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愛しい君に
アダムは牢から出ると、胸に手をあてた。
何故シャロンが目覚めないのか、ようやく理解できた気がした。
精霊の湖は、願いを叶える力があるという。
精霊が、住んでいるのだ。
信じてなどいなかったが、シャロンの望みはきっと、叶えられてしまったのだろう。
シャロンが望んでいたのは、自死ではなくて、消え去ること。
死ではない。消えること。だから目覚めない。その魂は、湖の底へと連れ去られてしまった。
どうか戻ってきてくれ。君を愛しているのだと、伝え続けた。
筋力が落ちないように丁寧に体を動かして、体を清めて。
食事は、受け付けなかった。けれど、その肉体は滅びなかった。
不思議な力が働いているとしか思えなかった。
精霊の湖に祈りを捧げ、シャロンを返して欲しいと伝えて――。
三年。二度とその目は開かないのかと思っていた。
肉体だけでもいい。ずっと傍においておこうと、覚悟を決めていた。
だって、これほどまでに愛しているのだから。
目覚めたシャロンは、少し話しただけだと言った。
シャロンにとってはそうかもしれない。けれどアダムは、三年間毎日ずっと、シャロンに話しかけ続けていたのだ。
誰にも話すことのなかった、過去の話も。
僅かに残った母の思い出も。
君にまた、撫でて貰いたい。
隣で眠って貰いたい。
君と話がしたい。声が聞きたい。助けられなくて、すまなかったと。何度も、何度も。
だから――。
「もう、君を脅かすものはなにもない。これからは、私の傍にいて欲しい。泣いたり笑ったり、怒ったり。君の心はもう自由なのだから」
「……アダム様。分かりません。私には、何が起ったのか。どうして、アダム様が私を……」
「これから時間をかけて、君に愛を捧げていくよ。覚悟しておいて欲しい」
手を握ってそう告げると、恥ずかしそうに微笑むシャロンが、愛しい。
どうか、思い知って欲しい。
どれほどこの気持ちが激しく重く、暗いものなのかを――。
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