リリアンナ・セフィールと不機嫌な皇子様

束原ミヤコ

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遺跡探索と雪解けの春

 私の中の些細な変化 2

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 はふ、と唇から漏れた吐息は、思いの外甘くて、フィオルド様に気づかれてしまったらどうしようと、私は視線を彷徨わせた。

「リリィ、顔が赤い。まさか、熱が……」

「……大丈夫だと、思います」

「昨日……お前ははじめてだったのに、私はお前の体を貪るように、ひどくしてしまった。……辛かったのではないか」

 フィオルド様は私の手からグラスを受け取ると、ことりとサイドテーブルに置いた。

 私はフィオルド様の服を、軽く引っ張る。

 さらりとした触り心地の黒い寝衣は、華美さが一切ない落ちついたデザインのものだ。
 フィオルド様の部屋も、お召し物も、色が少なくて、フィオルド様の潔白さをよく表している気がした。

 服を引っ張ったのは、話がしたかったから。
 なんだか落ち込んでいるように見えるフィオルド様が、このまま部屋からいなくなってしまったら寂しいと思う。

「フィオルド様、私、大丈夫です。……すごく、きもちよくて、でも……私、みだらで恥ずかしい姿を、見せてしまって。……ごめんなさい」

 途切れがちではあるけれど、すんなりと喉から声がでてきた。

 フィオルド様と話をするために、フィオルド様をひきとめるなんて、今までの私なら絶対にしなかったことだ。

 私は私の変化に驚いていた。
 けれどそれは、とても喜ばしいもののように感じられた。

「謝る必要はない。……私は、駄目だな。大切な日の朝にまでお前に気をつかわせてしまうとは。リリィ、お前があまりにも愛らしくて、歯止めがきかなかった」

「フィオルド様ぁ……」

 朝から愛らしいと褒められるとか、この世の天国なのかしら。

 そんなもの、本の中か妄想の中ぐらいでしか存在し得ないと思っていたのに。
 私の心はいともたやすく蕩けた。

 今の私を見たら、ドロレスは何と言うかしら。
 フィオルド様のこと、こわいこわい、と言い続けてきたのに。単純だと笑うのかしらね。

「大切にする、リリィ。愛している。……私の部屋で眠っているお前を見ていると、これは夢なのではないかと、疑いそうになる」

 どこか切なげにフィオルド様は微笑んだ。

 それから私の横に坐ると、触れるだけの口づけをしてくださる。

 夢じゃないかしらと疑いたくなるのは私の方よね。
 フィオルド様が私に優しくて、まるで夢の続きをずっと見ているみたいだ。

 私は心の中で幸せを噛み締めた。

「私も、夢、みたいです……」

「夢で終わらせないよう、努力する。お前は優しいな、リリィ。私を許し、私にその身を捧げてくれるとは。……お前の侍女を、週末には迎えにいくつもりでいたが、それでも、お前を寮の部屋に帰したくないと、今から思ってしまうな」

 フィオルド様は私の頬に手を添えると、そっと顎を持ち上げた。

 唇が触れ合い、舌が私の唇をつつく。

 薄く開いた唇の合間から、ぬるりと舌が口の中へと入ってくる。

 あつみがあって長い軟体動物のようなそれが、私の歯列をなぞり、くちゅりと私のそれと絡まった。

「ん……っ、ん、ん……」

 寝起きから激しすぎる口付けに、うまく頭がまわらない。

 薄手の白い寝衣の下は何も身に纏っていないせいで、フィオルド様に背中を撫でられるだけで、直接皮膚に触れられているように体にさざなみがはしる。

 くちゅ、くちゅと、わざと音を立てるようにしながら、フィオルド様は私の舌を舐っている。

 背中をそっとたどる手が、腰にたどり着いた。

 双丘の感触を確かめるようにして撫でて、手のひらが太腿に落ちる。
 胸と違って肉感のある太腿をこねるように撫でられて、私は眉根を寄せた。

「ふぃお、るど、さま……だめ、……ぁ、あう……っ」

「リリィ、可愛い。私の手ですぐにとろける淫らな花のようなお前を、もっと味わいたい」

「やぁ……あぅ」

 ちゅぷりと音を立てて唇が離れる。舌を銀糸がつなぎ、フィオルド様はそれをぺろりと舐めとった。

 今、何時なのかしら。

 今日も授業があるのに、朝からこんなことをしているなんて。
 背徳感が、ぞくりとした快楽にすぐに変わっていく。

 だめ、なのに。

 なんでもして欲しいと思ってしまう。
 フィオルド様になら、何をされても良い。だって、可愛いって、好きだって言ってくれたもの。

「……お前は私に許可を与えてくれた。もう、我慢はしない」

「は、ぃ……っ」

 フィオルド様が口角を吊り上げて、密やかな声で囁いた。

 あまりにも淫らで、艶やかで、私はもう降参するしかないと、心の中で白旗を振りながら、素敵すぎるフィオルド様を両手を合わせて拝んだ。


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