5 / 17
5 一日目が終わり
しおりを挟む順番にお風呂に入った後、コレットのお願いにより、私達は昼間と同じように三人並んで眠ることになった。
「おひるねをいっしょにしたのに、なんでよるはべつなの? なんで? なんでひるはよかったの? なんでよるはだめなの? なんで?」
「…………」
黙ってしまったネッドさんに、私は。
「一緒でもいいですよ……あの、よく眠れたので、ネッドさんが嫌じゃなければ」
「…………」
「おじさんがいやっていうわけないよぉ! だって」
「わかった! コレット、絶対真ん中な!」
ネッドさんがコレットの言葉を遮るように大きな声で言った。
「うん。もちろん、ぼくがまんなかね!」
ネッドさんはコレットが来てから客室で一緒に寝ているらしい。
ベッドがくっついていたから、もしかしてそうかなと思ったけど。
コレットは先に扉に向かってとことこ歩き出す。
私はネッドさんにそっと言った。
「ごめんなさい……本当は落ち着かないですよね」
「うん。いや、なんていうか! その……フィーは女の子だから。その、しかも……」
「おじさーーん! 早く行こうよぉ!」
何か言いかけたネッドさんだけど、そのまま何も言うことはなかった。
「フィー、こわいゆめをみないおまじないして。おでこにチュウね! それからねむるまでぎゅーってして。せなかもとんとんしてね」
「……コレット、注文が多いな」
反対側に寝そべったネッドさんが、呟いた。
「怖い夢を見ませんように」
おでこにキスするとコレットが嬉しそうに笑う。その先で、ネッドさんが私を見つめていたから恥ずかしくなって視線を下げた。
「だってねー、おじさんよりフィーに、してもらいたいもん。……やわらかいし、よくねむれる、よ……」
私は同じリズムで小さな背中に触れる。
しばらくすると、すう、と寝息が聞こえてきた。
双子達より、すごく寝付きがいい。
さすがに夕方まで寝てしまったし、早い時間だから眠くなるわけがない。
そのままコレットを眺めながら家族のことを思い出した。
今頃船の上で、父は新聞を読み、母はその隣でお酒を飲みながらおしゃべりして、双子は寝室で眠くなるまでおしゃべりしているのかな。
行きは、双子と同じ部屋で面倒をみていたけど……泣いていないかな。ううん、双子の絆は強いから、全然寂しがっていないかも。
好きなだけお喋りして笑い合って。
私に早く寝なさいって口うるさく言われないんだもの。私がいなくてもみんないつも通りに過ごしている気がする。
いつか、帰ることができるのかな。
私はこの国で生きていくしかないけれど、安定した仕事と住まいを見つけるまで、不安でたまらない。
ベッドが軋む音がして顔を上げると、起き上がったネッドさんに髪を撫でられた。
「……少し、仕事してくるから。フィー、大丈夫だから。何も心配することはないよ。……だから、おやすみ」
目蓋の上に手を押し当てられて、その重みと温かさに安心した。
そんなにわかりやすかったのかな。
暗闇とともに不安が押し寄せた私に、ネッドさんの優しさが心に染みる。
「ネッドさん、本当に、ありがとうございます。だい、……」
大好きです。
いきなりそう言いかけて、私は口を閉じた。
会ったばかりなのに、どうしてそんなことを言おうとしたんだろう?
「ん? 大丈夫だよ。眠くなってきたかな……? おやすみ、フィー」
「……おやすみなさい、ネッドさん」
彼の手が離れて、寂しく感じた。
それに私をのぞき込む瞳が優しくて、泣きたくなってぎゅっと目を閉じた。
すると私の髪をひと撫でしてから、彼は静かに部屋を出た。
「ん~……」
扉の音で眠りが浅くなったのか、コレットが寝返りを打ち、背を向けた。
私は布団をかけなおしてから、仰向けになって深く息を吸う。それで、あっさり涙が引っ込んだ。
「ネッドさんに、会えてよかった……」
まだ眠れそうにないと思ったけれど、私は傷ついた心を慰めるように眠りに落ちていった。
朝目覚めると、すでにネッドさんはいなくて、私はよく眠るコレットをそのままに、そっとベッドを抜け出してキッチンへ向かう。
ネッドさんはちょうどお湯を沸かしていたらしく、私に背を向けていた。
つい、視線がお尻のあたりにいってしまうのはしっぽが出てないか確認してしまうから。
今朝は出ていなくて残念な気持ちになった……けど、いったい私は何を見ているんだろうと慌てた。
「……おはようございます」
「あぁ、おはよう……。よく眠れたか?」
振り返ったネッドさんの顔がなぜか赤い。
銀色に輝く鍋から、湯気が立っているから、そのせいなのかな。
「はい、おかげさまでよく眠れました。……あの、ネッドさんは眠れました?」
「い、あ、うん。ただ、昨日はちょっと仕事に熱中しちゃったところがあるかな……いつも、コレットが眠ってからも、仕事を進めているんだ」
言い訳するように早口で言うけど、昨日は私が来たせいでいつも以上に仕事が進まなかったのかもしれない。
「あの、今日一緒に市場を回ってもらえれば、次からはコレットと二人で行くので、昼間も仕事に集中できるように、私、頑張ります!」
そう言うと、みるみるうちにがっかりした顔になる。
「俺は毎回一緒に行くつもりでいたけど……嫌だった?」
「いえ、そうではなくて、昼間に仕事ができたほうがいいと思って……本当は、ネッドさんが一緒の方が、私、嬉しいです」
言葉が通じても、私にとって異国だしコレットと二人では何かあった時に困ってしまうかも。
「……! そうか、ならこれからも一緒に買い物へ行こう」
ネッドさんの後ろにゆらゆらと揺れる黒い尻尾がみえた気がした。
14
あなたにおすすめの小説
お嫁さんを探しに来たぼくは、シロクマ獣人の隊長さんと暮らすことになりました!
能登原あめ
恋愛
※ 本編完結後よりR18、ラブコメです。NLです。
ジョゼフはばあちゃんが亡くなってからの四年の間、一人で山奥に暮らしていた。
話し相手は時々やってくる行商人のじいちゃんだけ。
『ばあちゃんと、約束したんだ。十八歳になって成人したら街へ行くって。可愛いお嫁さんをみつけたい。それまではここで過ごすよ』
そうしてとうとう誕生日を迎えた。
『ぼく、大丈夫! だって男の子だから。大人になったら自己責任で冒険していいってばあちゃんが言ってた』
リュックを背負い山を降りたが、さっそくトラブルに巻き込まれる。
そこに現れたのがシロクマ獣人の警備隊長ロイクだった。
人里離れた山奥で男として育てられ、祖母が打ち明ける前に先立ってしまい、そのまま男だと思い込んでいる女の子が主役です。
そのためヒーローが振り回されます。
* 20話位+R(5話程度、R回は※つき)
* コメント欄はネタバレ配慮していないのでお気をつけ下さい。
* 表紙はCanva様で作成した画像を使用しております。
『えっ! 私が貴方の番?! そんなの無理ですっ! 私、動物アレルギーなんですっ!』
伊織愁
恋愛
人族であるリジィーは、幼い頃、狼獣人の国であるシェラン国へ両親に連れられて来た。 家が没落したため、リジィーを育てられなくなった両親は、泣いてすがるリジィーを修道院へ預ける事にしたのだ。
実は動物アレルギーのあるリジィ―には、シェラン国で暮らす事が日に日に辛くなって来ていた。 子供だった頃とは違い、成人すれば自由に国を出ていける。 15になり成人を迎える年、リジィーはシェラン国から出ていく事を決心する。 しかし、シェラン国から出ていく矢先に事件に巻き込まれ、シェラン国の近衛騎士に助けられる。
二人が出会った瞬間、頭上から光の粒が降り注ぎ、番の刻印が刻まれた。 狼獣人の近衛騎士に『私の番っ』と熱い眼差しを受け、リジィ―は内心で叫んだ。 『私、動物アレルギーなんですけどっ! そんなのありーっ?!』
番が逃げました、ただ今修羅場中〜羊獣人リノの執着と婚約破壊劇〜
く〜いっ
恋愛
「私の本当の番は、 君だ!」 今まさに、 結婚式が始まろうとしていた
静まり返った会場に響くフォン・ガラッド・ミナ公爵令息の宣言。
壇上から真っ直ぐ指差す先にいたのは、わたくしの義弟リノ。
「わたくし、結婚式の直前で振られたの?」
番の勘違いから始まった甘く狂気が混じる物語り。でもギャグ強め。
狼獣人の令嬢クラリーチェは、幼い頃に家族から捨てられた羊獣人の
少年リノを弟として家に連れ帰る。
天然でツンデレなクラリーチェと、こじらせヤンデレなリノ。
夢見がち勘違い男のガラッド(当て馬)が主な登場人物。
『完結』番に捧げる愛の詩
灰銀猫
恋愛
番至上主義の獣人ラヴィと、無残に終わった初恋を引きずる人族のルジェク。
ルジェクを番と認識し、日々愛を乞うラヴィに、ルジェクの答えは常に「否」だった。
そんなルジェクはある日、血を吐き倒れてしまう。
番を失えば狂死か衰弱死する運命の獣人の少女と、余命僅かな人族の、短い恋のお話。
以前書いた物で完結済み、3万文字未満の短編です。
ハッピーエンドではありませんので、苦手な方はお控えください。
これまでの作風とは違います。
他サイトでも掲載しています。
絶対、離婚してみせます!! 皇子に利用される日々は終わりなんですからね
迷い人
恋愛
命を助けてもらう事と引き換えに、皇家に嫁ぐ事を約束されたラシーヌ公爵令嬢ラケシスは、10歳を迎えた年に5歳年上の第五皇子サリオンに嫁いだ。
愛されていると疑う事無く8年が過ぎた頃、夫の本心を知ることとなったが、ラケシスから離縁を申し出る事が出来ないのが現実。 悩むラケシスを横目に、サリオンは愛妾を向かえる準備をしていた。
「ダグラス兄様、助けて、助けて助けて助けて」
兄妹のように育った幼馴染であり、命の恩人である第四皇子にラケシスは助けを求めれば、ようやく愛しい子が自分の手の中に戻ってくるのだと、ダグラスは動き出す。
憎しみあう番、その先は…
アズやっこ
恋愛
私は獣人が嫌いだ。好き嫌いの話じゃない、憎むべき相手…。
俺は人族が嫌いだ。嫌、憎んでる…。
そんな二人が番だった…。
憎しみか番の本能か、二人はどちらを選択するのか…。
* 残忍な表現があります。
『ヒーローが過去に本気で愛した人』役から逃げたつもりが溺愛ルートに入ってしまった
イセヤ レキ
恋愛
愛犬のポポと一緒に、人狼の治める国という異世界へ飛ばされた柏木愛流(あいる)、二十三歳。
それから三年間、落とされた先で出会ったおばあちゃんにお世話になり、仕事も言語も身に着け異世界で順応していく。
身内のように大切な存在となったおばあちゃんが亡くなると同時に拾ったのが、怪我をしたハスキーのような大型犬。
愛流は二匹と楽しく一年過ごしたが、愛流が出入りする街には不穏な空気が漂い始める。
そして、愛流は思い出した。
昔読むのをやめた、ダブルヒーローの小説を。
ヒーローの一人が、ロロと名付けて可愛がった大型犬の状況にそっくりであることを。
そして、一年ほど一緒に住んで愛を育んだ相手、つまり愛流が、ある日ロロを守って殺される運命の女性であることを。
全八話、完結済。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる