
恋愛
「俺たちもう終わりだ。別れよう。」 そう言われたので、その通りにしたまでですが何か? 自分の言葉には、責任を持たなければいけませんわよ。 ☆★ 感想を下さった方ありがとうございますm(__)m とても、嬉しいです。

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。