獣人の国に置いて行かれた私の行き先

能登原あめ

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5 一日目が終わり

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 順番にお風呂に入った後、コレットのお願いにより、私達は昼間と同じように三人並んで眠ることになった。

「おひるねをいっしょにしたのに、なんでよるはべつなの? なんで? なんでひるはよかったの? なんでよるはだめなの? なんで?」
「…………」

 黙ってしまったネッドさんに、私は。

「一緒でもいいですよ……あの、よく眠れたので、ネッドさんが嫌じゃなければ」
「…………」
「おじさんがいやっていうわけないよぉ! だって」
「わかった! コレット、絶対真ん中な!」

 ネッドさんがコレットの言葉を遮るように大きな声で言った。

「うん。もちろん、ぼくがまんなかね!」

 ネッドさんはコレットが来てから客室で一緒に寝ているらしい。
 ベッドがくっついていたから、もしかしてそうかなと思ったけど。
 コレットは先に扉に向かってとことこ歩き出す。
 私はネッドさんにそっと言った。

「ごめんなさい……本当は落ち着かないですよね」
「うん。いや、なんていうか! その……フィーは女の子だから。その、しかも……」
「おじさーーん! 早く行こうよぉ!」

 何か言いかけたネッドさんだけど、そのまま何も言うことはなかった。
 
「フィー、こわいゆめをみないおまじないして。おでこにチュウね! それからねむるまでぎゅーってして。せなかもとんとんしてね」
「……コレット、注文が多いな」

 反対側に寝そべったネッドさんが、呟いた。

「怖い夢を見ませんように」

 おでこにキスするとコレットが嬉しそうに笑う。その先で、ネッドさんが私を見つめていたから恥ずかしくなって視線を下げた。

「だってねー、おじさんよりフィーに、してもらいたいもん。……やわらかいし、よくねむれる、よ……」

 私は同じリズムで小さな背中に触れる。
 しばらくすると、すう、と寝息が聞こえてきた。
 双子達より、すごく寝付きがいい。
 さすがに夕方まで寝てしまったし、早い時間だから眠くなるわけがない。
 そのままコレットを眺めながら家族のことを思い出した。

 今頃船の上で、父は新聞を読み、母はその隣でお酒を飲みながらおしゃべりして、双子は寝室で眠くなるまでおしゃべりしているのかな。

 行きは、双子と同じ部屋で面倒をみていたけど……泣いていないかな。ううん、双子の絆は強いから、全然寂しがっていないかも。  
 好きなだけお喋りして笑い合って。

 私に早く寝なさいって口うるさく言われないんだもの。私がいなくてもみんないつも通りに過ごしている気がする。
 いつか、帰ることができるのかな。
 私はこの国で生きていくしかないけれど、安定した仕事と住まいを見つけるまで、不安でたまらない。

 ベッドが軋む音がして顔を上げると、起き上がったネッドさんに髪を撫でられた。

「……少し、仕事してくるから。フィー、大丈夫だから。何も心配することはないよ。……だから、おやすみ」

 目蓋の上に手を押し当てられて、その重みと温かさに安心した。 
 そんなにわかりやすかったのかな。
 暗闇とともに不安が押し寄せた私に、ネッドさんの優しさが心に染みる。

「ネッドさん、本当に、ありがとうございます。だい、……」

 大好きです。
 いきなりそう言いかけて、私は口を閉じた。
 会ったばかりなのに、どうしてそんなことを言おうとしたんだろう?

「ん? 大丈夫だよ。眠くなってきたかな……? おやすみ、フィー」
「……おやすみなさい、ネッドさん」

 彼の手が離れて、寂しく感じた。
 それに私をのぞき込む瞳が優しくて、泣きたくなってぎゅっと目を閉じた。
 すると私の髪をひと撫でしてから、彼は静かに部屋を出た。

「ん~……」

 扉の音で眠りが浅くなったのか、コレットが寝返りを打ち、背を向けた。
 私は布団をかけなおしてから、仰向けになって深く息を吸う。それで、あっさり涙が引っ込んだ。

「ネッドさんに、会えてよかった……」

 まだ眠れそうにないと思ったけれど、私は傷ついた心を慰めるように眠りに落ちていった。








 朝目覚めると、すでにネッドさんはいなくて、私はよく眠るコレットをそのままに、そっとベッドを抜け出してキッチンへ向かう。
 ネッドさんはちょうどお湯を沸かしていたらしく、私に背を向けていた。

 つい、視線がお尻のあたりにいってしまうのはしっぽが出てないか確認してしまうから。
 今朝は出ていなくて残念な気持ちになった……けど、いったい私は何を見ているんだろうと慌てた。
 
「……おはようございます」
「あぁ、おはよう……。よく眠れたか?」

 振り返ったネッドさんの顔がなぜか赤い。
 銀色に輝く鍋から、湯気が立っているから、そのせいなのかな。

「はい、おかげさまでよく眠れました。……あの、ネッドさんは眠れました?」
「い、あ、うん。ただ、昨日はちょっと仕事に熱中しちゃったところがあるかな……いつも、コレットが眠ってからも、仕事を進めているんだ」

 言い訳するように早口で言うけど、昨日は私が来たせいでいつも以上に仕事が進まなかったのかもしれない。

「あの、今日一緒に市場を回ってもらえれば、次からはコレットと二人で行くので、昼間も仕事に集中できるように、私、頑張ります!」

 そう言うと、みるみるうちにがっかりした顔になる。

「俺は毎回一緒に行くつもりでいたけど……嫌だった?」
「いえ、そうではなくて、昼間に仕事ができたほうがいいと思って……本当は、ネッドさんが一緒の方が、私、嬉しいです」

 言葉が通じても、私にとって異国だしコレットと二人では何かあった時に困ってしまうかも。

「……! そうか、ならこれからも一緒に買い物へ行こう」

 ネッドさんの後ろにゆらゆらと揺れる黒い尻尾がみえた気がした。
 

 
 
 
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