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4 お昼寝の後は

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 体温の高いコレットを抱きしめたまま眠ってしまった私は、ネッドさんに起こされた。

「フィー?」

 どうしてここにいるのか、全部夢じゃなかったんだと、目の前のネッドさんを見て思い出す。

「…………」

 寝起きの、無防備な私の心に沿うようにネッドさんは静かに、穏やかな表情を浮かべていた。

「これ以上寝ると夜眠れなくなるよ」

 窓を眺めると、あっという間に夕暮れで。
 しんみりした気持ちを払うように、私は勢いよく起き上がった。
 
「ごめんなさい。えっと、コレットは……?」
「先に起きて、フィーが起きないって呼びに来た。向こうで遊んでいるよ」

 今日は色々とありすぎて疲れてしまったんだと思うけど、人様の家でいきなり昼寝して、寝顔まで見られて恥ずかしくなった。
 ますます小さな声で、ごめんなさいと言う。

「いや、いいんだ。明日からしっかり働いてもらうから」

 ネッドさんの気遣いが私の心を軽くする。
 それに、感謝でいっぱいになった。
 
「はい。私、頑張ります。……今日、ネッドさんと会えてよかったです……」

 寝ぼけた頭のまま、思ったことを口にした。
 ネッドさんが何度か瞬きした後、顔を赤らめて口元を押さえた。

「俺も……」
「ネッドさんは、私の命の恩人です。だから、私、なんでもします」

 もし出会ってなければ。
 他の仕事を紹介されて、今日から住み込むことなんてできなかったかもしれない。
 もしかしたら、独り、宿でお金が足りるか心配しながら心細い思いをしていたかもしれない。

「…………」

 ネッドさんがモゴモゴと何か呟いた。

「ネッドさん……?」

 彼がベッドの端に腰掛けて、顔を覆った。
 上着の裾から、ゆらゆらと上がるでも下がるでもなく、ゆっくり揺れる黒い尻尾が現れて目を奪われる。
 昼寝をする前は見た目は人間と変わらなかったけど、尻尾だけ出ちゃったのかな。
 伝えたほうがいいのかな。
 わからなくて戸惑った。

「フィー……このまま、ずっといて、いや、初日から俺は……まいったな、はぁ……」

 そう言って顔を上げ、私の視線の先に気づいた。
 艶々の黒い毛並みが私を誘惑するから、あと少しでネッドさんの尻尾に触れるところで。

「フィー……あれ?」

 ネッドさんがさっと、尻尾を隠すように押さえる。もしかして、私失礼なことをしようとしたのかもしれない。

「ごめんなさい……勝手に触ろうとして」
「いや、嫌じゃない? 人間にはないだろう?」

 困った顔をするから、もしかしたら嫌な経験があるのかも。多種族が共存する国だけど、よその国から来た人間は見慣れないものに嫌悪感を示すことがあるから。
 田舎で育ったから特にそう感じる。

「ないですけど、嫌じゃないです。触ってみたいと思ってしまいました」
「……そう……今は、ゴメン。……お互いにもっと仲良くなったら……かな、うん」

 ネッドさんがモゴモゴと呟く。

「えっと、ここに二人でいるのも、アレだから! 居間に行こう」
「そうですね、コレットが何してるか気になりますし……」

 幼い子が眠っているのではなくて、静かな時は何かいたずらしていないか、確認したほうがいいかも。双子はセーターを一枚解いてしまったことがあるから……。
 
「えっと、じゃあ、行きましょうか……?」
「先に行っていて。コレットに顔見せてほしいから」

 前屈みになったまま、なかなか立ち上がらないネッドさんを不思議に思ったけれど、コレットが気になった私は先に部屋を出た。
 
「フィー、よくねむってたね! ぼく、あつくて、おきちゃったよ」

 積み木で遊んでいたコレットが無邪気に笑った。そう言われていたたまれない気持ちになるけど、一人遊びができる子でよかったと思う。

「ごめんね。……えっと、何を作っているの?」
「これ? ぼくのおうち! フィーもいっしょにつくろ」
「うん、ネッドさんが来るまでね。それでもいい?」
「うん!」

 二人でソファの前の床に座って、積み木を積んでいく。
 
「ここが……ぼくのへや、でぇ、ここがぁ、フィーのへやね! たかくつんでー!」
「お隣さんだね」
「うん、おとなりーー。あ、それちょうだい」
「どうぞ」
 
 しばらくそうして遊んでいると、ネッドさんがやって来た。

「あ……っ! そういうことなんですね。……ごめんなさい」

 ネッドさんが、ベッドを整えてきてくれたんだと思った。
 そんなことをさせちゃうなんて恥ずかしい。
 ネッドさんはきょとんとした顔をした後、なぜか一気に赤くなった。

「いや、えっと……その」
「私、ベッドを整えなくてごめんなさい。ネッドさんにさせてしまいましたよね……。甘え過ぎて恥ずかしいです」
「あ、ソッチ、ね……いや、気にしなくていいんだ。そろそろ、夕食の準備をしようかな」

 ネッドさんが苦笑いしたけれど、私にはよくわからなかった。
 その夜は、キッチンの道具の配置や使い方を教えてもらいながら、鍋に残っていた具沢山スープに牛乳と塩味の強いチーズを加えて少し味を変えて食べた。
 コレットは昼間より食べたけど、もっと工夫が必要みたい。

「朝は市場で食べるから、楽しみにしていて」
「やったぁ! くるくるまいてあるの、たべたい!」
「いいぞ。フィーも、遠慮するなよ」
「はい……ありがとうございます」

 母に置いて行かれてどうなるかと思ったけれど、私は二人のそばで、安らかな気持ちでいた。
 
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