最強の私と最弱のあなた。

束原ミヤコ

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猫パンチ

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 そういえば、私はサリエルを殴るんだった。
 私のベッドで足を組んで「食事と運動は基本らしいが」などと言っているサリエルの前に、私は足を開いて立った。

「サリー、気が済まないから一発良いかしら」

「いっぱつとは?」

「なぜこの私が死んだあとに、ミジンコみたいなメンタルの女の相手をしたり、ゴミみたいな兄のような者の相手をしなくてはいけないの! あと眼鏡をかけすぎ。眼鏡率が高すぎるのよ!」

 私はサリエルの頬を容赦なく叩いた。
 ぱしん、という音がするかな、と思ったのだけれど、フニャッという感じだった。
 なにこれ。

「非力だな、シャーロット。可愛い」

 サリエルは、全く痛みを感じていないようだった。

「ぅきぃぃいいぇぇぇ!」

 私としたことが、あまりの腹立たしさに奇声をあげてしまったわ。
 可愛いですって。
 なんて屈辱的なの。
 今まで数々の侍従たちや、失礼な令嬢たちを黙らせてきた私の平手打ちが、きかないなんて。

「猿かな」

「覚えてなさい、サリー! 鍛えに鍛えて鍛えまくって、あなたなんてそのうち鞭打ちにして、ひいひい言わせてやるわよ」

「この世界では、滅多なことでは鞭は手に入らないが」

「鞭も売っていないの? 不自由なんだか便利なんだか!」

 私は肩で息をした。
 息切れがすごい。せっかくシャワーを浴びたのに、汗ばんでくるわよ。

「うぅ、なんなの、この体。今すぐ寝たい……立っているのが辛いわよ……」

「シャーロット、散らかした服をたたむことを提案する」

「嫌よ。なぜこの私が、そのようなことをしなくてはいけないの? それは使用人の仕事よ。サリー、やっておいて」

「ダイエットは、運動が大切だ。風呂に入っただけで一休みとは、大きな口をたたいた割に、情けないな」

 こいつ、このやろう。
 私は頼んでいないのよ、シャーロットのまま死んで終わりで別によかったのに。
 でも、そうね。
 サリエルの言うことにも一理ある。

「整理するわよ、サリー。手伝いなさい」

「俺は今日からの君の運動メニューについて考えるから、忙しい」

「ああもう、わかったわよ」

 私は床に座って、一枚一枚服を畳んだ。
 私が鍛えて強くなったら、あらためてサリエルを殴ろう。それが良いわね。


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