リリアンナ・セフィールと不機嫌な皇子様

束原ミヤコ

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聖女の魔力と豊穣の秋

 アミティ様とバルツス皇帝陛下 2

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 フィオルド様の話では、人に見えるところで、女性とのかかわりを楽しんでいるようだし。

 フィオルド様がそれを見ているということは、きっとアミティ様も。


「私の場合は、そうでもないのよ? 陛下は、私のことを嫌っているわけではないの。私も他の女性と同様に扱ってくれるわ。ただ、その愛は私一人に向けられるには多すぎるというだけで。私はそれで良いと思っているわ」

「悲しくはないのですか……?」

「いいえ。だって、私は陛下のことをそこまで愛しているわけではないもの。陛下の大きすぎる愛情が私一人に向けられたとしたら、それは大きすぎて重すぎて、きっと私は押しつぶされてしまっていたから。……だって、大変でしょう?」


 アミティ様は表情を変えて、悪戯っぽく笑った。

 まだ若々しいアミティ様がそうして微笑むと、まるで私たちと同じ年の少女のように見えた。


「昼も夜もなく毎日求められては、他のことが何も手につかなくなってしまうわ。私は陛下の相手をするより、観劇に行ったり、歌を聞いたり、それから、馬に乗ったり薬草や魔法や魔道具の研究をしたり、魔物の生態研究をする方が好きだし。陛下と愛しあうよりも、やりたいことが沢山あるのよね」

「……確か、授業で使っている本の中に、アミティという名前の著作者の物がありました。一番新しい魔物についての本で……アミティ様が書かれたものですか……?」

「きちんと勉強していて、偉いわ、リリィ。フィオルドが、リリィは優秀だと自慢していたけれど、本当ね。作者の名前まで覚えているなんて、なんて良い子なのかしら。あれは、私が数年前に書いた本ね」

「叔母上、王妃でありながら、何をしていらっしゃるのですか……」


 アニスさんも知らなかったのだろう、唖然とした表情で言う。


「陛下とは、そういった契約の元、結婚したのよ。私は陛下の浮気癖を認めるから、私も好きにするって。陛下はあれでいて優しい方だから、私一人だけを愛する努力をしてくださろうとしていたみたいだけれど、私が拒否したのよ。そういうのはいらないから、私に構わないで欲しいって」

「……叔母上、それは、陛下がお可哀想なのでは……」

「だって、ねぇ、アニス。陛下の性欲に付き合っていられるほど、私は暇ではないもの。それでもフィオルドがうまれるまでは毎日のように付き合ってあげていたけれど、一日目でうんざりしたのよ。しつこくて」

「あぁ……」


 アニスさんが、疲れたような溜息を洩らした。

 そういえば、アニスさん。以前シリウス様に、毎日のようにお仕置きをされて、疲れているって言っていた気がする。

 私もフィオルド様に可愛がっていただいているけれど、疲れるというよりは、嬉しいという気持ちの方が強い。

 それはきっと、フィオルド様が私を気づかって、優しくしてくださっているからだろう。

 他の方はまた、違うのかもしれない。


「正直、ほっとしているのよ? 陛下は私に、潤沢な研究資金をくださるし。私の優秀さを、まるで自分のことのように喜んでくださる。ただ、女が好きなのね。欲望が強いのは、セントマリア皇家にうまれる方々は、人並み外れて魔力量が多いからなのかもしれないわね。性行為でも魔力が発散できるから、どうしてもそうなってしまうのかも。フィオルドとシリウスもそうでしょう?」


 研究のし甲斐があるけれど、息子を研究対象にするわけにはいかないわよね。

 ――と、アミティ様は肩を竦めた。


「陛下も、皇帝の座を譲ったらお暇になると思うから、私の研究に付き合って貰おうかしらね。……話がそれたわね。フィオルドやシリウスには理解できなかったようだけれど、夫婦には色々なかたちがあるのよ。私たちの場合は、これで良いって思っているわ」


 だから陛下がリアン皇女様のことを忘れられなかったとしても、それはそれで構わない――と、アミティ様は言った。


「――いつもながらにつれないな、俺の妻は」


 快活な声と共に、こちらに向かって歩いてくる数名の足音がする。

 振り向くと、そこにはバルツス皇帝陛下の姿があった。

 それから、フィオルド様と、シリウス様。

 そして――何故か私のお母様とお父様の姿。

 私は慌てて立ち上がった。

 どうしようかと悩んで、アミティ様に失礼のないように礼をすると、フィオルド様の元へと急いで駆け寄った。



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