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聖誕祭と希望の冬
あなたと共に歩むために 2
しおりを挟むそれはとても難しい。
私も同じだから、よく分かる。
私だって――役立たずで臆病な私が、情けなくて仕方ない。
何もできなくて、レイフィアさんの思い通りになってしまって、挙げ句フィオルド様を傷つけてしまった私を、私は――。
けれど、情けないのも、臆病なのも、怖がりなのも私。
私は私にしかなれない。そんな私をフィオルド様は愛していると言ってくださるから、私は、逃げずにいることができるのだから。
「……フィオルド様。……私、魔力を沢山使ってしまって、だから……動けなくて」
私は小さな嘘をひとつついた。
魔力を沢山使ったのは本当だけれど、そのために体が魔力に多少なれたような気がして、魔力酔いは起っていないし、欠乏症状も出ていない。
私はフィオルド様の耳元で、小さく――けれど皆に聞こえるように、はっきりと、阿るような声音で伝える。
「それに、怖かったの……だから、フィオルド様、お部屋に連れて行って、沢山、可愛がって欲しい、です……」
「リリィ……」
フィオルド様には私の意図が分かったのだろう。
きつく抱きしめてた私の体をそっと離すと、私の顔を見つめた。
泣き出しそうな瞳に、私の姿が映っている。
たくさんの方々に見られながら、フィオルド様にはしたないことをして欲しいと強請る、淫らな女の姿だ。
私にぴったり。だって私は、悪女顔だし。胸は小さいけれど、どちらかといえば妖艶だし。
でも、――なんて思われても良い。
こんな時に何を言っているんだと、呆れられても構わない。
フィオルド様だけはきっと、私を理解してくれるだろうから。
「あぁ。……分かった、リリィ。……私はお前のものだ。全て、お前の望み通りに。私の優しい女神」
氷刃が消え失せて、フィオルド様はうっとりするほど艶やかな口調で私に囁いた。
私の体を抱き上げるフィオルド様に、いつの間にか元の姿に戻っていたレイフィアさんが禍々しい魔力の籠もった黒い杖を向ける。
「何よそれ、何なのよ、それ……! ふざけないで! 死ね! 死になさい……!」
「今ここで、ドロレス・ヴェルダナの教育的指導捕縛網が悪いお嬢様を捕縛する!」
レイフィアさんに向かって、天井から投網のようなものがばさっと落ちてきて、レイフィアさんとついでにアザレア様の体を雁字搦めにした。
大きな声と共に天井から降ってきたドロレスが、レイフィアさんの上へと着地をした。
「あぁ、あぁ、子供には過ぎたる玩具です。これは没収。そしてあとはこのヴェルダナの魔導師ドロレスにお任せ下さい。リリィお嬢様の幸せを全身全霊でお守りするこのドロレスにかかれば、魔族の力で悪さをする性悪凶悪レイフィア様など赤子のようなものです」
ドロレスはそう言いながら、レイフィアさんの手から黒い杖を取り上げる。
その杖はドロレスの手の中で、青い炎をたてて燃え上がり、一瞬のうちに消え失せてしまった。
ざわめく広間から、お母様の「リリィ……!」という泣きそうな声が聞こえる。
お父様がその背中を支えている。
いつの間にか皇帝陛下が、お母様の隣に立っていた。
「リアン。立派に育ったな、俺たちの子供は。まるで俺たちの子供ではないようだ。さぁ、隠居の前に最後の勤めを果たそう」
お母様はバルツス様を見上げた後に、小さく頷く。
「皆、見たか! どんな困難にも立ち向かう、聖女の姿を! 己が傷つけられても優しさを忘れない、美しく清らかな聖女リリアンナと、聖女リリアンナを愛する我が息子、皇帝フィオルドの深い愛を! これを戯曲にせずに何を戯曲にするというのか! 詩人を連れてくるのだ、永久に語り継ごう!」
皇帝陛下の良く通る声が、不思議な説得力を持って大きく響いた。
恐怖に凍りつくようだった大広間が、いつの間にか感動の拍手や完成へと支配されている。
フィオルド様は抱き上げた私の額に自分のそれを押しつけるようにすると、そのまま唇をあわせた。
私は目を閉じる。
重なり合う唇に、体の境界が曖昧になる。
全ての音が、消えていく。
音の消えた世界は、フィオルド様への愛しさであふれて、いっぱいになった。
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