結婚から始まった私達の関係は仲睦まじく続く

能登原あめ

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おまけ② 温泉保養地へ⑴

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           * リーヌス視点


 今日は古くからある、温泉保養地へやって来た。
 結婚してから色々な場所へカリンと出かけたけれど、宿を予約して来たのは今回が初めてだ。

「のどかで素敵! リーヌス、さっそくサウナに入るの?」
「いや、今日は入らないよ」

 いきなりサウナだなんて、カリンの口から出ると思わなくて驚いた。

「そう……みんなが入ったら感想教えてって言うから面白いのかなって思ったんだけど」
「ごめん、今日行く場所は泉質がよくて、温泉を飲むこともできるんだ。のんびりしよう」

 サウナは老若男女、一緒に全裸で入るから可愛いカリンを見せたくなかった。
 例えタオルで体を隠しても、想像されるのさえ嫌だ。

「そう……ちょっと残念だけど、温泉は楽しみ!」
「うん、すごくいいところだよ。ゆっくりのんびりして、疲れをとろう。帰る頃には元気いっぱいかも、しれないな」

 多分、俺はそうだけど、カリンは――。

「かもしれないの? 長湯したり、何度も入ったら疲れるかもね」

 カリンがそう言って笑うから思わず抱きしめる。

「そうなったら部屋でのんびりすればいい。まずは温泉に浸かろう」








 カリンと離れて少し熱めの湯に浸かる。
 夜になったら、露天風呂に2人で入るつもりでいた。
 きっと恥ずかしがるだろうけど、旅行だから特別に、と言えば頷いてくれるのではないかと思う。

 妻と旅行、くすぐったい気持ちになる。

 自分が結婚することになるなんて考えていなかったが、あの日の判断は本当に正しかった。
 

 伯爵家の五男に生まれて、婿入りを狙う兄達のように貴族社会で生きることは無理だと思い、早くに騎士団の見習いとなった。
 王都の屋敷に母と文官の兄達と住み、お洒落が好きな母はよく仕立て屋を呼んでいた。
   
 あれは5年ほど前だろうか。
 街中に店を構える小さな帽子工房から、時々少女が帽子を届けにやって来ていた。
 カリンだ。

 祖父と言ってもおかしくないくらい歳の離れた家令と親しげに話し、笑顔を見せる。
 早くに両親を亡くして祖父と2人暮らしだとか、彼女の母親は貴族だったが平民と駆け落ちしただとか、噂話が俺の耳にも入った。
 
 明るくて苦労しているように見えなかったから驚いたが、その時は騎士に昇格したばかりで、それ以上考えることはなかったのだが。
 今年の秋、買い物に出た時――。


『……帽子の爺さんが亡くなったから、カリンちゃんが心配だわ。気立てもいいし、明るくて優しくて素直で……絆されて悪い男に捕まる前にお世話してあげたいのよ。独りになって寂しいはずだもの、すでに変なのに目をつけられてたらと思うと……一人暮らしでしょう?』

 騎士団の中で、お見合いおばさんと呼ばれている商店街の会長の奥さんの声。すぐにあの子だと頭に思い浮かべる。
 その後に八百屋の奥さんの声が聞こえた。

『そうねぇ……誰がいいかしら。可愛いから相手はいくらでも浮かぶわ。肉屋の息子がお嫁さんを探していたわよ!』

 そいつはもうすぐ40歳じゃないか。歳が離れ過ぎている。

『う~ん……あの子は帽子工房で楽しそうに働いているし、肉屋は一緒に働けるお嫁さんを探しているでしょう? 相手も同業か、ちゃんと仕事を認めてくれる相手がいいのよねぇ』

『それなら、一本道の向こうの衣料店の息子は? 店番をすることもあるかもしれないけど、理解はありそうよ』
 
 あいつは色んな女の子とデートしているし、まだ結婚なんて考えていないだろう。

『そうねぇ……あの子に結婚はまだ早いと思うのよね。花屋の息子は……若いけど、話が合わないだろうし。文官くらいの方が気楽かしら。あとは騎士で、気になる子が』

『すみません、話が聞こえてしまって。俺を彼女に紹介してもらえませんか?』

 彼女にお見合い相手を紹介しようとする話を聞くうちに、なぜか我慢できなくなって、2人の会話に割り込んだ。
 自分の衝動的な行動に驚いたものの、後悔はしていない。

 会長の奥さんが俺を採点するようにじろじろ見るから、背筋を伸ばした。

『あら、騎士さん。今日はお休みなのね。あなたもカリンちゃんを狙っている1人?」

 八百屋のおばさんの言葉にしどろもどろになる。

『いえ、あの……俺は』

 街をひと巡りしていて、ごくたまに見かけた彼女の元気そうな姿を見るとほっとしたものだが、結婚なんて考えたことはなかった。 
 だが、それはとてもいい案に思えた。

『結婚するなら彼女しか考えられません』

 口に出したらストンと腹に落ちる。
 ずっと黙っていた会長の奥さんが笑った。

『いいでしょう、紹介してあげる。だけど、その先はあなた次第よ、まっすぐな騎士さん』


 それから1度目に会って話した時、頭の中で大聖堂の鐘の音が聞こえ、確信した。

 俺はこの先彼女しか愛さないと。
 

 会長の奥さんに早く話を進めるように何度もしつこくお願いしたから、いつもの奥さんの嗅覚でまとめたお見合いとは話が違うだろう。
 初めてうまくいかなかった夫婦になるつもりはない。

 俺はこの縁を大切にしようと思った。
 
 
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