リリアンナ・セフィールと不機嫌な皇子様

束原ミヤコ

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遺跡探索と雪解けの春

 二度目の救出 2

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 私の見た目というのは、どちらかというと大人びていて妖艶な悪女という雰囲気がある。美女でなくて悪女なのは、気の強そうな顔立ちが、おとぎ話や恋愛小説などに出てくる、まさしく悪女、といった風情だからである。
 けれどそんな見た目なのに、胸だけは小さい。

 両手ですっぽりおおえて隠れてしまうほどに小さい。
 胸を見られたことよりも、小さいことを知られたことが恥ずかしい。
 きっと、どうとも思わないわよね。だって小さいもの。フィオルド様、慌てた様子もないし、表情も変わらないし。
 むしろ、落胆したのではないかしら。
 だって男性は総じて大きい胸にときめくものだと思うし。

 いつだかそんなことをドロレスに相談したら「そんなことはありません、お嬢様。妖艶なお嬢様の胸が小さいのはギャップ萌え、むしろ、自分がお嬢様の胸を育てる! という強い意志を持って触りたくなりものです」と言っていた。よくわからなかった。

「ぁ……あの……っ」

「なんだ?」

「助けてくださって、ありがとうございます」

「……当然だ。義務だからな」

 良かった、お礼を言えた。
 フィオルド様は短く答えると、私から視線を逸らした。

 それから「行くぞ」と言って、再び遺跡の奥に進み始める。
 正直もう帰りたかったけれど、これは授業だし、やり遂げなければいけないわよね。

 私が逃げ帰ったら、フィオルド様の成績にも傷がついてしまうもの。
 遺跡の奥には、事前に踏破証明書として記録石が置かれている。

 記録石を持ち帰るのが、今回私たちに与えられた課題だ。課題に集中できるように、一年生はいくつかの班に分けられて、各遺跡ごとに少人数で振り分けられている。

 お互いに争いをしないように、遺跡に入るのは二人一組だけ。遺跡探索にはそう長い時間がかからないので、一ペアが戻ってきたら、次の学生が遺跡に入るということになっている。
 そんなに難しい課題じゃない。みんなすんなり戻ってきていた。

 だから、私だけ逃げ帰るわけにはいかないわよね。
 私はごしごし制服で目元を擦ると、フィオルド様の背中を追いかけた。

 次はちゃんと助けを呼ぼう。お礼だって言えたのだし。フィオルド様の顔は怖いけれど、お礼を言った私に酷い言葉を言ったりしなかったし。

 うん、大丈夫。やり遂げるわよ、私。
 たまたまスライムに襲われたけれど、もうあんなことは起こらないと思うの。

「……っ、ゃ……あ、あっ」

 ――なんて思っていた時代が私にもありました。
 スライム部屋を通り過ぎて通路を歩き、次の小部屋に入った瞬間、私は植物の蔦に拘束された。

 つるりとして太く長い緑色の植物が、ざわりと部屋の隅から伸びてきて、私の両手と両足に絡みついたのである。
 フィオルド様はあっさり小部屋を抜けている。

 それなのに、どうしてなの。この遺跡の魔物は、気の弱い女を狙う習性でもあるのかしら。
 絡み付いた蔦の本体は、巨大な花だ。

 肉厚の花弁をもつ花の中央から、豊満な胸をさらけだした美しい女性がはえている。
 ただし緑色。アルラウネと呼ばれる魔物である。

 でも、普通のアルラウネよりもずっと大きい。絡み付いた蔦に、じゅるじゅると魔力を吸われている。私の魔力を吸うたびに、アルラウネは大きく元気になり、中央の女性の肌も艶々になっている気がする。
 酷い脱力感と、どうしようもない気持ちよさがある。

 普段心の奥に隠しているやわらかい部分を、無理やり殻を剥ぎとられて、口の中でゆっくりと舐られているような感覚に、私は頬を染めた。

「やだ、こわい、ぃやあ……っ」

 アルラウネの中央からは女性の姿がはえているけれど、これはただの擬態だと言われている。
 本体は花の部分で、女性は食料を釣るための擬似餌のようなもの。だから、意思もないし、話をしたりもしない。
 その女性は、嬉しそうな微笑みをたたえている。

 私の嫌がる声は届いていないように、恍惚とした笑顔で両手を広げた。

 するすると、蔦が伸びて、私の大腿に絡みつく。
 下着の中に蔦が侵入してきて、細い蔦が私の胸や、それから、臍をかりかりと刺激し始める。

「ゃ、あ、あ……っ」

 魔力を吸い上げることと、妙な場所に触ることに何か関連性があるのかしら。
 スライムもアルラウネも、捕食の前に人間をいたぶって遊ぶ趣味があるのかしら。

 そんな生態があるとか、授業で先生は言っていなかったわよね。
 できれば先に教えておいて欲しかった。事前に聞いておけば、何か違ったかもしれないのよ。

 いえ、何も変わらないとは思うけれど、覚悟とか、そういうのが違ったと思うの。
 皮膚の上になんともいえないぬるい液体がかけられる感触がある。
 粘着質な液体は、私の皮膚を滴って、宙吊りにされた私の体から、ぽとぽとと床に垂れた。

「ゃ、何、これ……」

 ぞくり、と肌が粟立つ。
 感覚が鋭敏になっていく。触られている場所が、先ほどよりもはっきりわかる。細く枝分かれしてうねる蔦が、何本も私の胸に絡みついて、胸の先端をくすぐるようにして蠢いている。

 脇腹から下着の奥へと伸びてきた蔦が、体の中心の、誰にも触られたことのない閉ざされた場所に入り込んでくる。

「いやぁ……だめ、やめて……だめなの……っ」

 こわいのに、どうしようもないぐらいに気持ち良くて、声が震える。

 私、さっきスライムに襲われたばかりじゃなかったかしら。
 みんなあっさり遺跡踏破して帰ってきているように見えたのに、実はみんなこんな目にあっていたのかしら。

 それとも、私が弱いだけ?
 その可能性はあるわよね。だって、ろくな魔法が使えないもの。

「あっ、ぁあ、……ゃ、あ、ん……っ」

 柔らかい肉の間にある小さな突起を、細い蔦がくすぐり始める。

 ぬるりとした液体は、蔦の先端から溢れているらしい。
 液体がかけられた途端に、びりびりとした甘い快楽が、ひっきりなしに体に走る。

(何、これ、なんなの……きもちい……)

 もしかして、魔物は捕食前に獲物の恐怖心を薄れさせる習性があるのかしら。
 快楽漬けにして、わけがわからなくなっているところを美味しくいただくとか、そういうことなのかしら。

 このままでは、捕食に向かって一直線だ。

 私は体をよじった。でも、拘束がとけるわけでもなくて、なんの意味もなかった。
 逃げられない。一人では、どうしようもない。

「……ふぃお、るど、さまぁ……っ、たすけ……」

「またか、リリアンナ!」

 苛立ったような声と共に、アルラウネの体が一瞬で凍りついて、バリンと音を立てて砕け散った。

 宙吊りにされていた私が床に落下する前に、駆けてきたフィオルド様が抱き止めてくださる。
 私は恐怖と、それ以上に体に残された甘い痺れに震えながら、思わずフィオルド様に泣きついた。


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