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お化けさんとの出会い
しおりを挟むつるつる、ごつごつ、すべすべしている。
その肩に甕を担いでお湯を溢れさせているアレスは、片膝をついてその精悍な顔でどこか遠くを見つめている。
私はおそるおそる自分の秘所に、そろそろと手を這わせた。
軽く、肉芽に触れてみる。
ピンと指で弾くと、昨日よりも甘く柔らかな、けれど確かにその先に快楽のある感覚が下腹部にひろがって、目を細める。
「ん、ぁ……」
アレスが動き出して、太く硬そうな指先で私の体を抱きしめてくれたら、どんな感じなのかしら。
硬い胸板に胸があわさり、ぬかるんだ秘所に指が這わされるのを想像しただけでぞくぞくした。
ざわりと、風が吹き抜けてお湯を波立たせる。
はっとして、目を見開く。
その清涼感に私の意識は、正気に引き戻された。
慌ててぱっと自分の体から手を離して、同時に石像をすりすりするのをやめる。
「石像に欲情してしまった……」
涙がじわりと、目尻に滲む。
婚約破棄されて、好きな男性に振られて、一人になって。
悲しさが癒えないのは仕方ないとして、その好きな男性にはしたないことをされる妄想じみた夢を見て。
その上、裸の男性の像に欲情してしまうとか。
精巧に彫られた陰茎や精嚢をじっくり観察した挙句、すりすりしながら自分を慰めようとするなんて。
「どうかしているわ……ごめんね、アレス。あなたをいやらしい目で見てしまって。朝も夜も、ひたすら寡黙に甕を持ち上げ続けてくれているのに。ひどい女だわ、私」
唯一の同居人にして、仲良くするべき友人である石像のアレスに欲望を抱くなんて。
私はひとしきり反省をした。
反省をしながら、浴室に筋骨逞しい裸の男性像を設置した、屋敷の元の所有者をわずかに恨んだ。
一体どんな人が住んでいたのかしら。
没落した貴族だとは聞いたけれど、ずいぶん昔の話なので街の人々も覚えていないのだとか。
ずいぶん昔というのは、百年程度ではないもっと昔だろう。
羽振りはよかったみたいだ。
家具や調度品は、誰かが持ち出したのかあまり残っていないけれど、建物の造り自体はとても立派なものだ。
「街の規模に比べて、立派な屋敷よね、アレス。あなたを作れと命じた人は、名のある貴族だったのかしら」
羞恥心と罪悪感を誤魔化すように、アレスに話しかけてみる。
アレスは無言で、甕を持ち上げ続けている。
『続きは、しないのか』
「えっ……」
低い男性の声で、話しかけられたような気がして、私は目を丸くした。
「今、声が……」
した気がしたのだけれど、気のせいだろうか。
「アレスが喋った……!」
『聞こえるのか……?』
「アレス、喋ったわ……!」
そういえば、この屋敷にはお化けが出るのだと、町の人々が言っていた。
私はあまり気にしていなかった。
お化けなんて子供の作り出した幻想だ。
そう思っていたし、失うものがなにもない私にとって、屋敷にお化けがいようがいまいが些少の違いである。
とはいえ、実際目にするとびっくりするものだ。
正直、ちょっと怖い。
背筋がぞくぞくしたけれど、それよりも羞恥心が恐怖を凌駕した。
お化けであっても、話すことができれば意思があるのだ。
つまり、見られていた。
石像に欲情する変態女の姿を……!
「アレスがお化けだったの? ごめんなさい、あなたに興奮してしまいました、私……っ、私のはしたなさに呆れて、つい声をかけてしまったのですか……!?」
恥ずかしい。私はもっと、物静かで淑やかな淑女だったはずなのに。
『石像ではない。俺の名は……なんだったか』
「名前、わからないのですか?」
『忘れた』
「そ、そうなのですね……それは、困りました。あなたは一体誰なのでしょう……」
『まぁ、名など、どうでもいい。そんなものはただの記号だ』
それはそうかもしれないけれど。
お化けさんの声は、迫力のある、やや威圧的な声音である。
低く勇ましい。そしてどこか、甘い響きを帯びている。
『長くここにいるが、俺の声が聞こえた人間ははじめてだ。俺も自分が何者なのか、長く続く人生のせいですっかり忘れてしまったが、俺のようなものの存在とは、見えない、触れられない、聞こえないのが普通だからな』
「つまりあなたはやっぱりお化けなのですね。長らくとは、どのぐらいでしょうか」
『さて。五百年か、千年か。忘れたが、そのあたりだ』
「長生きなのですね」
五百年以上も続く人生など、気が遠くなる。
お化けだから、人生というのもおかしい気がするけれど。
『俺が化け物だとして、怯えて逃げないのか?』
「理知的に話してくださる男性の声を、怖がったりはしませんけれど……あ、あ、あぁ!」
私はふと重大なことに気づいて、一気に青ざめた。
「お化けさん、いつからそこに……!」
『ずっといたが』
ということは、見られていた。
あれもこれも、全部!
「いやぁぁあ!」
私はお風呂場から飛び出すと、体にガウンを巻きつけて、自室に閉じこもった。
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