崖っぷち令嬢は冷血皇帝のお世話係〜侍女のはずが皇帝妃になるみたいです〜

束原ミヤコ

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 ティディス・クリスティスは皇帝陛下の寝かしつけ係 2

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 私には――レイシールド様に何があったのか、全て分かるわけではないけれど。
 眠れないぐらいに深い傷を、心に受けたのだろう。
 だって、レイシールド様は優しい方だ。
 そんな優しい方が、優しい少年が、幼い頃に、敵兵に襲われて多くの死を見たのだから、どんなに苦しかっただろうと思う。
 それを、察してくれる大人はいなかったのだろうか。
 少なくとも、レイシールド様のお父様やお母様は、そうではなかったみたいだ。

「一緒にいます。今日は、レイシールド様がお休みになるまで、一緒に」

「それでは、足りない」

「え?」

「ティディス。……お前は、シュゼットの力で俺を眠らせるつもりだろう」

「はい。シュゼットちゃんには、人を眠らせる力があるのですよ。シュゼットちゃんにかかれば、どんなに怒っている人でもぐっすり……私もぐっすり、朝までぐっすりしすぎて、オリーブちゃんとローズマリーちゃんに、お姉様が死んじゃったと泣きじゃくられたのもいい思い出です」

 あのときは可愛かったわね。
 興味半分でシュゼットちゃんの力を使って貰って寝かせて貰ったら、昼過ぎまでそれはもうすやすや寝てしまった。

「あ……私、その、……すごく、自分のことばかりお話してしまって……レイシールド様は、いつも私の言葉を待っていてくださるので、つい、たくさんお話ししてしまいます」

「それは、駄目なことか?」

「私……本当は、お話しするのは嫌いじゃなくて、すごく楽しいです。でも、ご迷惑ではないでしょうか」

「お前の声を、もっと聞きたい」

「……ありがとうございます」

 真っ直ぐに瞳を見つめられて、密やかな声でそんな風に言われると、なんだか照れてしまう。
 私は頬を染めた。
 私の側でなりゆきを見守っていたリュコスちゃんたちが、寝室の入り口にあるふかふかの絨毯の上で丸くなった。

「……俺は、期待していいのだろうか」

「レイシールド様?」

「ティディス。……頼みを、聞いてくれるか」

「は、はい! もちろんです……!」

「できれば、シュゼットの力ではなく、眠りたい。お前に、隣にいてほしい」

 私は目をぱちくりさせた。
 一体何を言われたのかよくわからなくて。
 戸惑う私の前で、レイシールド様は大きくてふかふかのベッドに横になった。
 それから、自分の隣を軽く示す。

「嫌なら、このまま帰ってくれて構わない。……だが、もし……お前が、いいのなら、共に眠りたい」

「そ、それはその、ええと、その……レイシールド様は皇帝陛下で、私は侍女ですので、よくないような気がします……」

「お前は、シリウスから聞いているだろう。ここに送り込まれる侍女は、俺の嫁候補であると。だから、別に問題は無い」

「……そ、そうですけど、私はその、貧乏ですし……」

「俺が嫌いか?」

 嫌いなわけがない。
 こんなによくしていただいているのだから、嫌いなわけがない。
 レイシールド様は私の理想の旦那様で、末永くお仕えさせていただきたいと思っているもの。
 でもそれは、あくまでも主と侍女の関係で、お嫁さんになるなんて考えたこともなくて。
 でも、好きか嫌いかと問われたらそれはもちろん──。

「好きです、けれど……」

「何もしない。お前の声を、傍で聞きたい。髪を撫でて欲しい。朝まで、傍に」

「……寝てしまうかも、しれません、私」

「構わない」

「……本当に、いいのでしょうか」

「あぁ。ティディス。……お前が傍にいてくれたら、俺は悪夢を見ないですむ、気がする」

 あぁ──そうなのね。
 レイシールド様は、悪夢を見るから、眠れないのだ。
 敵兵に追いかけられた悪夢を、それを打ち倒した時の悪夢を、きっと、見ているのだろう。
 私はそろそろと、ベッドにあがった。
 レイシールド様の隣に座る。

「こ、高級ベッド……高級すぎて、目眩が……」

「気に入ったか?」

「そ、それはもう、緊張で体が固まるぐらいに……」

 レイシールド様は、ベッドのクッションにゆったりと体を埋めている。
 私とレイシールド様、二人で寝転がってもまだ広さのある、大きなベッドだ。天蓋もついている。
 まるで、本物の貴族とか、お姫様になった気分だ。

「……それでは、ええと、レイシールド様。何かお話をしましょうか。何の話がいいですか?」

「そうだな……お前が、幼い頃の話がいい」

「あまり面白い話はありませんけれど……」

「お前の話なら、なんでもいい」

 私は恐る恐る、レイシールド様の髪を撫でた。
 気持ちよさそうに瞳を閉じるのが、人慣れしない動物がはじめて懐いてくれたみたいでなんだか嬉しかった。

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