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聖女の魔力と豊穣の秋
慎ましやかな胸の証拠 1
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なおも何か悪口を言いつのろうとするアニスさんと、ついでに何かアニスさんに仕掛けようとしているドロレスをとめるべく、私は口を開いた。
「アニスさん……!」
私なりに精一杯の気合を入れてアニスさんの名前を呼ぶと、思いのほか大きな声が出た。
アニスさんはどことなく臆したように一歩下がった。
うん。怖いわよね。気合を入れてちょっと睨むだけで、元々の悪女顔のせいでかなり顔立ちが怖くなるものね、私。
「アニスさんは、フィオルド様が好きなのですか……? だから、そんなに怒っているのですよね……」
私について悪い噂を流しているのだから、アニスさんはきっとフィオルド様が好きなのだろう。
そしてレイフィアさんかソフィアさんも、フィオルド様が好きで、結婚したいと思っている可能性がある。
だって、それぐらいフィオルド様は素敵だもの。
フィオルド様は皇太子という地位があるからだとおっしゃっていたけれど、そんなことはないと思うの。
でもそういう、謙虚なところもフィオルド様の魅力よね。好き。
「違うわ。そんな恐れ多いこと、考えていない。私たちは、三大公爵家の娘。私たちの婚約は、私たちの意思ではなくて、皇家が定めるものよ」
「で、でも、私が選ばれたこと、嫌だったのですよね……?」
「違うって言っているでしょう。私が怒っているのは、……皇家に選ばれたあなたが浮気者で、殿下に対して不実な態度をとっている、ということよ」
「浮気をしているから、と、いうことですよね?」
「認めるのね、リリアンナ! とうとう認めたわね! こちらには証拠があるのよ。記録石という証拠が!」
「浮気、していません……! 私が好きなのは、フィオルド様だけで……でも、信じてもらえませんよね」
私はフィオルド様に見せていただいた記録石について思い出していた。
アニスさんはあの記録石に残っていた映像を信じているみたいだ。
無理もないと思う。私が見たって、あの映像に残っていた私の姿は、私そのものだったのだから。
胸に黒子があること以外は。
「アニスさんが信じてくれなくても、フィオルド様は私を信じてくださいました……。フィオルド様は、記録石に残っている私の姿は、偽物だって、わかってくださって……アニスさんは、フィオルド様のことも、信じられませんか……?」
「殿下はあなたに惑わされているのでしょう、どうせ。どうやったかは知らないけれど」
「惑わすことができるのなら、嬉しい、ですけれど……」
私は赤くなる頬に手を当てた。
フィオルド様を惑わしている、魔性の、私。
すごい。
悪女顔というだけで中身がミジンコだった私が、本当に魔性の女になってしまった。
フィオルド様はそんな魔性の女である私に骨抜きにみえるとか、ちょっと嬉しい。
「褒め言葉じゃないわ」
アニスさんが心底呆れたように溜息をついた。
私は気を取り直して、ゆるんだ表情筋に気合を入れなおす。
「その、……アニスさん。……アニスさんがそこまで、あの記録石を本物だって信じているということは、アニスさんが、あの石を持ってきたわけではないのですね……?」
「違うわよ。私はそこまで陰湿じゃないわ。あなたの行動をいちいち調べ上げて、記録石に残すようなことを、したりはしない。誰かに命じたりもしないわよ。だって、そういうのって良くないでしょう。窓の外から入浴中の女性を覗き見するようなものだわ」
「……思ったより、アニス様というのはお馬鹿さんなのではないですか、お嬢様」
肩をすくめるアニスさんに続いて、ドロレスが私の耳元でこそこそ囁いた。
そういうことを言っては駄目、という気持ちを込めてドロレスを見上げると、ドロレスは嬉しそうににこにこした。
「アニスさんは、それでは誰かに、あの石を渡されたということですか……?」
「こんなものが手に入ったって、レイフィアとソフィアに相談されたのよ。まだ子供でしょう、あの子たち。それは困るでしょうねって思って、私が預かって、まずはお母様に見せたの。そうしたら、アザレアお母様は、リアン皇女の娘のあなたならやりかねないから、記録石の映像は本物だろうっておっしゃって」
「……アザレア様は、私のお母様を嫌っています、よね」
「皆、リアン皇女を嫌っているのでしょう。だから、社交界にもリアン皇女は顔を出せないのよ。リアン皇女は男好きだったそうよ。つまり、あなたと同じ」
「ええと、あの、……アニスさんは、……それだけで、記録石を本物だって信じて、フィオルド様に見せにいったのですか?」
「あなたの悪い噂は私の耳にもかなり前から入っていたから、殿下には何度か伝えていたわ。でも、信じてもらえなくて、適当にあしらわれていて。それで、とうとう証拠がみつかったから殿下に見せに行ったのよ。それは見せるわよ。当たり前じゃない」
「……アニスさん」
私は目を伏せた。
あまり怒るということのない私だけれど、ちょっと腹が立っているみたいだ。
「アニスさん……!」
私なりに精一杯の気合を入れてアニスさんの名前を呼ぶと、思いのほか大きな声が出た。
アニスさんはどことなく臆したように一歩下がった。
うん。怖いわよね。気合を入れてちょっと睨むだけで、元々の悪女顔のせいでかなり顔立ちが怖くなるものね、私。
「アニスさんは、フィオルド様が好きなのですか……? だから、そんなに怒っているのですよね……」
私について悪い噂を流しているのだから、アニスさんはきっとフィオルド様が好きなのだろう。
そしてレイフィアさんかソフィアさんも、フィオルド様が好きで、結婚したいと思っている可能性がある。
だって、それぐらいフィオルド様は素敵だもの。
フィオルド様は皇太子という地位があるからだとおっしゃっていたけれど、そんなことはないと思うの。
でもそういう、謙虚なところもフィオルド様の魅力よね。好き。
「違うわ。そんな恐れ多いこと、考えていない。私たちは、三大公爵家の娘。私たちの婚約は、私たちの意思ではなくて、皇家が定めるものよ」
「で、でも、私が選ばれたこと、嫌だったのですよね……?」
「違うって言っているでしょう。私が怒っているのは、……皇家に選ばれたあなたが浮気者で、殿下に対して不実な態度をとっている、ということよ」
「浮気をしているから、と、いうことですよね?」
「認めるのね、リリアンナ! とうとう認めたわね! こちらには証拠があるのよ。記録石という証拠が!」
「浮気、していません……! 私が好きなのは、フィオルド様だけで……でも、信じてもらえませんよね」
私はフィオルド様に見せていただいた記録石について思い出していた。
アニスさんはあの記録石に残っていた映像を信じているみたいだ。
無理もないと思う。私が見たって、あの映像に残っていた私の姿は、私そのものだったのだから。
胸に黒子があること以外は。
「アニスさんが信じてくれなくても、フィオルド様は私を信じてくださいました……。フィオルド様は、記録石に残っている私の姿は、偽物だって、わかってくださって……アニスさんは、フィオルド様のことも、信じられませんか……?」
「殿下はあなたに惑わされているのでしょう、どうせ。どうやったかは知らないけれど」
「惑わすことができるのなら、嬉しい、ですけれど……」
私は赤くなる頬に手を当てた。
フィオルド様を惑わしている、魔性の、私。
すごい。
悪女顔というだけで中身がミジンコだった私が、本当に魔性の女になってしまった。
フィオルド様はそんな魔性の女である私に骨抜きにみえるとか、ちょっと嬉しい。
「褒め言葉じゃないわ」
アニスさんが心底呆れたように溜息をついた。
私は気を取り直して、ゆるんだ表情筋に気合を入れなおす。
「その、……アニスさん。……アニスさんがそこまで、あの記録石を本物だって信じているということは、アニスさんが、あの石を持ってきたわけではないのですね……?」
「違うわよ。私はそこまで陰湿じゃないわ。あなたの行動をいちいち調べ上げて、記録石に残すようなことを、したりはしない。誰かに命じたりもしないわよ。だって、そういうのって良くないでしょう。窓の外から入浴中の女性を覗き見するようなものだわ」
「……思ったより、アニス様というのはお馬鹿さんなのではないですか、お嬢様」
肩をすくめるアニスさんに続いて、ドロレスが私の耳元でこそこそ囁いた。
そういうことを言っては駄目、という気持ちを込めてドロレスを見上げると、ドロレスは嬉しそうににこにこした。
「アニスさんは、それでは誰かに、あの石を渡されたということですか……?」
「こんなものが手に入ったって、レイフィアとソフィアに相談されたのよ。まだ子供でしょう、あの子たち。それは困るでしょうねって思って、私が預かって、まずはお母様に見せたの。そうしたら、アザレアお母様は、リアン皇女の娘のあなたならやりかねないから、記録石の映像は本物だろうっておっしゃって」
「……アザレア様は、私のお母様を嫌っています、よね」
「皆、リアン皇女を嫌っているのでしょう。だから、社交界にもリアン皇女は顔を出せないのよ。リアン皇女は男好きだったそうよ。つまり、あなたと同じ」
「ええと、あの、……アニスさんは、……それだけで、記録石を本物だって信じて、フィオルド様に見せにいったのですか?」
「あなたの悪い噂は私の耳にもかなり前から入っていたから、殿下には何度か伝えていたわ。でも、信じてもらえなくて、適当にあしらわれていて。それで、とうとう証拠がみつかったから殿下に見せに行ったのよ。それは見せるわよ。当たり前じゃない」
「……アニスさん」
私は目を伏せた。
あまり怒るということのない私だけれど、ちょっと腹が立っているみたいだ。
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