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冤罪
しおりを挟む冬が過ぎ、春になった。
オスウィンとフェリシアの結婚式の日取りが近づいている。
けれどオスウィンはフローラとばかり、時間を過ごしていた。
マデリンも、まるでオスウィンをフローラの夫のように扱っており、フェリシアのハインツィア家での居場所は相変わらずどこにもないままだった。
婚約を、反故にしてもらおう。
でも、そんなことができるのか。
ここから、逃げて砂漠の国に行こう。
──砂漠というのは、どこまでも果てしなく広がる砂地なのだという。
白く美しい砂が、どこまでもどこまでも続いていて、それはまるで砂の海のようだという。
ここで死ぬより、その美しい砂の上で死にたい。
きっと砂が、何もかもを隠してしまうだろう。フェリシアの生きた証でさえ。
サリハに行こう。そう決意した矢先のことだった。
それは、オスウィンの卒業式典。王立学園には多くの貴族が集まり、王太子殿下の卒業を祝っていた。
フェリシアもドレスを着て、参列していた。
式典が終わったら、オスウィンに別れを告げよう。
どうかフローラと幸せになって欲しい。もう、貴族として暮らしたくない。
──どこか遠くに、あなたたちの邪魔にならない場所に消えるから。
何も告げずに逃げるべきかと悩んだが、伝えるべきだと判断をした。
そうすればオスウィンは何の気兼ねもなくフローラと結婚ができる。
フェリシアのことは、『好きな男と逃げた恥知らずの女』とでも言っておけば、皆が納得するはずだ。
何があったのか、どこに行ったのかさえわからないのでは、かえって彼らに迷惑がかかるだろうと考えた。
静かに式典の終わりを待っていたフェリシアは──けれど、兵士たちに突然拘束をされた。
そして、オスウィンの大きな声が式典会場に響き渡った。
「皆、聞け! そこにいるフェリシアは、醜悪なことに蛇を飼っていたのだという! その蛇は、フェリシアに命じられてハインツィア家の使用人たちに危害を加えたそうだ!」
会場が、ざわめく。
どうして今になってイグニスのことを、と、フェリシアは目を見開いた。
オスウィンの横で、フローラがにやにやと笑みを浮かべている。
「ハインツィア公爵家は、フェリシアを不憫に思いそれを隠していたようだが、私の身を案じたフローラが私に教えてくれた。フェリシアはサリハに通じている、裏切り者の売国奴だとな!」
「……っ、違います、私はサリハに通じてなどおりません!」
イグニスは、言葉を話すこともできない。人の姿に戻ることもない。
ただの、蛇だった。
蛇を飼うことは罪だ。だが、内通者などではない。
フェリシアの反論は黙殺された。オスウィンの「黙らせろ」の一言で、兵士たちに口の中に布を詰め込まれる。
「内通者は死罪だ。父からもすでに了承を得ている。父は、オリヴィア殿が自分を恨み、フェリシアにサリハと内通をさせたのだろう。復讐をするだめだと言った。フローラのおかげで、内通者に気づくことができた。フェリシアは、処刑とする」
──そして私は、フローラと婚約をする!
高らかなオスウィンの声を、フェリシアはどこか遠くの世界の出来事のように聞いていた。
どうせ死ぬのなら、美しい砂漠を見て死にたかった。
投獄され、処刑台にのぼらされたフェリシアは、ただそれだけを考えていた。
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