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1 家族からのプロポーズ
しおりを挟む「お互いに知り合って長い。俺はお前が好きだし、お前も俺が好きだろう? 結婚しよう。もちろん、両親も賛成している」
異母兄の言葉に私は眉を寄せた。
「ポールお兄様、私達血が繋がってます!」
「半分だけだろう? 母親が違うんだから気にするな」
無理、無理!
私には前世の記憶があって、日本生まれ。
この世界に日本はないけれど、私はこれまで伯爵家の娘として何不自由なく暮らしてきた。
この国のルールはわかっているけど、半分血が繋がっている人と結婚なんてできない。
私の中で遺伝子が、とか倫理が、とか色々ぐるぐる回る。
「お兄様のことは人間として好きですが、結婚はお受けできません」
キラキラした金髪にエメラルドグリーンの瞳。
すらりとしていて、カッコいい自慢の兄。
兄としては好きだけど、結婚は違うの!
「……今は男として好きでなくてもいい。少しずつ俺のことを考えてくれれば……」
「無理です、だめです、そんな気持ちになれません」
かたくなな私に、兄の声が低くなる。
「それならば、俺と結婚するか、伯爵家から除籍されるか、どちらかを選べ。……伯爵家で育ったお前が、市井で暮らせるか……?」
じっとりとした瞳に見つめられる。
私はごくりとつばを飲んだ。
「……一晩考えさせてください」
兄がにっこりと黒い笑みを浮かべた。
無理無理。
このまま囲い込もうったって、そうはいかないんだから!
私の好みはね、ストレートな男なの。
一直線に、まっすぐ!
私に愛の塊をぶつけてくるような!
「……そうだな、明日は仕事があるから晩餐の後で、返事を聞かせてくれるか?」
「……それまでに心を決めます」
今は疑われるようなことはしちゃだめよ、私!
ほら、すうっと、目を細めて私をじっとみる。
「お、兄様……あまり、見つめられると、恥ずかしいです……」
血が繋がっている妹をそんな目で見ないでほしい。
一緒に暮らして、一緒に育った私にとって兄は兄。
家族なんだから~!
「まぁ、いい。指輪を用意しておくよ。明日はエメリーヌの好きな料理を作ってもらうから」
「……ありがとう、ございます。お兄様……部屋に戻りますね。なんだか、二人きりだとちょっと……意識してしまうみたい、だわ。……私、青い薔薇が見てみたいです」
この国で青い薔薇なんて見たことないけどね。
探すのに時間をかけてくれたらいいなって思った。
それに、両親もオッケー出してるなら、このままここにいて手を出されたらアウトだわ。
兄としては自慢できるの、本当に!
頭はいいし、根回しも世渡りも上手だもんね。
「……わかった。青い、薔薇か……努力してみるよ。おやすみ、愛しい人」
一般的にはとろけるような笑み。
向ける相手を間違っているよ。
もったいない。
「おやすみなさい」
伏し目がちに兄の書斎を出て、何とかおっとり見えるように、ゆっくり部屋に戻った。
キラキラした目でお祝い報告を待つように見える侍女に、
「ドキドキしちゃって大変なの。今夜はもう大丈夫よ。……少し、落ち着きたいの」
「私でよければ、お話を伺いますが」
わくわくしてる。
使用人達もみんな知っているの?
みんな兄の味方⁇
「ありがとう……ベッドに飛び込みたい気分なの! だから、ね……? 一人にしてもらえる?」
そんなのお行儀悪いでしょって言うと、笑顔で首を横に振る。
うきうきしている侍女を下がらせて、鍵をがっちりかけた。
疑われてないかな?
どうかな?
日本の庶民だった記憶を今こそ生かそう。
私、明日買い物へ行くふりして家出する!
さようなら、私の家族。
今まで本当にありがとう!
でも、この結婚は無理だわ。
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