明日の夜、婚約者に捨てられるから

能登原あめ

文字の大きさ
9 / 9

9 おまけ ※微

しおりを挟む

           * ジュリアン視点


「彼女以外、触れたくないです」

 学園に入学し一年が経った頃、父から縁戚の十歳ほど年上の女性を紹介された。
 閨事指南の相手としてやって来た子爵夫人で、ねっとりとした視線で俺を見る。

「ジュリアン様、結婚相手を傷つけないためにも必要なことなんですよ」
「…………」

 黙り込む俺に父が言った。

「今日は顔合わせだけだ。一週間後の夜を空けておくように」

 その時渡された指南書に一通り目を通した結果、子爵未亡人となんて交わりたくない。
 それはイヴに捧げるべきで、最初は一度しかないから記憶に残るはずだ。
 俺の最初はイヴしかありえない。
 そう思った俺は当日――。

「どういうことですか?」

 薄物をまとった子爵未亡人は、俺の後ろに立つ美貌の男を見て言った。
 
「今日は彼が相手をするのでよろしくお願いします」
「でも……」

 俺と男を見比べて戸惑う彼女を、男が優しくベッドに誘い、俺は頷いた。
 彼は俺と同じくらいの年齢に見える人気の男娼……実際には二十五歳で、理由を話して、それなりの金額を支払い先生として雇った。

 先生は俺の考えを面白がり、金額に見合う分だと言って、指南書だけではわからないことを、行為を行いながら冷静に細かく丁寧に教えてくれる。
 
「女性は一人一人顔立ちが違うように、体つきから反応、好みが皆それぞれ違うのでいかに正確に把握していくかが大切です。さらに相手の希望を汲み取って自分本位にならないこと。やはり気遣いは大事です」

 先生は淡々と話し続ける。

「ジュリアン様の場合は愛する女性の様子を見逃さないことも大切ですが、愛を伝えることも忘れずに。技巧を教えることはできますが、最後はやはり愛でしょう。あとは……己の鍛錬ですね」

 子爵未亡人と会ったのはその夜限りだったものの、先生にはその後何度か見学をさせてもらった。

 そのおかげでイヴとの初めての夜も反省点は多々あるが大失敗ではなかった、と思う。
 最初から先生のようにできるわけがないから経験していくしかないのだろう。


 そして今夜は結婚して初めての夜。
 せっかく侯爵家の別荘で過ごすから特別な夜にしたい。
 ずっと愛してきた人と結婚できたのだから――。


 婚約者として紹介されたイヴェットは、ただの綺麗なお人形みたいだった。
 正直どの女の子も同じように見えていたから、両親から優しく親切にするように言われてその通りにするだけで。

 だけど、数年が経ってイヴの様子が変わった。
 幼い子のような、大人のようなよくわからない表情を時々浮かべるようになったから。

 それが不思議で人形じゃないって気づいて、もっとそのままのイヴを知りたくなったのだけどなかなか見せてくれなかった。

 つかまえておかないと。
 そう思って気が焦るのに、イヴが先に学園に入ってからはどんどん大人になって、距離を感じるようになった。

 ずるい、どうして俺は同じ年に生まれなかったんだと追いつこうと頑張って勉強する間にますますすれ違っていったわけだけど。

「イヴ、こっちを向いて」

 繊細なレースが施された今夜のための寝衣は着ていないも同然で、ろうそくの灯りに照らされて艶めかしい肢体がほんのり見える。

「ジュリアン、恥ずかしいわ」

 俺の妻はとても可愛くてとても綺麗だ。
 緊張し過ぎないように用意されたラベンダーの風呂に入ったせいか、近づくと彼女から爽やかな香りがする。

「一緒に過ごしたことがあるのに?」
「それでも……簡単に、慣れないわ……」

 部屋はほのかにジャスミンが香り、ベッドには花びらがばらまかれていた。
 色々な花の香りが絶妙に混じり合い、幸福感に満たされる。
 俺はシーツの上に座り、柔らかな彼女を膝に乗せた。

「こうしたら見えないから」
「うん」

 唇を啄んで舌を絡める。
 可愛くて可愛くてたまらない。
 気持ちははやるけれど、今夜は特別な夜だから。

「イヴ、好きだよ」

 何度も気持ちを伝えて、寝衣の上から彼女に触れる。
 胸の先端が尖り、薄衣を押し上げて愛らしい。
 包み込んで重みと柔らかさを手のひらで感じてから布ごしに唇を寄せて、咥える。

「ジュリアンっ」

 そのまま少し歯を立てて噛むと、イヴの体がピクッと震えて気を良くした。
 そのまま舐めたり舌で刺激するうちに、彼女の吐息が髪にかかる。

「イヴ?」

 彼女の紅潮した顔に、下半身に熱がたまる。
 可愛い、俺だけのイヴ。

「イヴのここ、可愛いね」

 寝衣から濡れて透けて見える胸の先端を親指で弾いた。
 もう片方も同じように刺激してイヴのいやらしい姿に興奮する。

「ジュリアンっ、……唇にキスがいい」
「うん、これ脱がせていい?」

 無言で頷くのを見て、肩紐を腕に下ろし、そのまま下へ引き下ろす。

「え……?」

 むき出しの上半身に一瞬呆けたイヴが慌てて胸を覆った。

「ジュリアン、これ、リボンを解いたら簡単に脱げるの……」

 知ってた。でもしどけない彼女が見たかった。
 唇を重ねながらなめらかな背中に指を這わせ、びくびくと震えるのを愉しむ。

「ごめんね、我慢できなくて」
「んっ……」

 イヴの小さな舌を追いかけ、絡めとる。
 すると彼女の腕が俺の首に回された。 
 片手で頭を支えながらゆっくりと彼女を横たえる。

「愛している。俺がどれだけイヴを好きか知ってほしい」
「うん、私も愛しているわ」

 潤んだ瞳を見つめていると、早く先へ進めたくなった。
 けれど時間はたくさんある。
 全身にキスして、愛を伝えて、それから――。

「ジュリアン」

 乞われるような甘いささやきに、俺はもう一度キスを贈った。
 朝までイヴを離せそうにない。
 










******


 ここまでお読みくださりありがとうございます。
 最後までがっつり書くつもりでしたが、なんとなく余韻があるほうがいいかもなぁと思い、迷いつつここまでにしました。
 

 
しおりを挟む
感想 40

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(40件)

wawhon
2021.10.07 wawhon

ヒロインが常識足らずでヒーローも常識がないのでお似合いじゃ?両キャラの行動のせいで好きにはなれないのであっそという感想しかないですが。
夜に訪ねてきて自室に通して二人っきりってそれだけでアウト。バカなのこのヒロイン。着替えもせず寝間着にガウンなのも引く。常識が現代のもののままで貴族として、淑女の教育は欠落してるの?
応接間に通して着替えろよと。話を都合よく無理やり進めるために既成事実を作りやすくするために自室に通して二人きりにしたんだろうけど、そこからありえないしか思えなくて感情移入しようがなくなった。
男の方もどういう教育されたの?婚約者以外の女と教員がいようが、側にではなく離れた位置な時点で二人きりに見えるし疑われるようなことを繰り返すって不誠実以外の何物でもない。成績あげたいならなんで勉強の出来る同性の男にしなかったの?交友関係で頼れそうな友人知人いないの?それって侯爵家として致命傷で、別の意味でこいつやばいなとしか思えない。
女とお勉強って不貞と疑われても仕方ないと思う。

2021.10.07 能登原あめ

おお〜っと、もうしわけありません😅
エロ多めの割れ鍋に綴じ蓋な二人の話のため、おっしゃる通りツッコミどころは多いかと思います。
お叱りはごもっとも、今後の参考にさせていただきますね ○︎┓︎ペコ
wawhonさま、貴重なお時間をさいて読んでくださったこと、さらにコメントまでありがとうございました〜🤗

解除
柚木ゆず
2021.09.19 柚木ゆず

最新話、9 おまけ を拝読しました。

本編同様。このジュリアンさん視点も、魅力が詰まっていまして。
あめ様。こういった形のラスト、すごく好きです……!



本編、そしておまけ。素敵な世界を投稿してくださり、本当にありがとうございました。
こちらの世界も同じく、明日からは再び、1から楽しませていただきますね。

2021.09.19 能登原あめ

おまけのラストはどうなのかなぁと悶々と←
していたので、そう言っていただけて嬉しいです😊
ジュリアン視点大丈夫でしたか(´>∀︎<`)ゝ))エヘヘ

体調はその後大丈夫でしょうか?
無理せずご自愛くださいね( •̀ᴗ•́ )و🍀
柚木ゆずさま、お忙しい中お読みくださりありがとうございました〜🤗

解除
鍋
2021.09.19

ジュリアン視点ありがとうございました💖

やっぱり相当年下なのを気にしてたんですね😆

そして閨指導のご夫人( *´艸`)
きっとイケメンジュリアンの指導を楽しみにしてたでしょうに、残念(*´ー`*)💦

余韻が残るし、激甘なのにしっとりとしてて素敵でした💞💞💞💞💞

2021.09.19 能登原あめ

ジュリアン、ものすごーく気にしてますよね💦
特に十代同士って年の差感じますし😁

あの夫人はその後先生にハマり指名するという未来が ₍˄·͈༝·͈˄*₎◞︎ ̑̑ᗦ↞︎◃︎
後半大丈夫でしたか🌟
安心?しました〜(´>∀︎<`)ゝ))エヘヘ
鍋さま、ありがとうございます〜🤗

解除

あなたにおすすめの小説

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

わんこ系婚約者の大誤算

甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。 そんなある日… 「婚約破棄して他の男と婚約!?」 そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。 その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。 小型犬から猛犬へ矯正完了!?

あなたが残した世界で

天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。 八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。

ダメンズな彼から離れようとしたら、なんか執着されたお話

下菊みこと
恋愛
ソフトヤンデレに捕まるお話。 あるいはダメンズが努力の末スパダリになるお話。 小説家になろう様でも投稿しています。 御都合主義のハッピーエンドのSSです。

私の意地悪な旦那様

柴咲もも
恋愛
わたくし、ヴィルジニア・ヴァレンティーノはこの冬結婚したばかり。旦那様はとても紳士で、初夜には優しく愛してくれました。けれど、プロポーズのときのあの言葉がどうにも気になって仕方がないのです。 ――《嗜虐趣味》って、なんですの? ※お嬢様な新妻が性的嗜好に問題ありのイケメン夫に新年早々色々されちゃうお話 ※ムーンライトノベルズからの転載です

どなたか私の旦那様、貰って下さいませんか?

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
私の旦那様は毎夜、私の部屋の前で見知らぬ女性と情事に勤しんでいる、だらしなく恥ずかしい人です。わざとしているのは分かってます。私への嫌がらせです……。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 政略結婚で、離縁出来ないけど離縁したい。 無類の女好きの従兄の侯爵令息フェルナンドと伯爵令嬢のロゼッタは、結婚をした。毎晩の様に違う女性を屋敷に連れ込む彼。政略結婚故、愛妾を作るなとは思わないが、せめて本邸に連れ込むのはやめて欲しい……気分が悪い。 彼は所謂美青年で、若くして騎士団副長であり兎に角モテる。結婚してもそれは変わらず……。 ロゼッタが夜会に出れば見知らぬ女から「今直ぐフェルナンド様と別れて‼︎」とワインをかけられ、ただ立っているだけなのに女性達からは終始凄い形相で睨まれる。 居た堪れなくなり、広間の外へ逃げれば元凶の彼が見知らぬ女とお楽しみ中……。 こんな旦那様、いりません! 誰か、私の旦那様を貰って下さい……。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。