つがい制度で野蛮な退役軍人のいる最果ての地へ追いやられましたが優しい人しかいません

能登原あめ

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5 誕生日の夜① ※微

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 十七歳の最後の日も、十八歳の最初の日も変わらないと思っていた。
 でも、張り切ったジョーンに今までとは違うナイトドレスを渡されて身につけたものの、恥ずかしい。
 艶やかな白い生地は薄く、レースで飾られていて丈が少し短い。

「グレース様は成人されましたから。アレクシス様も喜んでくださいますよ」
「そうだといいけど……」

 いつもと変わらないガウンを羽織り、部屋へ戻った。今夜は誰とも会わなくてホッとする。
 珍しくジョーンが無言のまま、頭を下げてその場を去っていった。

「アレクシス……?」

 いつもよりろうそくの灯りが暗く、室内は甘い良い香りがする。
 今夜は特別な夜になりそう。
 アレクシスはソファに座ってエールを飲んでいたみたい。

「グレースも少し飲んでみる?」
「……少しだけ」

 グレースも隣に座り、アレクシスのグラスから一口もらった。
 成人して初めてのお酒はフルーティだと言われるエールビール。
 少し苦くて、発泡しているから口の中ではじけて驚いた。大人の味なのだろうけど、美味しいのかよくわからない。
 
「どう?」
「アレクシスはエールが好き?」
「今は好きだ。昔は苦いと思っていたけど」
「私もそのうち好きになるのかな」
「どうだろう。無理に飲まなくていいんだよ」

 アレクシスが笑って、グレースの手を握った。

「緊張して、エールを飲んで待っていたけど……グレースの顔を見たらやっぱりダメだ」
「ダメ?」
「今夜のこと、すごく楽しみにしてた」
「うん」
 
「今も、楽しみ。ずっと待っていたから」
「うん」
「ずっと緊張している。落ち着いた大人の男として見てもらいたいのに」
「私の目にはアレクシスは大人の男性だし、落ち着いて見えるよ……でも、私も緊張しているから、一緒だね」

 そう言うと、アレクシスに引き寄せられてグレースは彼の胸の中にすっぽり収まった。
 速い鼓動が聞こえて、グレースの心音もつられるように速くなる。
 抱きしめられてますます大人の男だと意識してしまった。
 
「好きだよ、グレース」
「アレクシス、大好き」

 髪を撫でる優しい手の動きを感じて、顔を上げたグレースの唇に柔らかいものが触れる。

「愛している。一生大切にするよ」

 五年前の結婚式は額に口づけされた。
 髪や頬に愛情を込めて口づけを受けたのは数えきれないほどあるけれど、唇は十六歳の誕生日がはじめてで。
 その後だって長い時間一緒に過ごしているけど、唇へのキスは両手で数えられるほど。

「ごめん、初めてだから気をつけて進めるけど、嫌だったり不快だったりする時は言ってほしい」
「うん……」

 それ以上、言葉が出てこない。
 アレクシスは戦場にいて経験があると思っていたから驚いた。でもお互い初めて同士で嬉しい気持ちもある。

「私、アレクシスを独り占めできるんだね」
「あまり可愛いこと言うと……」

 続きを待っているとアレクシスはそのまま黙ってしまう。
 ふいに彼に抱き上げられて、いつも一緒に眠っている寝台に下ろされた。
 シーツにはたくさんの花びらが散っていて、良い香りがする。

 グレースの腕の上にふわりと浮かんだ花びらがのったのが見えた。
 今が現実じゃないみたいに感じてアレクシスを抱きしめる。

「グレース?」
「夢みたいで……アレクシスが本物か確かめたの」
「本物だよ」

 お互いの唇が何度も触れ合う。
 幸せな気持ちに浸っていると、アレクシスがより深く唇を合わせた。
 ほんの少しエールの味がして、苦いのに甘い。
 
「……アレ、ク、シす?」

 おかしい。ちゃんと舌が回らない。
 エールは一口しか飲んでいないのに、酔ったのか頭の中がぼんやりする。

「可愛いな、グレース」

 何か言葉を返す前に再び唇が深く重ねられ、お互いの息を奪い合うように絡み合った。
 本で読んだのと、経験するのは全然違う。
 息が切れて苦しいのに離れたくない。

「甘くて、止まらない」

 アレクシスも同じように思ったみたいで嬉しくなる。
 それからひんやりした風を感じたと思ったら、ガウンの紐を解いて大きく開かれた。

「グレース……綺麗だ。脱がしてしまうのがもったいない」
「ジョーンが……」

 このナイトドレスを選んだのは自分じゃないって言いたかったのだけど、それより先にアレクシスが口を開いた。

「うん、グレースにこれを着て欲しくて頼んだんだ。絶対似合うと思ったから……これも今年の誕生日プレゼントのひとつだよ」

「アレクシスがこれを……?」
「そうだ。買いに行くのは恥ずかしかったけど、最初の夜だから」

 薄暗闇で彼の顔色までははっきり見えない。
 でも表情は恥ずかしそうで、嬉しそう。
 きっと赤くなっている気がする。

「ありがとう、アレクシス。いつもと違うから身につけるのは少し恥ずかしかった。でも、選んでくれて嬉しい」
「また別のも着てくれる?」
「……うん、いいよ」

 夫の期待に応えたい。
 次はあまり派手なものじゃないといいけど。

「大好き、アレクシス」

 今度はグレースから唇を重ねた。
 

 
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