最強の私と最弱のあなた。

束原ミヤコ

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シャーロット様、サラダ生活を始める

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 サリエルと私は向かい合って食堂の席に座った。
 サリエルの前には、艶々と輝く白米と、キャベツの上に並んだヒレカツと、お味噌汁と漬物と、付け合わせのポテトサラダという完璧な定食が置かれている。

 そして私の前には、小さなサラダボウルに入った、レタスとキュウリとトマトが並んだ何の変哲もないサラダ。

 そしてサリエルから与えられた魚肉ソーセージが一本、ぽつんと四角いトレイの上に置かれている。


「いただきます」


 私は両手を合わせて、食事の前のご挨拶をした。

 ご挨拶は大事だ。果林の国では食事前の祈りとはこのように捧げるらしい。

 サリエルも私を見習って同じように挨拶をすると、黙々とヒレカツ定食を食べ始める。

 すごい美味しそう。すごい美味しそう。私の細胞が脂を欲しがっているのがわかる。負けるな私、頑張るのよシャーロット・ロストワン。

 誘惑に負けてはいけない。サラダだって美味しそうじゃない。


「……サラダおいしー」

「……泣きながら言わなくても」


 こんなに食欲に欲望を振り切ったことがあったかしらというぐらい、ヒレカツなるものが食べたい。

 私の国にはない食べ物だけれど、それは豚肉を油で揚げたもので、とても美味しいという記憶がある。

 果林に食事を与えることを生き甲斐にしているような、ややメンタルが不安定な果林のお母様もよくヒレカツを作っていた。
 美味しいのである。白米とヒレカツ、最高に美味しい。そしてカロリーが高い。
 私はゆっくりとシャキシャキのレタスやキュウリを食べた。
 サラダ美味しい。それは間違いない。
 野菜不足の体に野菜の栄養素が染み渡る。


「このような食事を摂るのははじめてだが、なかなか、旨いものだな」

「そうでしょうね! 滅びろ!」

「シャーロット、先ほどから俺に妙に攻撃的なのは、女性特有のバイオリズムの問題なのだろうか」

「ヒレカツ定食が戦争を引き起こすのよ」

「無事に理想的な体型になれた暁には、お祝いにヒレカツ定食を食べよう」

「お祝いなのに学園の食堂で済ますつもり? 私を誰だと思っているの」

「シャーロット。今は、果林」


 私はため息をついて、魚肉ソーセージを手にした。
 魚肉ソーセージの側面にはピシッとビニールが張り付いている。


「これは、どうやって食べるのかしら……皮が剥けないわ。これは皮よね。魚肉ソーセージの、皮……?」


 皮と表現するのが正しいのかどうなのかよくわからないけれど、皮っぽい。
 赤いテープをピッと剥がしてみたけれど、側面のビニールが剥ける気配がない。


「……サリー」

「君にも苦手なことがあるのだな」

「魚肉ソーセージの皮をむく勉強なんてしたことがないわよ。というか、こんな食べ物私の国にはなかったわよ」

「貸してくれる?」


 私たちの会話に別の声が混じった。
 見上げるとそこには、先ほど廊下ですれ違った、私が三月さんに絡まれる原因を作った榊先輩とやらが立っていた。
 榊先輩は自分の持っていたトレイを私の横に置くと、私の手から魚肉ソーセージを抜き取った。
 榊先輩のトレイには、天ぷら蕎麦が乗っている。すごい美味しそう。


「これで良いかな。……ここ、席空いてる?」

「ええ、空いていますけれど……」


 器用に魚肉ソーセージの皮を剥いて、榊先輩は私に魚肉ソーセージを渡してくれた。
 それから私の隣の席に座る。
 食堂の他の席がいっぱい、というわけではない。
 そして果林が榊先輩と個人的に親しかったという記憶もない。
 これは榊先輩が極度の魚肉ソーセージ好きだという可能性が高い。
 魚肉ソーセージから始まるロマンス。
 ないわね。ないない。
 サリエルは奇妙なものを見るように、榊先輩を見ていた。
 それから私から魚肉ソーセージを受け取ろうと伸ばしていた手を、一度握ると、引っ込めた。





 


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