獣人の国に置いて行かれた私の行き先

能登原あめ

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6 朝市へ

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 コレットが言っていた、くるくるまいてあるの、はパンケーキよりも水分の多い生地を薄く広げて焼いて、甘いお芋のペーストとバターを塗って端から丸めた素朴なおやつのことだった。
 この国特産のお芋のおやつは旅行中にも何度か食べたけれど、これは初めて。 
 思い出して胸が痛くなるのはいつかなくなるのかな。

「わぁ~! ぼく、おおきくなったから、二本たべられるよ!」

 屋台の前で目をキラキラさせて背伸びするコレットがかわいくてニコニコしてしまう。

「そうなの? おいしそうだから、私もこれにしようかな。ネッドさんは……?」

 ずっしりと重い母の財布から、いくらか持って来た。あの財布は見ていると悲しくなるから、古物商を見つけたら手放したいと思う。母はもっと高級な財布を手に入れるんだろうな。

「じゃあ、お兄さん、三本お願いします」

 余計なことを考えている間に、ネッドさんがさっと注文して買ってくれた。

「はい、可愛い奥さんと子どもさんにおまけ。新作のクッキーどうぞ!」
「わぁい! おにいさん、ありがとー!」
「ドウモ」

 ネッドさんが三本受け取り、クッキーの入った袋はコレットが受け取った。
 
「……他にも色々買ってあっちで食べよう」
「はい……」

 家族、というより夫婦に間違われて恥ずかしいけど、その場で否定するのもおかしい気がして私は代わりに言った。

「あの、お金払います……」
「これくらい、気にするな。……それでも気になるなら、給料から引く?」
「はい、そうして下さい」
「……フィー、真面目なんだな。このくらい、奢られておけよ」

 ネッドさんが、笑って私の髪をくしゃくしゃに撫でた。
 その後もやっぱり家族に見られて、だんだんそれに慣れていく。
 ネッドさんが独りだった時は商店街で買い物を済ませていたというから、顔見知りの少ないこの辺りだと勘違いされるみたい。

 ネッドさんは大人だから言わないだけで本当は嫌だと思っているかも?
 ちらっと見ると、ネッドさんも私を見て照れくさそうに笑う。

「奥さんって……いやだった?」
「いえ、全然……。ネッドさんのほうが、嫌じゃ」
「全然! むしろ、俺は嬉しい。本当に! えっと、……フィー、あまり離れないで」
「はい」

 コレットと私は手を繋いでいるけど、人通りが多くなってきたから、ネッドさんに近づいて真ん中にコレットを挟む。
 確かに、これは家族に見えると思う。

「フィー、ぼく、フィーがすき」
「ありがとう、私もコレットが好きよ」
「おじさんはー?」
「俺もコレットが好きだぞ」
「……それ、知ってるよー! フィーのこと!」
「……フィー、好きだよ」

 ネッドさんが私をみつめてあっさり言うから。
 私は、顔が熱くなるのを感じた。

「フィーも、おじさんすきでしょ?」
「うん」
「そっかぁ。おじさん! シアワセだねぇ!」
「……だな」

 なんだか恥ずかしいやりとりに、そわそわする。
 でも嫌じゃなくて、顔を上げればネッドさんが嬉しそうに笑っている。
 とってもくすぐったい気持ち。

 それから広場のテーブルに移動して買ってきたものを広げた。
 コレットが楽しみにしていたくるくるまいてあるのと、肉と野菜を串に刺したものや、パンにたっぷりのチーズがかかったもの、芋を揚げたもの、チキンスープ、朝からいろんなものが並んでわくわくする。

「好きなものを、好きなだけ、いっぱい食べて。足りなかったら買い足せばいいから」
「はーい! ぼく、いっぱいたべれるから! みてて!」
「うん。よく噛んでね。ネッドさん、ありがとうございます」
「いや、いいんだ。俺も楽しいから。……今日の朝市は週に一度の大きなもので、普段はもう少し小さいよ」
「そうなんですね……一緒に来れてよかったです」

 だから、ネッドさんもあんな風に言ったんだ。
 もう少しで楽しみを奪うことになってしまって申し訳ない気持ちになる。

「ネッドさん、次もまた案内して下さいね」
「もちろん!」

 ぴょん、っと背筋が伸びて声が弾む。
 ネッドさん、大人なのに可愛らしい面があって顔が緩む。

「ぼくもー! ぼくもいっしょ!」
「うん、またみんな一緒がいいね」

 コレットの言葉に頷いて。
 なんだか、本当に家族みたい。
 からっと晴れた朝にみんなと屋外でとる食事は楽しいし、もっと美味しく感じる。

 昨日の朝が嘘みたい。
 思い出すとやっぱり苦しくなるけど、二人のおかげで私は今笑っていた。





 お腹いっぱいに食べて、その後雑貨屋とその隣の衣料品店に寄った。
 コレットが飽きないうちにささっと済ませたい。
 私が雑貨屋を覗いている間に、ネッドさんが制服だと言ってワンピースを二枚選んでくれていた。
 私の住んでいた国の制服とは違って、桃花色と珊瑚色だし、汚れが気になる。
 ありがたいことにコレットは店員さんと遊んでもらっていた。

「この国の家政婦さんはこの色をまとうんですか?」
「その家々による。似合うと思うんだ……気に入らない? 他のにする?」
「いえ、とても可愛いです。汚れないか気になってしまって」
「それなら、もう一枚は落ち着いた色にしよう。コレットと遊んだり、家事をするのにエプロンがあれば大丈夫だから」

 そう言ってぱぱっと、灰桜色のワンピースとフリルのついたエプロンをいくつか手にする。
 ネッドさんは桃色の系統が好きなのかな……。

「……私、一応着替えもあるので、そんなに大丈夫ですよ……エプロンだけでも……」

 ネッドさんに散財させるようで申し訳なくなる。

「これは仕事で着るんだから、必要なものだよ。……気に入らないなら、最初から選び直すけど……」

 しょんぼりした風に言うから、私は慌てた。

「いえ、これも素敵です! エプロンも可愛いですし……」
「よし、じゃあ、会計してくるから、コレットと待っていて」

 ネッドさんが楽しそうに笑うから、止めることができなかった。

「ありがとうございます」

 その分仕事を頑張ろう。
 最後に食材を買って、私達は家へと戻った。
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