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聖女の魔力と豊穣の秋
嫉妬深さと独占欲 2
しおりを挟むセントマリア皇家は、純血を維持する必要がある。
そのために、三大公爵家のうちの誰かから、妃を迎える。そして、皇帝にならなかった者は三大公爵家のどこかに婿入りをし、残った者たちが誰かと婚姻を結ぶためには、セントマリア皇家の許しが必要となる。
そう教えられてきたから、それが当たり前だと思っていた。
「リリィは、考えたことは? 以前も言ったが、……まるで、籠の鳥のようだと。血筋という贄に捧げられた、蝶のようだと。うまれながらにして、私たちには自由がなく、血に囚われて、縛られ続けている」
フィオルド様が私の首筋へと唇を触れさせる。
ぬるく湿った感触のあとに、軽い痛みを感じるぐらいに、まるで血を飲まれているように、じゅ、と、吸われる。
私はフィオルド様の手を思わず強く掴んだ。
二人きりとはいえ、学園内の施設の中なのに。こんなことをするのは、いけない。
「……っ」
「……リリィ。私の小鳥。それでも私は、お前を鳥籠に閉じ込めてしまいたいと思う。……お前の口から、シリウスの名を聞くだけで、苛立ちを抑えることができない」
「……シリウス様が、お嫌いですか……?」
フィオルド様になら、閉じ込められても良い。
むしろ私としては、フィオルド様がなさりたいことは、極力全て受け入れさせていただきたい。
だって多分、フィオルド様は優しいから、閉じ込めてくださったらきっと快適な生活が待っていると思うし。
ドロレスに会いたいと言ったら、許してくれそうだし。
でも、どうしてシリウス様の話をしてはいけなかったのかしら。
嫌いというわけではなさそうだけれど、よくわからない。
「違う。……私は、……ずっと考えていた。シリウスが自由を求める理由を。あれは、お前を欲しているのではないかと」
「……ま、まってください、……そんなわけ、ないです。シリウス様とは、話したこともなくて」
「あれは、自分の立場を弁えている。けれど、アニスともレイフィアとも婚約したくないのだという。それは、リリィが私の婚約者になってしまったからではないのか。リリィを求めているからこそ、誰も愛さず、享楽に耽るのではないかと。まるで、リアン母上を求めたバルツスのように」
「フィオルド様、それは、考えすぎ、というもので……」
私は首を振った。
まさかそんなことはないと思う。
だってシリウス様と私の間には何もない。無関係も良いところだ。個人的に話したことはないし、一度だけ、ここで会っただけで、後はフィオルド様と共に参加した舞踏会や晩餐会の時などに、遠くから姿を見たことがあるぐらい。
「……そうだな。……だが、どうしても考えてしまう。私は嫉妬深く、また、お前を私だけのものにしたいという欲も、果てがない。お前を愛している。まるで、血に飢えた獣のように。……私は」
「フィオルド様……!」
私はフィオルド様の膝の上で体の向きを変えた。
フィオルド様に向かい合って、その体を抱き締める。
それからその目を真っ直ぐ見つめた。
「私、……あんまり、上手にできなくて、いつも、どうして良いのか、わからなくて……でも、フィオルド様のこと、好きです、から……」
言葉にしなければ伝わらないことがたくさんあると、フィオルド様と一緒にいるようになって、気づくことができた。勇気を持つことも、できた。
けれど、言葉だけでは伝わらないこともきっとある。
想いを口にするには、言葉では足りない。
嫉妬も独占欲も、嬉しい。フィオルド様が私のことで悩んでくださることを嬉しいと思ってしまうのはよくないのだろう、きっと。
けれど同時にフィオルド様が悩んでいる姿を見るのは、苦しい。
信じてほしい。私のこと。私の、気持ちを。
私はきゅ、と唇を噛む。
それから、フィオルド様の唇に自分のそれを押し当てた。
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