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その後
17 思いがけない出来事②
しおりを挟む「……彼女の母親は……?」
「アイツ? あぁ、ははっ! 散々兄貴やババァに責められて、金持ってる男に乗り換えようとしてさ、国を出たところでそいつの情婦に刺されたよ」
息を飲む私に、にやりと笑う。
「まぁ、俺がここに来る前は生きてたよ。兄貴は別れる、ってさ。まぁ、それだけじゃ……ところで、フィオ、そこの店で三人分の飲み物買ってきてくれ。さっきから、すげーいい匂いしてるからさ」
ちらりと見るとネッドさんが頷く。
叔父からお金を握らされて、残りは駄賃な、って笑った。
目の前に数人並んでいて、思ったより時間がかかるかも。声は聞こえないけど、二人から見える場所だから不安も何もない。
ネッドさんは視線が合うと笑ってくれるし、心配しなくても叔父と穏やかに会話を交わしているみたい。
甘くて、香ばしい香りのする飲み物を三つ持って席に向かう。
「……フィオ、ありがとな」
「お待たせしました。……叔父さん、これ多すぎるよ」
お釣りを返そうとして差し出すと、叔父はぎゅっと私の手を包むように握った。
「あとで二人でおやつでも食いな」
おやつを買っても余る……と思ったけど、機嫌よく笑う叔父の顔を見てそれ以上言うのはやめた。
「ありがとう、そうするね」
叔父は受け取ったお茶を一気に飲み干し、私の頭をくしゃくしゃに撫でた。
「じゃあ、行くわ。幸せで元気にしてたってみんなに伝えておくけどよ、新婚旅行でも家族旅行でも、何でもいいけど、顔を出したらみんな喜ぶぜ」
「うん、ありがとう……叔父さん、会えてよかった」
ほんの少し照れ臭そうに笑って立ち上がった。
「俺は時々この国に寄らせてもらうよ。……父親が二人いるのもいいだろ」
それだけ言って、驚く私ににやりと笑って背を向けた。
ゆったり歩いて振り向かない叔父の後ろ姿を見つめていると、ネッドさんに後ろから抱きしめられる。
「ネッドさん……」
「早めに行こうか。みんなも心配しているみたいだし、俺も挨拶したい」
「はい。……今日ここで叔父さんと会えてよかった、です……父親が二人って、知っていたんですね。あっちの父も知っているのかな……もし、そうなら、会うのが怖い」
父は顔に出ないし、わかりづらいから。
あまり私と話してくれなかったのは、実の子じゃないってわかっていたからなのかも。
そう言うと慰めるように、頭のてっぺんに口づけが落とされた。
「さっき聞いたけど、どちらもフィーの本当の父親だと信じているらしいよ。だから、心配しないで。俺も一緒に行くからさ」
ネッドさんが一緒なら不安にならなくていいかもしれない。
「はい。……叔父さん、って呼び方変えたほうがいいんでしょうか……この国に来た時は、お父さん、とか」
「それは、今度本人に訊くといいよ。俺はテリーさんと呼ばせてもらうことにしたけど」
「……意外とおしゃべり弾んでいましたね。ほかに、何を話していたんですか?」
ネッドさんが片方の口の端を上げて笑った。
「内緒。男同士の話」
「そう、ですか……」
気になるけれど、教えてくれないみたい。
じっと見つめていると、困ったような顔をした。
「……フィーはさ、母親に言いたいこととか、謝って欲しいとか、ある……?」
そう言われて考える。
正直、また悪意を向けられるのは恐ろしいし、顔を合わせるのは怖い。
それに、母が私に心から謝ってくれるなら……でも、今はそんな姿は想像できない。
ネッドさんにそう伝えると、
「そっか……そう言うような気がした。……わかっていたんだな」
ネッドさんのつぶやきの意味がよくわからなくて、聞き返したけれどなぜか音を立てて唇を押しつけた。
「……ネッドさん! ここ、外です、よ……?」
「ん。食材を買って帰ろう。あ、フィーの国へ行くのに旅支度も必要だね。ちょうど仕事も落ち着いているし、時間のあるうちに行こう。お腹が大きくなってからの船旅は大変だからね」
急にそんなことを言われて、顔が熱くなる。
考えてみたら、いつそんなことになってもおかしくないから……思わず私はお腹に手を当てた。
「そう、ですね……二人きりのうちに、行きたいです」
ネッドさんの手が私の手に重なる。
「その後は、子どもを連れて行こう。何度でも」
私はネッドさんを見上げて頷いた。
それから、間もなく私はネッドさんと生まれ故郷を訪れた。
「フィー?」
「ほんものの、フィーだ! ばぁばー!」
まず、自宅へ向かうと双子が庭で遊んでいて、私を見るなり駆けてきた。
ネッドさんはコレットが二人いるみたいだってつぶやいていたのが印象的。
ひょっこり顔を出した祖母だけど、いつも気丈でしゃんとしているのにうっすらと目に涙を浮かべている。
「そんなところで突っ立っていないで、早く入りなさい」
それだけ言って中に引っ込んだ。それをみて泣きそうになった私の背中をネッドさんが押す。
「先に行って。俺、しばらく二人と話しているから」
興味津々でネッドさんを見つめる双子に、お行儀よくするのよ、って言って私は祖母の元へ行った。
キッチンで目元を押さえていた祖母にそうっと抱きつく。
「おばあちゃん、ただいま。……元気にしてた?」
「元気にきまってるじゃないの、フィオレンサ」
数ヶ月ぶりなのに祖母が小さく感じて、なんだか胸が苦しくなった。
「あのね、私の番、ネッドさんって言うんだけど、あとで紹介するね」
「そうさね、見た目は中々いい男じゃないか。中身はどうか、確認させてもらうよ」
「うん、すっごく尊敬できて、優しくて、おおらかで……あ、仕事もしっかりできる人で、私を大事にしてくれる人なの」
そう言い切ると、祖母がちらりと後ろを見た。
「フィー……ありがとう。期待を裏切らないように頑張ります」
後ろに赤くなって顔を押さえるネッドさんと父が立っていた。
父はなんとも言えない表情で立っていたけど、おかえり、って一言。
だけど、私達のためにご馳走と少し早い結婚祝いを用意してくれていた。
「ありがとう、お父さん」
双子達が私にくっついて離れない。
私が思っていたより、私はみんなに愛されていたみたいで、胸がいっぱいになった。
それ以上言葉の出てこない私の代わりに、
「なるべく、こちらに顔を出します。それと、よかったらぜひ遊びに来てください。いつでも待ってますし、住みたいと思えるくらい気に入ってもらえたら嬉しいです」
ネッドさんがそう言うと、双子が飛び上がって明日行くって返事をした。
みんなの笑い声が響く。
「とっても素敵な国だから、みんなが来てくれたら嬉しいな」
その日はとても穏やかで温かい一日となった。
******
お読みくださりありがとうございます。
以下、この話について裏話を少々。
興味のない方はここで閉じてくださいませ。
当初、フィーの家族は旅の帰りに嵐に遭い、船が沈没して亡くなる予定でした。
その場合不幸になる人が多すぎるため、フィーにとって優しい世界であってほしいとの想いからマイルドになっております。
それと、この話『甘く優しい世界で番と出会って』と同じ国です。
余計な話ですね。
ここまでおつきあいくださり、ありがとうございました!
応援ありがとうございます!
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みんなの感想(42件)
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甘~~~~~い💕
溺愛ハッピーエンドって、読んで幸せな気分になれます☺
ネッドさん、我慢強くはあったけど、
フィーが受け入れちゃったから 結婚を早めることで解禁しましたね(笑)
でも、スパダリ(富豪とかの意味を含まず)と言っていい相手ですよね☺
2人の末永い幸せを祈って。。。🥂
わ〜〜〜い♪(๑ᴖ◡ᴖ๑)🥂
不憫スタートなのでひたすら甘い話を目指しました〜💓
ネッドさん……フィーがストッパーをはずしてしまいましたね♡
言われてみれば、スパダリなところも🌟
このままお互いを大事にして過ごすと思います♪
seraiaさま、最後までおつきあいくださりありがとうございました〜🤗
完結、おめでとうございます……っ。
あめ様が提供してくださる世界は、いつも大好きでして。
こちらの物語も、ずっとそうでした……っ(もちろん今も、そうです)。
明日からは、再び最初から楽しませていただきますね……っ。
投稿してくださり、ありがとうございました……!
いつも優しく接してくださり嬉しいです〜🌟
なんとか無事に終えることができました!
統一性のないものばかり書いていてお恥ずかしいです〜
柚木ゆずさま、忙しい中お読みくださりありがとうございました〜🤗
すごい、心がほっこりしました!面白かったです!
嬉しいです〜(*´艸`*)♡
書いてよかったです〜🌟
こみさま、お読みくださりありがとうございました〜🤗