48 / 52
使い魔の猫
拘束が解かれたファウストが、己の傷を抉るように肩を強くつかんだ。
「残念だったな、リュクシアス。隷属の魔力紋を解除する魔法はすでにある。あの時はそれができず、お前に従うしかなかったが、今は違う。シルフィ様の紋様を調べ、解呪の方法を私が構築した。甘んじて隷属を受け入れるわけがないだろう」
ファウストの首の紋様が青く光り、パキンとガラスが砕けるように消えた。
そして彼は、シルフィに手を伸ばす。
媚びるような瞳に見つめられ、シルフィは眉を寄せる。
「リリス、覚えているでしょう。私の献身を。だというのにあなたは私を忘れてしまった。残酷な人だ」
「覚えています。でも」
リリスが捕縛されたとき、ファウストは己もリリスに操られていたと言ったのだ。
彼は自ら望んで、リリスに従っていたというのに。
それは裏切りだった。だがリリスはファウストを信じてなどいなかったので、傷ついたりはしなかった。
彼との間にあったのは、互いの欲を満たす関係に過ぎない。
結局ファウストが何を考えているのかは最後までわからなかったが、それもリリスにとっては興味も関心もなかった。
「あなたは……どうして、私の傍にいたのですか。いいえ、そんなことはもうどうでもいい。私はシルフィ。リリスでは、ありません」
今更、心を動かされたりはしない。
彼が嘘つきで、残酷で、シルフィやリュクシアスを傷つけるために行動をしていることだけはわかる。
「そのとおりだよ、フィー。君は、シルフィ。別の人生の記憶があろうが、君はフィーだ」
シルフィの体をファウストから隠すように抱いて、リュクシアスが言う。
シルフィに向けるものとは違う、感情の籠らない醒めた声で続ける。
「それにしてもファウスト、罰が足りないようだ。お前は、懲りないな。かつて俺はお前を殺し、転生魔法の贄にした。四肢をひきさく苦痛に、そのいかれた頭も憎しみまみれの心も落ち着いたかと思ったが」
「ふざけるな。お前のせいで、怠惰な人生をもう一度繰り返しているんだ。少しぐらい刺激がないと楽しくない。私は何度でも、お前からリリスを奪う。お前の絶望を眺めたいんだ」
「嘘だな。お前は許せないだけだ。かつてはお前に縋っていたリリスが、俺に縋り俺を愛することが許せないのだろう。だがお前に、フィーに触れる資格はない。それがあるのは俺だけだ」
さぁ、と。
リュクシアスは両手を広げた。
「そのうるさい口を、閉じてもらおうか。両手があると余計なことをする。人の言葉を話せると、さらに余計なことをする。お前は、そうだな……動物になるぐらいがちょうどいい」
ファウストの足元から、黒い影が伸びてきて彼の体にまとわりついた。
影が消えると──そこには、両手で抱えられる程度の大きさの檻が置かれている。
そしてその中では、金の瞳をした黒い猫が毛を逆立てて威嚇をしていた。
「人生を二度、繰り返したくないのだろう? お前は、猫。俺の使い魔として、飼われるといい。よかったな、ファウスト。俺の元にいれば、シルフィを見ていることができる。檻の中で、存分にな」
猫はなにか文句を言ったようだが、それは鳴き声にしか聞こえなかった。
リュクシアスが指を弾くと、檻も猫も消えてしまった。
シルフィは、呆気にとられながらそれを見ていた。
人が猫に変わる魔法など、シルフィは知らない。
しばらくぼんやりしていたシルフィはふと我に返り、弾けるようにリュクシアスを見上げる。
何か尋ねようと口を開く前に、リュクシアスは愛しげに目を細めて、きつくシルフィを抱きしめた。
シルフィは「アストリウス様」と呟いた。
今はもう、はっきりと思い出すことができた。
リュクシアスは、アストリウスに似ている。
髪型こそ違えど、似ているどころではなく、同じ顔をしていた。
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました
春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。
名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。
誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。
ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、
あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。
「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」
「……もう限界だ」
私は知らなかった。
宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて――
ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041