こんなステータスは見たくないんだけど！

1 多分疲れすぎ。

「ゲームまとめてある？」
「あー、これ。いらないから、好きにしていーよ」

　机に向かっていた弟が、立ち上がった。
　今年高二の彼はあったかなかったかよくわからない反抗期も終わり、急に大人っぽくなったと思う。

　五つ年上の私は大学に入学した時から実家を出ていて、たまにしか会わないから特にそう感じる。
　少し前に恋人ができたんじゃないかって、母から訊かれたけど知るわけない。

　私に、恋バナなんてしてくれないし、こっちだってそんな話したくない。
　
　大学時代にちょっとつき合ってすぐ別れちゃったし、今年就職して、浮かれるようなことはまだ一つもない。
　残念ながら。

　なんだかちょっと色気も出てきたような弟にベッドの下に無造作に置かれた紙袋を渡された。

「痛っ」
「あ、ごめん……静電気？」

　指先が触れたらしくピリッと痛んだ。

「そうか、も。…………⁉︎」

　
　　桜木　ちんこ

『サイズ　　南米にある赤道が通る共和制国家の平均』
『硬度　ビッグウェーブ』　
『角度　木になるバナナ』
『持続時間　世界で一番困難な鉄道の悪魔のハナコース』　


『恋人との時間が足りない。もっと一緒にいたいのに』


　目の前に現れたステータス画面？
　いや、これ、ステータスっていうか？
　疲れて視界がおかしいようだ。
　状態異常、状態異常。
　思わず首を振って大きく息を吐いた。

「はぁ……。疲れたまってるのかな。これからゲームパーティとか約束するんじゃなかったな」

　私の独り言に、弟が笑った。

「相変わらず、そんなことしてんのかよ。まぁ、睡眠はとったほうがいいよ。姉ちゃんもお年頃なんだから」

　なんか、違う。
　この子、高二だよね？
　高二病とかいうやつ？
　中二病抜けて、なんか大人ぶるっていう。

「うん、ありがと」

　いや、なんでお礼いってるかわからない！

　なんだよ、この桜木ちんこって！
　婉曲に書かれたちんこステータス？
　サイズもよくわからないけど、硬度ビッグウェーブって、なにごと？
　その日によって硬さが違うとか？
　突っ込めない！
　私の脳、溶けてるのかな。

「じゃ、じゃあね！　これ、貰ってくわ」
「んー、楽しんでー？」

　愉しんで？
　なんか、弟が卑猥にみえる！
　なんだこれ、弟のくせに！　バナナめっ！
　公然わいせつじゃないか⁉︎

「ありえない……」
「……なに？」
「っ、なんでもないっ！　またね！」






　バタンとドアを閉めて、家を出た。

　なに、あれ？
　私はゲーム全般好きだけど、目の前にあんなの浮かぶなんて、高校の時に乙女ゲーやりまくって以来。

　まぁ、あの時は脳内妄想だけど。

　今回もきっと、それだ。
　弟で想像するとか、ないわー。
　しかもＲ仕様。
　あれ、どこの国なんだろう？
　バナナってあったし、南国かな。

　いやー、私の脳内、今も現役？
　うん、きっと今日もゲームが楽しめるはず！




「お待たせー」

　家の前に停まる車の助手席を開けて、運転席に座る同僚柿沼カキに声をかけた。
　弟に深読みされたくなかったからゲームパーティと言ったけど、今日も仲のいい彼の家で遊ぶ。
　まさか社内にこんなに気の合う友達ができると思わなかった。

「桜木サクラ、早かったな。もういいのか？」

　顔を上げた彼が私の顔をじっと見た。


　柿沼　ちんこ

『サイズ　中部アフリカに位置するサッカー大会常連国の平均』
『硬度　タロイモ』
『角度　亀ルーン山』
『持続時間　アフロビート一曲分程度』

『好きな子に意識してもらえないから、妄想が止まらない』


　ん？
　ナニコレ！








＊＊＊＊＊＊


　お読みいただきありがとうございます。

　弟のサイズの国は、「エ」から始まる五文字で、赤道が通る国です。
　柿沼のサイズの国は、「カ」から始まる五文字です。ほぼ国名出てますね……。

　どちらも統計でアレの平均サイズが世界で一、二位らしいのですが、個人差のあることなのでさらっと流し読みしてくださると嬉しいです。