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セフィール家での休暇と想起の夏
家族団欒食事会 1
しおりを挟む私の父、ロイス・セフィールは、青い髪に空色の瞳をした優しげな風貌の美丈夫である。
私の母、リアン・セフィールは、銀の髪にアメジストの瞳をした儚げな印象の美人である。
顔立ちも色合いも二人とは違う私だけれど、私の金の髪に翡翠の瞳というのはセントマリア皇国ではそう珍しい色合いじゃない。
それに、特に私たちの場合は、皇家と他公爵家の血筋が入り混じっているので、先祖返りといって、突然違う色合いの子供が生まれる場合もあるので、色合いが違うことはあまり問題視されたりはしない。
金の髪に翡翠色の瞳の方は、血筋を遡ればおそらくたくさんいる。
ただ顔立ちについても、私は二人のどちらにも似ていない。
優しげな印象の二人の子供なのに、私だけ悪女顔。不思議だけれど、お母様もお父様もあまり気にしていないようだし、私のことはとても大切に、可愛がって育ててくれたので、あらぬ疑いを抱かないように私も気をつけていた。
例えば、私はお母様の本当の子供じゃないんじゃないか、とか。
とっても昔、私がまだ幼い頃に一度だけ尋ねたことがあったような気がする。
お母様は笑いながら「そんなわけないわ、リリィちゃんは私が産んだ、私の娘よ」と言っていた。
「フィオルド殿下、久しぶりだね。よく来てくれた。馬車での移動は疲れるだろう」
庭に準備されていたテーブルに座っていたお父様が立ち上がって、フィオルド様に挨拶をした。
私たちが到着する前から既にお酒を飲んでいたらしく、お父様の前に置かれたグラスには、赤ワインがたっぷりそそがれている。
私とフィオルド様がテーブルに近づくと、ドロレスは一歩後ろに控えた。
フィオルド様は抱き上げていた私を、そっとおろした。私はフィオルド様が心配で、その腕に手を添える。
大丈夫だというように、私の手を包むようにして握ってくださる手が、力強い。
夏の始まりの夕方の、さらりとした涼しい風が肌を撫でる。
お父様の趣味でお庭に作った小さめの池には、異国から買い付けてきた睡蓮の花が浮かんでいて、紫色や青い紫陽花が、庭を華やかに色づかせている。
地面から何本も突き出ている鉄製のランプかけに魔道ランプがかかげられて、まるで蛍火のように庭を幻想的に照らしていた。
「ロイス公爵、お久しぶりです。……大切な婚約者であるはずのリリィの家に、一度きりしか顔を出さず、その後挨拶に伺うこともせず、セフィール家の方々には不愉快な思いをさせてしまったことと思います。今までの非礼、申し訳ありませんでした」
頭を下げるフィオルド様に、お父様は慌てたように両手を振ったあと、困ったように髪をぐしゃぐしゃと手でかきまわした。お父様の癖だ。
「そう畏まらなくても良いんだよ、殿下。来てくれてありがとう。リリィの顔を見れば、君がリリィをどう扱ってくれているかぐらいはよく分かる。リリィは、全部の感情が分かりやすく顔に出るからね。といっても、リリィに慣れていない者たちからしたら、常に怒っているようにしか見えないみたいだけれど」
にこやかに言うお父様のあと、静かに私たちを見守っていたお母様が口を開いた。
「ロイスがフィオルド君のことを殿下なんて呼ぶから、フィオルド君も遠慮しちゃうのではないかしら」
お母様はゆったりとした口調で言った後に、咎めるような視線をお父様に送った。
「二人とも、疲れているのだし、座ってもらって。お食事にしましょう。フィオルド君は、お酒は?」
「いえ、私は……酒類は、口にしないようにしています」
「ふふ、実は知っているわよ。リリィの旦那様になるフィオルド君のことですもの。それなりに、色々と情報を集めているのよ。お酒は飲まないし、遊びもしないし、趣味もない。女性という女性を誰もそばに近づけず、フォルトナ君ともしかしたらそういう関係なのかもしれない……って、男色の噂をわざと流していることも」
「え、え……?」
お母様の言葉に衝撃を受けて、私はフィオルド様を見上げた。
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