リリアンナ・セフィールと不機嫌な皇子様

束原ミヤコ

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聖女の魔力と豊穣の秋

図書室奥での戯れ 1

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 フィオルド様に呼ばれたのは午後の授業が終わってからだったので、夕暮れにはまだ間があるけれど、放課後の図書室にはあまり人がいなかった。

 本というのは、新たな魔道具の開発による印刷技術や製本技術の発展で、ずっと昔よりは安価になってきたものの、それでも学術書などはかなり値が張る。

 学園の図書室には貴重な本も保存されているので、入り口にはいつも司書の先生が座っている。

 ご高齢の司書の先生は、いつも眠っているように見える。言葉を話しているところを見たことがないのは、図書室では基本的に私語厳禁だからだ。

 図書室で何か調べ物をしている生徒の方々の横を通り過ぎて、私は図書室の奥にある読書用の休憩室へと向かった。

 背の高い書棚に囲まれたそこには、テーブルがいくつかと、長椅子がおかれている。

 ここも、あまり人が来ないので私の好きな場所の一つだ。

 図書室はかなり広く、奥まで歩くのに時間がかかることと、奥の休憩室の書棚には、古びた本しかおさめられていないのも人の少ない理由である。

 フォルトナ様などは、古い書物を読むために、休みの日でもここに来ることがあるらしい。

 壁のように書棚に囲まれた休憩室は、図書室の入り口からは完全に見えない場所にある。

 まるで、隠れているみたいだ。

 私は長椅子の一つに座って、天井を見つめた。


(アニスさんは、大丈夫かしら……)


 アニスさんは私と違ってしっかりしているし、多分大丈夫だと思うけれど。

 シリウス様というのは、良く分からない人だった。それでもアニスさんのことを好きだとはっきり口にしていたのだから、きっとうまくいくわよね。

 シリウス様、何を言っているのか良く分からなかったけれど――攻撃的、とか、そういうわけではなかったし。

 フォルトナ様の言葉も時々難しいけれど、シリウス様の言葉はそれ以上に難しい。

 まるで歌を歌っているみたいだった。

 ふわふわとして掴みどころがない発言は、とってもはきはきしていてわかりやすいアニスさんとは真逆。

 だから、性格があわないと、アニスさんは思っているのかしら。

 アニスさんは一体、何をされたのかしら。

 痛いことだったら、どうしよう。痛いこととか酷いことだったら、やっぱり私が守ってあげないといけない。
 でも、そこまでの深刻さはなさそうだったし――もしそうなら、アニスさんのことだから、はっきり言ってくれそうだもの。

 もうしばらく、様子を見ていても良いのかもしれない。

 それにフィオルド様やフォルトナ様が、おそらくは皇帝陛下などと話し合って決めたことだろうから、大丈夫だろうとは思う。

 ――私にできることは、なんだろう。

 アニスさんのお話を聞くことぐらいしか、ないのかもしれない。

 アニスさんが不幸になっていないか、辛い思いをしていないか、気を付けて見ていよう。


(……レイフィアさんは、フィオルド様が好きなのね、きっと)


 アニスさんは子供だって言っていたけれど、十五歳というのはこの国では大人とみなされる。

 私は十六歳。十五歳の時と、あまり変わらないような気もする。

 大人といえば大人だし、子供といえば子供だ。

 ひとつ年が違うだけで、子供だからと侮るのは、違う。

 よくないことをしてしまうぐらいにレイフィアさんは、フィオルド様のことが好きなのだろう。


(私は……私の気持ちは、レイフィアさんに、勝てるのかしら……)


 気持ちの大きさというのは、数字に表すことも言葉に表すこともできない。


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