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セフィール家での休暇と想起の夏
お母様の過去 2
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フィオルド様はカトラリーを置いて、居住まいを正した。私も、フィオルド様を見習って、ぴしっと背中を伸ばした。
「……ええ、そうね。……つい、楽しい時間を長引かせたくなってしまうわね」
お母様は、小さく息をつく。
それから、悩ましげに眉を寄せた。
「フィオルド君も、リリィも、……僕たちに比べたら若いが、もう婚姻を許される年齢の、大人だ。リアンさん、きっと大丈夫だよ」
「……いつまでも引きずっているのは、私だけかもしれないわね。……フィオルド君、リリィちゃん。昔の話を、しましょうか」
私たちは頷いた。
ある程度のことはフィオルド様から聞いているので知っているけれど、お母様の口から皇帝陛下のことが語られるのは初めてのように思う。
「フィオルド君は、知っているわね。お兄様の女癖の悪さについては」
「はい。……ずっと、見ていますから」
「昔からね、悪癖のようなものなのかしらね、あれは。……私にはよくわからないけれど。お兄様はけして悪い人ではないの。明るくて、快活で、誰にでも平等に接するし、優しいし、情け深くもある。けれど、どうしても女性を見ると、手を出さずにはいられない性分らしくてね」
「女癖の悪さをのぞけば、立派な王なのでしょう。国は乱れていませんし、以前よりも民の暮らしは平穏であると考えます。父の悪癖は、城の中でのことだけでしょうから。……今は、魔法の開発もあり、間違いも起こりませんし」
「私が若い頃は避妊魔法はまだ確立されていなくてね。まぁ、その魔法の開発に宮廷魔導士たちが心血を注いだのは、兄の悪癖のせいなのだけれど。……あまり良くない光景を、見てきたわ、私。兄のことは、嫌いではなかったけれど、好きにはなれなかった」
「リアン公爵夫人は……」
「知ってのとおり、兄は私のことも女だと思っていたわ。私はロイスのことが好きだった。ずっと、好きだったから、ロイスと結ばれてからはずっとお城には行っていない。兄から逃げ続けているのよ。大嫌いだもの。……それに兄の妃は、レランディア家の次女でしょう。……長女のアザレアと私は仲が悪くて。レランディア家からも敵視されているし、だから、私はずっと社交界にも顔を出さなかったのよ」
お母様はそこで言葉を区切ると、すまなそうに私を見た。
「ごめんね、リリィちゃん。……リリィちゃんが社交を苦手だと思ってしまったのは、私のせいね。私が、外に出たがらなかったから。外に出たがらないリリィちゃんに甘えていたのよ。リリィちゃんを守るためにどこにも行かないって、言い訳をしていたのね。その実、社交界に顔を出したくないのは私だったのに」
「お母様……」
私は目を伏せた。
恋愛感情を抱いていない相手に襲われるというのは、とても怖いことだろう。
それが実の兄だとしたら、なおさら。
フィオルド様は、遺跡で、どうしようもなくなった私を、優しく介抱してくださった。
少しも怖くなかったし、すごく、気を配っていただいたように思う。
もし一緒にいたのがフィオルド様ではなかったら、乱暴に、されていたら。
私はきっと、すごく怖くて。
今こうして、穏やかな気持ちでいることなんてできなかっただろうと思う。
「……ええ、そうね。……つい、楽しい時間を長引かせたくなってしまうわね」
お母様は、小さく息をつく。
それから、悩ましげに眉を寄せた。
「フィオルド君も、リリィも、……僕たちに比べたら若いが、もう婚姻を許される年齢の、大人だ。リアンさん、きっと大丈夫だよ」
「……いつまでも引きずっているのは、私だけかもしれないわね。……フィオルド君、リリィちゃん。昔の話を、しましょうか」
私たちは頷いた。
ある程度のことはフィオルド様から聞いているので知っているけれど、お母様の口から皇帝陛下のことが語られるのは初めてのように思う。
「フィオルド君は、知っているわね。お兄様の女癖の悪さについては」
「はい。……ずっと、見ていますから」
「昔からね、悪癖のようなものなのかしらね、あれは。……私にはよくわからないけれど。お兄様はけして悪い人ではないの。明るくて、快活で、誰にでも平等に接するし、優しいし、情け深くもある。けれど、どうしても女性を見ると、手を出さずにはいられない性分らしくてね」
「女癖の悪さをのぞけば、立派な王なのでしょう。国は乱れていませんし、以前よりも民の暮らしは平穏であると考えます。父の悪癖は、城の中でのことだけでしょうから。……今は、魔法の開発もあり、間違いも起こりませんし」
「私が若い頃は避妊魔法はまだ確立されていなくてね。まぁ、その魔法の開発に宮廷魔導士たちが心血を注いだのは、兄の悪癖のせいなのだけれど。……あまり良くない光景を、見てきたわ、私。兄のことは、嫌いではなかったけれど、好きにはなれなかった」
「リアン公爵夫人は……」
「知ってのとおり、兄は私のことも女だと思っていたわ。私はロイスのことが好きだった。ずっと、好きだったから、ロイスと結ばれてからはずっとお城には行っていない。兄から逃げ続けているのよ。大嫌いだもの。……それに兄の妃は、レランディア家の次女でしょう。……長女のアザレアと私は仲が悪くて。レランディア家からも敵視されているし、だから、私はずっと社交界にも顔を出さなかったのよ」
お母様はそこで言葉を区切ると、すまなそうに私を見た。
「ごめんね、リリィちゃん。……リリィちゃんが社交を苦手だと思ってしまったのは、私のせいね。私が、外に出たがらなかったから。外に出たがらないリリィちゃんに甘えていたのよ。リリィちゃんを守るためにどこにも行かないって、言い訳をしていたのね。その実、社交界に顔を出したくないのは私だったのに」
「お母様……」
私は目を伏せた。
恋愛感情を抱いていない相手に襲われるというのは、とても怖いことだろう。
それが実の兄だとしたら、なおさら。
フィオルド様は、遺跡で、どうしようもなくなった私を、優しく介抱してくださった。
少しも怖くなかったし、すごく、気を配っていただいたように思う。
もし一緒にいたのがフィオルド様ではなかったら、乱暴に、されていたら。
私はきっと、すごく怖くて。
今こうして、穏やかな気持ちでいることなんてできなかっただろうと思う。
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