明日の夜、婚約者に捨てられるから

能登原あめ

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8 ※(終)

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 翌朝、無事まとまってよかったというような両親と顔を合わせた後で、何事もなかったように一緒に朝食をとり、結婚式の段取りの話をした。

 顔には出さないようにしたけれど、恥ずかしい思いをしているのは私だけみたい。
 隣に座ったジュリアンがこっそり私の手を握ってほほ笑み、両親はそれに気づいているけど気づかないふりをしているという……居たたまれない時間を過ごした。

 一度帰ったジュリアンだけど、舞踏会のために迎えに来てくれて一緒に会場に入る。

「イヴ、大丈夫?」
「ええ、もちろん」

 気合を入れて着飾ってにこやかに応えたけれど、今夜はダンスも友達とのおしゃべりもしない。
 挨拶だけして、ジュリアンと一杯のお酒を飲むくらいの時間を過ごして早めに帰る予定。

 さっきから彼が私の腰を支えてくれていて、いつもより甘い態度が嬉しいけれど、ちらちら周りから視線を感じて少し恥ずかしい。

「……ジュリアン、目立たないところに行きましょう?」
「……わかった」

 ジュリアンが侍従から二人分の飲み物を受け取るとバルコニー……ではなく庭園へ向かった。
 小説のようにバルコニーで婚約解消を求められることはないとわかっていても、きっとこの夜が終わるまでは少し不安を抱えたまま過ごすのだと思う。
 長年の思い込みはそう簡単に抜けないらしい。

「少し休もう」
「ええそうね」
 
 昼間観たら美しい薔薇のアーチを抜けると、東屋ガゼボが見えた。
 その中に入ると舞踏会の明かりが遠く感じて、少し現実離れした雰囲気がする。

「座って」

 ジュリアンが長椅子にハンカチを敷き、座るように勧めた。

「ありがとう」

 隣に座った彼からグラスを受け取り乾杯する。
 お互いの顔が近づかないとはっきり見えないけれど、触れ合う腕が温かい。

「これは……」

 隣国特産のシェリー酒。
 余計なことは言わないで一口ずつ味わう。

「白ワインかと思ったら、辛口のシェリー酒だね。好き?」

 そうジュリアンに問われてなぜか緊張した。
 
「白ワインのほうが好きよ。ジュリアンは……?」
「そうだね、イヴの部屋に置いてあった甘いシェリー酒のほうが好きだな。あれを飲むたびに初めての夜を思い出すと思うんだ」

 そんなふうに言われたら、私もそうなってしまいそう。
 隣国へ行くために手配していた馬車も、しばらく滞在させてもらうつもりでいた大叔母にも、断りの手紙をこっそり出した。
 隣国の件はこれで片づいたはず。

「イヴ?」

 柔らかい声で呼ばれて顔を上げるとそっと唇が重なる。

「殿下のところへ行けなくて後悔している?」
「してないわ。だってジュリアンが好きだもの」
「よかった」

 何度も私の唇を啄んで、緩んだ隙に舌が忍びこんだ。

「んっ、待って……っ!」

 ジュリアンのキスは、私をすごく煽る。
 体を重ねたばかりで、彼の体温や熱を思い出してしまうのに。

「……蕩けて可愛い。そんな顔じゃ会場向こうに戻れないよ」
「ジュリアンがキスするから」
「嫌だった?」
「嫌じゃない。……好き」

 すると今度は最初から舌が口内をなぶり尽くす。

「んんっ、あっ!」

 ひょいっと持ち上げられてジュリアンの膝の上に乗せられる。
 夜中の行為を思い出すような体勢に慌てるものの、キスが気持ちよくていつしか夢中になってしまった。

「イヴ……このままではドレスが汚れてしまう」

 ドレス?
 ジュリアンの手が私の内ももを撫でていて、そのまま下着の隙間から脚の間に触れた。

「ほら、濡れてる。……このままだと俺のトラウザーズも濡れるから腰を上げて」
「私、下りるわ。もう止めましょう?」
「待って」

 ジュリアンの指が陰核を撫でるから、腰が震えて彼にしがみついた。

「あぁ、もう、本当に可愛いな」
「……こんなところで、だめ。ジュリアン、そろそろ帰り、ましょ⁉︎」

 私が止める前に指が蜜口の奥へと滑り込み、内側から私が反応するところを何度も擦った。
 ジュリアンの肩に頭を乗せて、快楽をやり過ごそうと呼吸する。

「イヴ、こっち」

 立ち上がったジュリアンに誘導されてテーブルに手をつくと、背後に回った彼が私の腰を引き、スカートをまくり上げた。

「ジュリアン……? ひぁっ!」

 ひんやりした空気にさらされた直後に、温かい息がかかり秘裂を舐められた。

「大きな声を出すと誰か来るかもしれないよ。楽にしていて。ドレス、汚したくないでしょ?」
「でもっ、んんっ、あ……」

 彼の唇と舌、それから指が私を乱す。
 気持ちいい。だけど少し物足りない。
 多分わざと快楽を避けるように触れてくる。

「ジュリアン」
「なに?」

 振り向いてもよく見えないけど彼が楽しんでいるのが伝わって、私は震える脚を支えるためにテーブルに頭を乗せた。

「ジュリアン」
「どうした?」

 外でこんなことをするなんて信じられないのに、私は――。

「お願い」

 ジュリアンが無言で立ち上がりトラウザーズを緩める衣ずれの音に耳を澄ませた。

「イヴ」

 声と同時に長大な陰茎がゆっくり突き挿れられ、その質量に体が打ち震えた。

「……っ!」

 声が漏れそうになって慌てて指を噛んだ。

「イヴ、すごく温かくて気持ちいい……そんなにしごかれるとすぐに達してしまうよ。あぁ……イヴはどこもかしこも可愛いな」

 遠くから風にのせてダンスの演奏がかすかに聴こえてくる。
 いつ、誰かがやって来てもおかしくはない場所で彼を受け入れている――。

 背徳感にはしたなく濡れる。
 ジュリアンのゆったりとした律動に、期待ゆえか水音が大きくなった。

「イヴ? 気持ちいい? すごいな、一度しかできないのが残念だ」

 しっかりと腰をつかみ、何度も突き込んで私を絶頂へといざなった。

「ん、んんぅ、んん――!」

 吐息まじりに名前をささやかれ、ジュリアンが奥深くに吐精する。
 お互いの息が整うまでおおいかぶさるように抱きしめた後、陰茎を引き抜き蜜口へハンカチが宛てがった。

「イヴ……愛している。結婚するのが待ち遠しい」

 ジュリアンって、一度たがが外れると止まれないみたい。
 こんなふうに体を重ねていたらいつ授かってもおかしくないと思う。

「ジュリアン、子どもが欲しいの? まだしばらくいいって……」
「二人きりで過ごしたい気持ちもあるけど、イヴが一緒にいてくれるなら、どちらでもいいんだ。イヴは?」
「そうね……成り行きにまかせてもいいと思うわ」

 私の言葉に満足そうに笑う。
 それからおかしくない程度に身支度を整えて、私達はそっと舞踏会を抜け出した。
 
 


 



「本日はおめでとうございます」

 私達の結婚式に現れたヒロイン、シルヴィは、ジュリアンに対して本当に男同士かと思うくらいさっぱりした態度で祝福してくれた。
 もし恋心があったとしたら、ものすごい演技力だと思えるほどの。

「彼からいつもイヴェット様の好きなところを聞いていたので、初めてお話しするように思えません。末長くお幸せに!」
「ありがとうございます」

 彼女からジュリアンに視線を移すと、照れたように笑う。
 
「俺のイヴは世界一可愛いから」

 人前でそんなことを言うと思わなくて内心驚く。

「ふふふっ……。それ以上は二人きりになってからにされたら? これからはずっと一緒に過ごせるのですもの」

 シルヴィが笑い、ジュリアンがそうすると言うのを聞いて本当は今夜が初夜だと気づいた。
 少し、怖い。
 特別な夜だとかつぶやいたのが聞こえたから。

「お二人のお子さんが生まれたら、ぜひ私が教えたいわ。だって、昔、きょう……いえ、昔から先生に憧れていたんですの!」

 今、教師って言おうとした?
 もしかしたら彼女も私と同じなのかもしれない。
 でも私は気づかないふりをして、その時はお願いするわと返事した。

「ではそろそろ失礼するよ。今日は来てくれてありがとう」

 ジュリアンに背中を押されて私は歩く。
 この後は馬車に乗って侯爵家の別荘で一週間ほど二人で過ごす予定。
 それにしても、いつもより早足に感じるのは気のせい?
 見上げるとジュリアンが私を見つめていた。

「これからはもっとたくさん話し合おう。不安になったらちゃんと言って……俺もそうするから」
「わかったわ」

 それからなぜかお互いに勘違いしていたことを謝り合って。

「これからは少しの時間も無駄にしたくない」

 私は同意するように彼の手を握り、近づいて来た唇を受け入れた。

「好き」
「大好き」

 こうして私達は幸せを手に入れた。







           終








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