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7 あと少し
しおりを挟むこの国の人達の朝は早い。
だから私も早起きして食事の準備と掃除をすませる。
二人が寝坊もせずすっと起きてくるのは、週に三回、朝市へ行くのが楽しみなのもあるみたい。
他の日も私が朝食の準備をしているとおいしそうな匂いがすると言って顔を出す。
朝市へ行く日は朝食は作らないから、代わりに洗濯をすることもあるし、静かな中で一人お茶を飲むことだってできた。
しばらくすると、ネッドさんが起きてきて二人で向かい合ってお茶を飲むことになるのだけど。
彼から仕事着として渡された袋の中に、いつの間にか新しい下着が三組入っていて、恥ずかしかった。
会計の時に、店員さんにお願いしたのかな。
肌触りもよく、両端にリボンがついていて可愛い。
この国では布の面積が小さいものが一般的みたいで、乾くのが早いから便利だと思う。
今も身につけているけど、慣れればなかなか快適だった。
午前中、ネッドさんが集中して仕事をしている間にコレットを外遊びに連れて行く。昼食の後は三人でお昼寝。
コレットが眠ったら、私だけそっと起きて家事を済ませる。
最近はネッドさんも一緒に寝てしまうことが多い。二人とも同じ姿勢で眠っていたり、尻尾や耳が出ていたりするのを見ると、血が繋がっているんだなぁと、微笑ましく思う。
その後はコレットと一緒に起きてきて、仕事の続きに集中。
夕食の後は三人でのんびり過ごし、コレットが私かネッドさんとお風呂に入る。
「いっしょにはいればいいのに。なんではいらないの? フィーとおふろはいるの、きもちーよ? とっても、かみをあらうのがじょうずなのー」
ネッドさんはコレットの耳元で何か話し、くすぐったそうに笑った。
「……あ、そっかぁ! うん、わかった!」
私を見て、男同士の約束だから教えられないってネッドさんが言う。
気になったけど、コレットから質問攻めにされないですんでほっとした。
夜は三人でベッドに横になる。
屋根裏部屋は、雨の日に私とコレットの遊び場になってしまったけど、特別感があっていい。
コレットが眠り、私がうとうとする頃にネッドさんが静かに起き上がる。
「ゆっくり、おやすみ」
コレットの髪と私の髪をやさしく撫でて、部屋から出て行く。
今は仕事が立て込んでいるんだって。
一人で工房を切り盛りするって大変みたい。
だからもっと、ネッドさんの役に立ちたい。
そうしてあっという間に半月が過ぎた。
「ママとパパからてがみ! なんてかいてあるのー? いつあえる? もうくる?」
コレットの両親の仕事仲間が、山を越えて手紙を届けてくれた。
二人は荷馬車を引いているから、土砂を人力で掻き捨てて一本道が開通するまで待つしかないらしい。だけど、思ったより早く戻って来れそうだという。
特に健康にも問題なく、コレットの心配とよろしく頼むと書いてあったらしい。
「十日くらい先、かな」
「とおかくらい?」
「……えっと、あと、十回くらい寝たら、かな?」
ネッドさんの言葉にコレットも私も落ち込む。
「……はやく、あいたいな。いまから、ねたら、はやくあえるかなぁ?」
「夜に眠るのを数えるんだ。まだ朝起きたばかりだから、眠れないだろ? それに今から寝たら朝市行けないぞ」
「あ! そっかぁ。あさいちのひだ! きょうはくるくるまいてあるの、あるひ?」
「今日は売ってるはずだなぁ。でも早く行かないと、売り切れちゃうかもしれないな」
「ぼく! おしたくしてくるー!」
二人の会話を聞きながら、私がここにいられるのもあと十日なんだと思うと寂しいし、先行きが不安になる。
「フィー、フィーが嫌じゃなければこのままここにいてほしい」
ネッドさんが私の肩に手を置いた。
そんなにわかりやすい顔をしていたのかな。
「でも……コレットがいなくなったら、私のする仕事なんて」
「……いや、あの、そうじゃなくてさ、あの……俺はフィーのことが」
「おじさーん! フィー! はやくいこうよお!」
ネッドさんが、がくっと頭を下げて、大きくため息をついた。
「そのことは、後でゆっくり話そう」
私の髪をくしゃくしゃに撫でてコレットのもとへ行く。
本当にしばらくいていいなら、次の仕事が決まるまで置いて欲しいけど……そんなの図々しいかな。
ネッドさんはなんて言おうとしたんだろう。
私が心配なんだ、とか?
妹のように思っている、とか?
私のことを好きだと言ってくれたこともあるけど、コレットが言わせたようなものだった。
番の話も最初の頃に一度聞いただけ。
物語の中の番は離れているのがつらいって言っていたけど、ネッドさんとはほとんどずっと一緒だからその感覚はよくわからない。
離れたらつらくなるのかな。
なんとなく考えたくない。
ネッドさんはいつも誰にでも優しいと思う。
市場で知り合いに会った時も、誰かに話しかけられた時もとても穏やかで、親切だった。
私の髪をよく撫でたり、触れたりもするけど、コレットにも同じようにしてる。
もしかして、番って間違えたのかも。
そう考えて動揺した。
ネッドさんの近くにいると、すごく幸せで楽しくてこのままずっと一緒にいたいし、ネッドさんの特別でいたい……そう考えて。
私、ネッドさんが好きなんだ。
気づいてしまったら、どきどきしてきた。
「フィー! おっそーーい! くるくるまいてあるの、うりきれちゃうよー!」
「ごめんね! 今行きます!」
しばらく考えるのはおあずけで、私は朝市を楽しむことにした。
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