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8 帰ってこない
しおりを挟む「きょうは、くるくるまいてあるの、二本たべれるの。だって、五さいだから!」
コレットがお店を見つけて、興奮して叫んだ。
いつの間にかくるくるまきと呼ばれるようになったおやつは、普段レストランで働いている職人さんが、大きい朝市の日にだけ出店しているらしい。
いつか、自分の店を出すために。
前回は、他のものも食べたら一本と一口かじってお腹いっぱいになって、残りは全てネッドさんが平らげた。
毎回挑戦するから、止めたい気持ちもあるけれど、食べきれないことも想定してネッドさんが買っているから、今くらい、甘やかしていいのかな。
「フィーはどうする?」
ネッドさんに耳元で囁かれて、ぴくっと震えた。
「え、っと、あの、はい。一本食べたい、です」
お店の人に、前回同様三本頼んだ。それから、ネッドさんが私の顔をのぞき込む。
「どうした? 顔が赤いけど、熱ある?」
額に触れられて、ますます熱くなった。
ネッドさんは触れてくることが多いけど、好きだと意識したら恥ずかしくなってどきどきするなんて思わなくて。
「大丈夫、です」
「はい、お待たせしました!……お客さん方、熱々だね。見てるこっちも恥ずかしくなるよ! さぁ、食べさせ合いでもなんでも、あっちでどうぞ!」
大声でそんなことを言われて、ますます火照ってくるし、どこを見ていいかわからなくなった。
そんな中、コレットが不思議そうな顔で言う。
「そういえば、ふたりはあーんって、しないねぇ? パパもママもしてた。おとなもみんな、するんでしょ?」
「そう、かな? よし! じゃあ、今日は魚のフライにするか!」
「さかなぁ~? あげたおいもある~?」
「あるかどうかは、お店に行かないとな!」
ネッドさんが話を逸らして、私達はまた色々なものを買い込んで広場に向かった。
楽しい朝食も、あと何回こうして一緒にとれるかなとか、ぼんやり考えてしまって、しばらくネッドさんが話しかけてくるのに気づかなかった。
「フィー?」
「あ、はい、ごめんなさい。なんですか?」
「フィー……やっぱり体調が悪い? こんな時にすまないけど、今日は夕食を先に食べて。俺の分はいらないから。……午後から櫛の納品で出かけるんだけど、いつも食事をご馳走になるんだ。今回はなるべく早く帰るつもりだけど……心配だな」
「いえ、大丈夫ですよ。……今日早めに休みますから」
コレットも、大丈夫か聞いてくるから、にこっと笑った。
その後、家に戻った後も家事はしなくていいって、ネッドさんが心配そうに私の周りをうろうろするから、心臓に悪いし落ち着かなくて困った。
「おじさーん! じゃま! おしごとしてきてー?」
コレットにそう言われて、もう終わってるって、しゅんとしたネッドさんがちょっと可愛くて笑ってしまった。
「ネッドさん、本当に大丈夫ですよ。ありがとうございます」
そういうと、後ろで尻尾がぶんぶん揺れているのが見えた。
「起きてなくていいからね」
優しく笑うから、言葉通り甘えていいんだと思えて胸がきゅんとする。
どんな姿でもネッドさんが好きだと思った。
コレットと二人きりの夕食は初めてで、なんとなくいつもネッドさんが座る場所をみてしまう。もう寂しいのかな。
ネッドさんが、誰が来ても絶対に鍵を開けちゃだめだとか、カーテンからのぞいちゃだめだとか、たくさん注意して出かけて行った。
「ぼく、きょうはフィーをひとりじめできるんだね! おふろのあとで、ほんよんでくれるー? ふねにのってぼうけんにでるおはなしがいい!」
「いいよ。コレットは、冒険に出たいの?」
「うん! だって、いつもパパとママはとおくへ行くときはぼくをおいて行くし、ぼくだっていきたいから」
「そうなんだ、遠くへ……」
「うん! フィーはとおくのくにからやってきたんだよね。ふねのった?」
「そう、船だよ……この話は食べ終わってからゆっくりするね」
船で家族旅行にやって来たのが、随分前のような気がする。
あまり思い出さないようにしていたし、あっちで暮らす家族のことを考えると胸が痛むのは変わらない。
でも今の生活が終わることのほうが嫌だと思っているなんて、私って薄情なのかな。
二人が獣人だからなのか、元々の性格なのか、わかりやすく示してくれる愛情に私はどっぷり浸かっていたみたい。
コレットを寝かしつけてもネッドさんは帰ってこなくて、お帰りなさいを言う前に、私はそのまま眠りについた。
「……フィー……大丈夫か……? 熱はなさそうだな。可愛いなぁ……あー、好きだ。本当に、可愛い……最高に、可愛い」
ぼそぼそとした声に、私の意識が浮上する。
私の髪を撫でながら、話しかけてくるけど多分独り言なのだと思う。
嬉しいけど、恥ずかしい。
「今日は、どうしたんだ……? コレットが帰ったら、寂しいのか……?」
お酒の匂いがする。
もしかして、ネッドさん酔っているのかも?
ゆっくり目を開けると大きな手が私の額を覆っていた。
だから私はその手をぎゅっと握る。
「……!」
「……ネッドさん、好きです……ネッドさんと、離れるのも、寂しいんです……」
自分の声が寝起きで掠れていて、ちゃんと舌が回っていなかったけれど、ネッドさんは聞き取ってくれたみたい。
「……っ‼︎ フィー……起きて、た、のか?」
コレットが隣に寝ているから、慌てたネッドさんが口元を押さえた。
「……ネッドさんの声で起きました」
「……待って、俺! 酔ってる場合じゃない……。今の、俺の聞き間違い、か……? 夢……?」
「ネッドさん、好きです。おやすみなさい」
「えっ⁉︎ 寝ちゃう? このタイミングで⁉︎」
私は恥ずかしくなってうつ伏せになった。
ネッドさんが戸惑って、じたばたしている気配が伝わってくる。
どうしよう。どうしたらいいの。
「…………」
「…………フィー」
大きな手が私の髪をかき上げて、うなじに息がかかる。くすぐったいのをこらえていると、そこに音を立てて口づけた。
「……愛しいフィオレンサ、おやすみ」
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