19 / 53
シャーロット様、食堂を利用する
しおりを挟む食堂である。
そう、食堂。
シャーロット・ロストワンだった私は、食事といえば侍女が運んでくるものだった。
自分の所持金で何かを購入してご飯を食べるというのは初体験だ。
それなりに広さのある食堂には簡素な机と椅子が整然と並んでいて、生徒たちは思い思いの食事をそれぞれの席に座って食べている。
ホワイトボードには今日の定食は『ヒレカツ定食』と書かれている。
それ以外に、お蕎麦とうどん。それから、カレーライス。つけあわせでサラダを頼むことができる。
飲み物はペットボトル飲料か、水。
まずは入り口にある券売機なるもので、食券を購入して、食事を注文する仕組みになっているようだ。
「……お金を入れると、紙が出てくるのね。不思議だわ」
私は券売機の前に立って、ぶつぶつ呟いた。
三月さんに絡まれたせいで食堂への到着時刻が遅れてしまったため、券売機の前は空いていた。
早い時間に来ると行列ができるーーという記憶がある。これは果林の記憶である。
果林は食堂を使うことなんてなかったのだけれど。
これは三月から逃げるためと、兄という名前の塵眼鏡に会いたくないからのようだ。
気持ちはわかる。私だってあの眼鏡と顔を合わせたくはない。
とはいえ、塵眼鏡こと蒼依の存在が私の行動を妨げるなんて馬鹿馬鹿しいことこの上ないので、私は食堂にきたわけだけれど。
「私が頼むべきは、サラダ……そう、サラダ……」
二千円しか入っていないお財布からなけなしの千円札を出す。
サラダは三百円。ヒレカツ定食は五百円。
「サラダが三百円で定食が五百円なんて、どういうことなの……」
私は券売機の前で愕然とした。
どう考えてもヒレカツ定食の方が費用対効果が高い。カロリーも高い。
「君が頼むべきは、サラダ。しかしサラダだけではタンパク質が足りないため、俺が購買で購入してきた魚肉ソーセージを特別にプレゼントしてあげよう」
千円札を突っ込んだ券売機で、赤く光るサラダと定食のボタンを前に、指を差し出して指先をぷるぷるさせていた私の背後に、背の高い男が立った。
沙里衛士先生ことサリエルである。
サリエルは無情にもサラダのボタンを長い指で押した。
ピッという音がして、食券がパサりと落ちてくる。
「……………非道だわ」
私はサリエルを睨んだ。
私の食券を買うという初体験はサリエルに奪われたのである。ボタン、押したかった。
「購入の仕方がわからないのかと思って」
「知っているわよ。記憶にあるもの。私の記憶じゃないけど。サラダが三百円で、ヒレカツ定食が五百円なのよ、サリー」
「そうか。ならば俺はヒレカツ定食を食べよう」
サリエルは自分の分のヒレカツ定食を黒い財布を取り出して購入した。
私はサラダの食券を手に持って、サリエルの財布を覗き込む。
一万円札がわんさか入っている。サリエルがこの国で労働してきたとは思えないので、これも天使の不思議な力の一つなのかしらね。
詐欺だわ。
「……ちょっと待ちなさい、まさか一緒に食べるつもり?」
「そうだが、何か問題が?」
「問題しかないわよ」
「君は孤独な女子生徒。担任として俺は君を放っておけない。正しい担任の在り方では?」
「いらないわよ、不必要よ、サラダを食べる私の前で何堂々とヒレカツ定食食べようとしているのよ……!」
「俺たちに体重の増減という概念はないからな」
「呪われると良い……!」
本当はサリエルの眼鏡をむしりとって床に叩きつけてやりたかったけれど、サリエルの背が高すぎて届かない。
私ののばした手は空を切って、サリエルの前で片手を伸ばしてぴょんぴょん跳ねることしかできなかった。
ぴょんぴょん跳ねると息切れがする。
サリエルと一緒にいるだけで痩せることができそう。怒りで。
18
あなたにおすすめの小説
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
婚約破棄された私の結婚は、すでに決まっていた
月山 歩
恋愛
婚約破棄され、心の整理がつかないアリスに次の日には婚約の打診をするルーク。少ししか話してない人だけど、流されるままに婚約してしまう。政略結婚って言ったけれど、こんなに優しいのはどうしてかしら?
死に戻って王太子に婚約破棄をしたら、ドSな司祭に婚約されました〜どうして未来で敵だった彼がこんなに甘やかしてくるのでしょうか〜
まさかの
恋愛
ソフィアは二十歳で死んでしまった。
王太子から婚約破棄されてからは、変な組織に入り、悪の道に進んでしまった。
しかし死ぬ間際に人の心を取り戻して、迷惑を掛けた人たちに謝りながら死んでいった――はずだった!
気付いたら過去に戻っていた!
ソフィアは婚約破棄される当日に戻ってきたと勘違いして、自分から婚約破棄の申し出をしたが、まさかの婚約破棄される日を一年間違えてしまった。
慌てるソフィアに救いの手、新たな婚約を希望する男が現れ、便乗してしまったのが運の尽き。
なんと婚約をしてきたのは未来で、何度も殺そうとしてきた、ドSの武闘派司祭クリストフだった。
なのに未来とは違い、優しく、愛してくれる彼に戸惑いが隠せない
だが彼もなんと未来の記憶を持っているのだった!
いつか殺されてしまう恐怖に怯えるが、彼は一向にそんな素振りをせずに困惑する毎日。
それどころか思わせぶりなことばかりする彼の目的は何!?
私は今回こそは本当に幸せに生きられるのだろうか。
過去の過ちを認め、質素にまじめに生き抜き、甘々な結婚生活を送る、やり直し物語。
小説家になろう、エブリスタ、アルファポリス、カクヨムで投稿しています。
第10話から甘々展開になっていきます。
【完結】セクハラ護衛騎士と婚約者の観察日記
buchi
恋愛
ハンナは実は大富豪でもある伯爵家の娘。地味でおとなしいので、公爵家の一人娘の婿の座を狙う婚約者から邪魔者扱いされて、婚約破棄を宣言されてしまう。成績は優秀なので王女殿下のご学友に選ばれるが、いつも同席する双子の王子殿下に見染められてしまった。ただし王子殿下は、なぜか変装中で……変装王子と紡ぐ「真実の愛」物語。王道のザマアのはず(ちょっと違う気もするけど、いつものことさっ) 完結しました。
恋は、母をやめてから始まる――正体を隠したまま、仮の婚約者になりました
あい
恋愛
両親を失ったあの日、
赤子の弟を抱いて家を出た少女がいた。
それが、アリア。
世間からは「若い母」と呼ばれながらも、
彼女は否定しなかった。
十六年間、弟を守るためだけに生きてきたから。
恋も未来も、すべて後回し。
けれど弟は成長し、ついに巣立つ。
「今度は、自分の人生を生きて」
その一言が、
止まっていた時間を動かした。
役目を終えた夜。
アリアは初めて、自分のために扉を開く。
向かった先は、婚姻仲介所。
愛を求めたわけではない。
ただ、このまま立ち止まりたくなかった。
――けれどその名前は、
結婚を急かされていた若き当主のもとへと届く。
これは、
十六年“母”だった女性が、
もう一度“ひとりの女”として歩き出す物語。
飽きて捨てられた私でも未来の侯爵様には愛されているらしい。
希猫 ゆうみ
恋愛
王立学園の卒業を控えた伯爵令嬢エレノアには婚約者がいる。
同学年で幼馴染の伯爵令息ジュリアンだ。
二人はベストカップル賞を受賞するほど完璧で、卒業後すぐ結婚する予定だった。
しかしジュリアンは新入生の男爵令嬢ティナに心を奪われてエレノアを捨てた。
「もう飽きたよ。お前との婚約は破棄する」
失意の底に沈むエレノアの視界には、校内で仲睦まじく過ごすジュリアンとティナの姿が。
「ねえ、ジュリアン。あの人またこっち見てるわ」
ティナはエレノアを敵視し、陰で嘲笑うようになっていた。
そんな時、エレノアを癒してくれたのはミステリアスなマクダウェル侯爵令息ルークだった。
エレノアの深く傷つき鎖された心は次第にルークに傾いていく。
しかしティナはそれさえ気に食わないようで……
やがてティナの本性に気づいたジュリアンはエレノアに復縁を申し込んでくる。
「君はエレノアに相応しくないだろう」
「黙れ、ルーク。エレノアは俺の女だ」
エレノアは決断する……!
逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子
ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。
(その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!)
期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる