17 / 17
その後
17 思いがけない出来事②
しおりを挟む「……彼女の母親は……?」
「アイツ? あぁ、ははっ! 散々兄貴やババァに責められて、金持ってる男に乗り換えようとしてさ、国を出たところでそいつの情婦に刺されたよ」
息を飲む私に、にやりと笑う。
「まぁ、俺がここに来る前は生きてたよ。兄貴は別れる、ってさ。まぁ、それだけじゃ……ところで、フィオ、そこの店で三人分の飲み物買ってきてくれ。さっきから、すげーいい匂いしてるからさ」
ちらりと見るとネッドさんが頷く。
叔父からお金を握らされて、残りは駄賃な、って笑った。
目の前に数人並んでいて、思ったより時間がかかるかも。声は聞こえないけど、二人から見える場所だから不安も何もない。
ネッドさんは視線が合うと笑ってくれるし、心配しなくても叔父と穏やかに会話を交わしているみたい。
甘くて、香ばしい香りのする飲み物を三つ持って席に向かう。
「……フィオ、ありがとな」
「お待たせしました。……叔父さん、これ多すぎるよ」
お釣りを返そうとして差し出すと、叔父はぎゅっと私の手を包むように握った。
「あとで二人でおやつでも食いな」
おやつを買っても余る……と思ったけど、機嫌よく笑う叔父の顔を見てそれ以上言うのはやめた。
「ありがとう、そうするね」
叔父は受け取ったお茶を一気に飲み干し、私の頭をくしゃくしゃに撫でた。
「じゃあ、行くわ。幸せで元気にしてたってみんなに伝えておくけどよ、新婚旅行でも家族旅行でも、何でもいいけど、顔を出したらみんな喜ぶぜ」
「うん、ありがとう……叔父さん、会えてよかった」
ほんの少し照れ臭そうに笑って立ち上がった。
「俺は時々この国に寄らせてもらうよ。……父親が二人いるのもいいだろ」
それだけ言って、驚く私ににやりと笑って背を向けた。
ゆったり歩いて振り向かない叔父の後ろ姿を見つめていると、ネッドさんに後ろから抱きしめられる。
「ネッドさん……」
「早めに行こうか。みんなも心配しているみたいだし、俺も挨拶したい」
「はい。……今日ここで叔父さんと会えてよかった、です……父親が二人って、知っていたんですね。あっちの父も知っているのかな……もし、そうなら、会うのが怖い」
父は顔に出ないし、わかりづらいから。
あまり私と話してくれなかったのは、実の子じゃないってわかっていたからなのかも。
そう言うと慰めるように、頭のてっぺんに口づけが落とされた。
「さっき聞いたけど、どちらもフィーの本当の父親だと信じているらしいよ。だから、心配しないで。俺も一緒に行くからさ」
ネッドさんが一緒なら不安にならなくていいかもしれない。
「はい。……叔父さん、って呼び方変えたほうがいいんでしょうか……この国に来た時は、お父さん、とか」
「それは、今度本人に訊くといいよ。俺はテリーさんと呼ばせてもらうことにしたけど」
「……意外とおしゃべり弾んでいましたね。ほかに、何を話していたんですか?」
ネッドさんが片方の口の端を上げて笑った。
「内緒。男同士の話」
「そう、ですか……」
気になるけれど、教えてくれないみたい。
じっと見つめていると、困ったような顔をした。
「……フィーはさ、母親に言いたいこととか、謝って欲しいとか、ある……?」
そう言われて考える。
正直、また悪意を向けられるのは恐ろしいし、顔を合わせるのは怖い。
それに、母が私に心から謝ってくれるなら……でも、今はそんな姿は想像できない。
ネッドさんにそう伝えると、
「そっか……そう言うような気がした。……わかっていたんだな」
ネッドさんのつぶやきの意味がよくわからなくて、聞き返したけれどなぜか音を立てて唇を押しつけた。
「……ネッドさん! ここ、外です、よ……?」
「ん。食材を買って帰ろう。あ、フィーの国へ行くのに旅支度も必要だね。ちょうど仕事も落ち着いているし、時間のあるうちに行こう。お腹が大きくなってからの船旅は大変だからね」
急にそんなことを言われて、顔が熱くなる。
考えてみたら、いつそんなことになってもおかしくないから……思わず私はお腹に手を当てた。
「そう、ですね……二人きりのうちに、行きたいです」
ネッドさんの手が私の手に重なる。
「その後は、子どもを連れて行こう。何度でも」
私はネッドさんを見上げて頷いた。
それから、間もなく私はネッドさんと生まれ故郷を訪れた。
「フィー?」
「ほんものの、フィーだ! ばぁばー!」
まず、自宅へ向かうと双子が庭で遊んでいて、私を見るなり駆けてきた。
ネッドさんはコレットが二人いるみたいだってつぶやいていたのが印象的。
ひょっこり顔を出した祖母だけど、いつも気丈でしゃんとしているのにうっすらと目に涙を浮かべている。
「そんなところで突っ立っていないで、早く入りなさい」
それだけ言って中に引っ込んだ。それをみて泣きそうになった私の背中をネッドさんが押す。
「先に行って。俺、しばらく二人と話しているから」
興味津々でネッドさんを見つめる双子に、お行儀よくするのよ、って言って私は祖母の元へ行った。
キッチンで目元を押さえていた祖母にそうっと抱きつく。
「おばあちゃん、ただいま。……元気にしてた?」
「元気にきまってるじゃないの、フィオレンサ」
数ヶ月ぶりなのに祖母が小さく感じて、なんだか胸が苦しくなった。
「あのね、私の番、ネッドさんって言うんだけど、あとで紹介するね」
「そうさね、見た目は中々いい男じゃないか。中身はどうか、確認させてもらうよ」
「うん、すっごく尊敬できて、優しくて、おおらかで……あ、仕事もしっかりできる人で、私を大事にしてくれる人なの」
そう言い切ると、祖母がちらりと後ろを見た。
「フィー……ありがとう。期待を裏切らないように頑張ります」
後ろに赤くなって顔を押さえるネッドさんと父が立っていた。
父はなんとも言えない表情で立っていたけど、おかえり、って一言。
だけど、私達のためにご馳走と少し早い結婚祝いを用意してくれていた。
「ありがとう、お父さん」
双子達が私にくっついて離れない。
私が思っていたより、私はみんなに愛されていたみたいで、胸がいっぱいになった。
それ以上言葉の出てこない私の代わりに、
「なるべく、こちらに顔を出します。それと、よかったらぜひ遊びに来てください。いつでも待ってますし、住みたいと思えるくらい気に入ってもらえたら嬉しいです」
ネッドさんがそう言うと、双子が飛び上がって明日行くって返事をした。
みんなの笑い声が響く。
「とっても素敵な国だから、みんなが来てくれたら嬉しいな」
その日はとても穏やかで温かい一日となった。
******
お読みくださりありがとうございます。
以下、この話について裏話を少々。
興味のない方はここで閉じてくださいませ。
当初、フィーの家族は旅の帰りに嵐に遭い、船が沈没して亡くなる予定でした。
その場合不幸になる人が多すぎるため、フィーにとって優しい世界であってほしいとの想いからマイルドになっております。
それと、この話『甘く優しい世界で番と出会って』と同じ国です。
余計な話ですね。
ここまでおつきあいくださり、ありがとうございました!
24
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(42件)
あなたにおすすめの小説
お嫁さんを探しに来たぼくは、シロクマ獣人の隊長さんと暮らすことになりました!
能登原あめ
恋愛
※ 本編完結後よりR18、ラブコメです。NLです。
ジョゼフはばあちゃんが亡くなってからの四年の間、一人で山奥に暮らしていた。
話し相手は時々やってくる行商人のじいちゃんだけ。
『ばあちゃんと、約束したんだ。十八歳になって成人したら街へ行くって。可愛いお嫁さんをみつけたい。それまではここで過ごすよ』
そうしてとうとう誕生日を迎えた。
『ぼく、大丈夫! だって男の子だから。大人になったら自己責任で冒険していいってばあちゃんが言ってた』
リュックを背負い山を降りたが、さっそくトラブルに巻き込まれる。
そこに現れたのがシロクマ獣人の警備隊長ロイクだった。
人里離れた山奥で男として育てられ、祖母が打ち明ける前に先立ってしまい、そのまま男だと思い込んでいる女の子が主役です。
そのためヒーローが振り回されます。
* 20話位+R(5話程度、R回は※つき)
* コメント欄はネタバレ配慮していないのでお気をつけ下さい。
* 表紙はCanva様で作成した画像を使用しております。
『えっ! 私が貴方の番?! そんなの無理ですっ! 私、動物アレルギーなんですっ!』
伊織愁
恋愛
人族であるリジィーは、幼い頃、狼獣人の国であるシェラン国へ両親に連れられて来た。 家が没落したため、リジィーを育てられなくなった両親は、泣いてすがるリジィーを修道院へ預ける事にしたのだ。
実は動物アレルギーのあるリジィ―には、シェラン国で暮らす事が日に日に辛くなって来ていた。 子供だった頃とは違い、成人すれば自由に国を出ていける。 15になり成人を迎える年、リジィーはシェラン国から出ていく事を決心する。 しかし、シェラン国から出ていく矢先に事件に巻き込まれ、シェラン国の近衛騎士に助けられる。
二人が出会った瞬間、頭上から光の粒が降り注ぎ、番の刻印が刻まれた。 狼獣人の近衛騎士に『私の番っ』と熱い眼差しを受け、リジィ―は内心で叫んだ。 『私、動物アレルギーなんですけどっ! そんなのありーっ?!』
番が逃げました、ただ今修羅場中〜羊獣人リノの執着と婚約破壊劇〜
く〜いっ
恋愛
「私の本当の番は、 君だ!」 今まさに、 結婚式が始まろうとしていた
静まり返った会場に響くフォン・ガラッド・ミナ公爵令息の宣言。
壇上から真っ直ぐ指差す先にいたのは、わたくしの義弟リノ。
「わたくし、結婚式の直前で振られたの?」
番の勘違いから始まった甘く狂気が混じる物語り。でもギャグ強め。
狼獣人の令嬢クラリーチェは、幼い頃に家族から捨てられた羊獣人の
少年リノを弟として家に連れ帰る。
天然でツンデレなクラリーチェと、こじらせヤンデレなリノ。
夢見がち勘違い男のガラッド(当て馬)が主な登場人物。
『完結』番に捧げる愛の詩
灰銀猫
恋愛
番至上主義の獣人ラヴィと、無残に終わった初恋を引きずる人族のルジェク。
ルジェクを番と認識し、日々愛を乞うラヴィに、ルジェクの答えは常に「否」だった。
そんなルジェクはある日、血を吐き倒れてしまう。
番を失えば狂死か衰弱死する運命の獣人の少女と、余命僅かな人族の、短い恋のお話。
以前書いた物で完結済み、3万文字未満の短編です。
ハッピーエンドではありませんので、苦手な方はお控えください。
これまでの作風とは違います。
他サイトでも掲載しています。
絶対、離婚してみせます!! 皇子に利用される日々は終わりなんですからね
迷い人
恋愛
命を助けてもらう事と引き換えに、皇家に嫁ぐ事を約束されたラシーヌ公爵令嬢ラケシスは、10歳を迎えた年に5歳年上の第五皇子サリオンに嫁いだ。
愛されていると疑う事無く8年が過ぎた頃、夫の本心を知ることとなったが、ラケシスから離縁を申し出る事が出来ないのが現実。 悩むラケシスを横目に、サリオンは愛妾を向かえる準備をしていた。
「ダグラス兄様、助けて、助けて助けて助けて」
兄妹のように育った幼馴染であり、命の恩人である第四皇子にラケシスは助けを求めれば、ようやく愛しい子が自分の手の中に戻ってくるのだと、ダグラスは動き出す。
憎しみあう番、その先は…
アズやっこ
恋愛
私は獣人が嫌いだ。好き嫌いの話じゃない、憎むべき相手…。
俺は人族が嫌いだ。嫌、憎んでる…。
そんな二人が番だった…。
憎しみか番の本能か、二人はどちらを選択するのか…。
* 残忍な表現があります。
『ヒーローが過去に本気で愛した人』役から逃げたつもりが溺愛ルートに入ってしまった
イセヤ レキ
恋愛
愛犬のポポと一緒に、人狼の治める国という異世界へ飛ばされた柏木愛流(あいる)、二十三歳。
それから三年間、落とされた先で出会ったおばあちゃんにお世話になり、仕事も言語も身に着け異世界で順応していく。
身内のように大切な存在となったおばあちゃんが亡くなると同時に拾ったのが、怪我をしたハスキーのような大型犬。
愛流は二匹と楽しく一年過ごしたが、愛流が出入りする街には不穏な空気が漂い始める。
そして、愛流は思い出した。
昔読むのをやめた、ダブルヒーローの小説を。
ヒーローの一人が、ロロと名付けて可愛がった大型犬の状況にそっくりであることを。
そして、一年ほど一緒に住んで愛を育んだ相手、つまり愛流が、ある日ロロを守って殺される運命の女性であることを。
全八話、完結済。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
甘~~~~~い💕
溺愛ハッピーエンドって、読んで幸せな気分になれます☺
ネッドさん、我慢強くはあったけど、
フィーが受け入れちゃったから 結婚を早めることで解禁しましたね(笑)
でも、スパダリ(富豪とかの意味を含まず)と言っていい相手ですよね☺
2人の末永い幸せを祈って。。。🥂
わ〜〜〜い♪(๑ᴖ◡ᴖ๑)🥂
不憫スタートなのでひたすら甘い話を目指しました〜💓
ネッドさん……フィーがストッパーをはずしてしまいましたね♡
言われてみれば、スパダリなところも🌟
このままお互いを大事にして過ごすと思います♪
seraiaさま、最後までおつきあいくださりありがとうございました〜🤗
完結、おめでとうございます……っ。
あめ様が提供してくださる世界は、いつも大好きでして。
こちらの物語も、ずっとそうでした……っ(もちろん今も、そうです)。
明日からは、再び最初から楽しませていただきますね……っ。
投稿してくださり、ありがとうございました……!
いつも優しく接してくださり嬉しいです〜🌟
なんとか無事に終えることができました!
統一性のないものばかり書いていてお恥ずかしいです〜
柚木ゆずさま、忙しい中お読みくださりありがとうございました〜🤗
すごい、心がほっこりしました!面白かったです!
嬉しいです〜(*´艸`*)♡
書いてよかったです〜🌟
こみさま、お読みくださりありがとうございました〜🤗