伯爵令息の異母兄より花火職人の番と結婚します!

能登原あめ

文字の大きさ
2 / 7

2 運命の出会い

しおりを挟む



「エメリーヌは今日はどんな予定?」

 朝食でそう兄に訊かれて、私はスラスラと答えた。

「今日は、ドレスを買いに行くわ。新しいものがすぐ必要になりそうだし……お母様も一緒にいかがですか?」
「いいわね~、新しいドレスって気持ちが華やぐわよね。ウキウキしちゃうわ。……ええ、ぜひ、一緒に行きましょう」
「はい、お母様。その後で、ティールームに寄りません? お友達がとてもおいしいところがあるって紹介してくださったの」
「……もしかして、新しくできたところ?」

 兄も会話に加わる。

「そうなの、個室は予約が必要で寛げるそうだけど、人目につくテラス席に座るのがステイタスなんですって!」
「まぁ、すてき! 次のお茶会で自慢できるわね」
 
 派手好きなお母様が楽しそうに笑って、ぜひ行きましょうと言った。

「次は私も一緒に行きたいな」
「あら、ポール……ごめんなさい。でも女同士だから許してちょうだいね。今回は二人で偵察してくるわ」

 兄と母が目配せしあう。
 やっぱり二人で協力しているみたい。
 今日買い物に誘わなくても、母は私が逃げ出さないように、一日見張っていたのかも。
 
 私の実の母なのに。
 半分血が繋がっているんだから、そっちを応援しないでよね。
 娘の気持ちも考えて欲しかった!

「お兄様、お仕事がんばってね」

 今日一日王宮でこき使われればいいよ。

 それにしても、どうして兄にこれまで結婚話がなかったんだろう?
 ずっと私と結婚したかったってわけじゃないよね?
 そんなの気持ち悪い。

 職場結婚だって、ありなのに。
 美人の王女様に見初められたらよかったのになぁ。
 お年頃の未婚の王女様で、宰相の息子とか騎士団長の息子とか、隣国の王子様にも熱烈にアピールされてるって噂で聞いた。
 王女様は美形好きらしいから、兄と恋に落ちたらいいのに。

 うちはただの伯爵家で父も出世欲のない人だし、王女様の相手となるには身分とか色々足りないから、夢物語だけど。

 どちらかというと、ちょっと鈍感なおっとりしたお嬢様が兄には必要だと思う。
 母も嫁にイラッとしたらいいよ!

 そんなことを考えながら私は母と二人で出かけ、母がドレスに夢中になっている間に先にティールームに向かうと伝えてもらうことにして、そっと店を出た。








 兄、怖いわー。
 御者が見張りとして立っていたけど、堂々と通り過ぎた。
 お店で買った一番簡素で地味なドレスと帽子とベールを身につけて。
 私のことはチラ見して、すぐに仕立て屋のドアをみつめていた。

 ご高齢のご婦人が地味すぎると返却したドレスのセットで、思いがけず私の変装に役立ってくれた。
 荷物も、大きめの鞄を買って入れ直したし、まずまず順調なスタートが切れたと思う。

 とりあえず、馬車に乗って港街へ向かおう。
 運が良ければ夕方の船に乗れるかもしれない。
 母が気づくまで一時間くらいかな。

 それから、ティールームに行って私がいないってなって、兄に連絡が行くまで……さらに一時間として。
 兄を出し抜けるはず。  


「私の勝ちだわ」

 馬車に揺られて、海が見えた。
 そろそろ私がいないことに気づいたかもしれない。

 部屋に置いてある私の文箱に、結婚できないから除籍でお願い、探さないでって内容を書いて置いてきた。
 多分そのうち手紙を見つけるんじゃないかな。

 兄なら部屋に入って開けると思う。
 時々やけに私のこと詳しかったから。
 
「よーし! ちょっと緊張するけど、これからがんばるぞっと!」

 船着場の近くで馬車を降り、御者には港街じゃなくて別の街に行ったと告げるように伝えて多めのお金を渡した。
 協力金、大事!
 大事なお金だけど、ちょっとの油断も命取りだからね……。

「今日出港の船あるかな~?」

 船乗り場に向かって歩き出した私の方へ、誰かが駆けて来る。
 一直線に向かってきて怖い。
 え?
 私、知らない人だよ。
 まさか、さっそく兄の手下⁉︎

「ここまできて捕まりたくない!」

 怖い、怖い、怖い。
 だけど男は走り出した私を追い越した。

「……なんだ……」

 恥ずかしい……勘違いしちゃったよ。
 自意識過剰だったわ。

 海辺の男、熱いな。
 次の瞬間、男がくるりと振り返って私の前に立ちはだかった。

 茶色い髪に、茶色い目のムキムキマッチョさん。
 それほど背は高くないけど、すごい筋肉で、彫りの深い甘い顔。
 顔が可愛らしいから、ちょっとギャップ萌えする。
 
 やっぱり知り合いじゃない。
 捕まえようとしているわけじゃなさそうだし、兄は関係ない……?
 マッチョさんが、じーっと私を見つめて言った。

「見つけた。俺の番! 一目惚れだ! 愛してる!」

 ストレート!

「俺の魂が求めているんだ! どうか名前を教えてくれ。心に刻みたいんだ!」

 どストレート!
 胸が熱くなるわ。
 兄は関係なかったんだ、よかった……。

「エメリーヌよ。……あなたは?」
「エメリーヌ……エメリーヌ‼︎ なんてイカした名前なんだ! 俺は、フロラン。どうか俺を伴侶にして欲しい」

 私に手を差し出して頭を下げるから。
 日本のお見合い番組で観たことあるなって思いながら、その手を握った。

 握っちゃったよ!
 だって、とっても私好みの手だったから。
 ぎゅうって、握り返されてドキドキする。

「結婚、してくれるのか……? 幸せにするぞ! エメリーヌのために、でっかい花火を打ち上げてみせるよ!」
「花火……観たいな」

 どっか~ん、と体に響くような大玉も好きだし、ぱぱぱぁーんって、ちっちゃい連続花火もいい。
 
 花火って最高だよね、日本の夏を思い出す。

「よし。近々観せてやるよ。なぁ、一緒に夕飯はどう? 家はどこだ? ご両親に結婚の許可をもらいに行くよ」 

 展開が早い!


 
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

番が逃げました、ただ今修羅場中〜羊獣人リノの執着と婚約破壊劇〜

く〜いっ
恋愛
「私の本当の番は、 君だ!」 今まさに、 結婚式が始まろうとしていた 静まり返った会場に響くフォン・ガラッド・ミナ公爵令息の宣言。 壇上から真っ直ぐ指差す先にいたのは、わたくしの義弟リノ。 「わたくし、結婚式の直前で振られたの?」 番の勘違いから始まった甘く狂気が混じる物語り。でもギャグ強め。 狼獣人の令嬢クラリーチェは、幼い頃に家族から捨てられた羊獣人の 少年リノを弟として家に連れ帰る。 天然でツンデレなクラリーチェと、こじらせヤンデレなリノ。 夢見がち勘違い男のガラッド(当て馬)が主な登場人物。

義弟の婚約者が私の婚約者の番でした

五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」 金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。 自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。 視界の先には 私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。

完結·異世界転生したらアザラシ? でした〜白いモフモフでイケメン騎士たちに拾われましたが、前世の知識で医療チートしています〜

恋愛
ネットでアザラシを見ることが癒しだった主人公。 だが、気が付くと知らない場所で、自分がアザラシになっていた。 自分が誰か分からず、記憶が曖昧な中、個性的なイケメン騎士たちに拾われる。 しかし、騎士たちは冬の女神の愛おし子を探している最中で…… ※小説家になろう、Nolaノベルにも投稿しています ※完結まで毎日投稿します

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

もふもふな義兄に溺愛されています

mios
ファンタジー
ある施設から逃げ出した子供が、獣人の家族に拾われ、家族愛を知っていく話。 お兄ちゃんは妹を、溺愛してます。 9話で完結です。

ただの新米騎士なのに、竜王陛下から妃として所望されています

柳葉うら
恋愛
北の砦で新米騎士をしているウェンディの相棒は美しい雄の黒竜のオブシディアン。 領主のアデルバートから譲り受けたその竜はウェンディを主人として認めておらず、背中に乗せてくれない。 しかしある日、砦に現れた刺客からオブシディアンを守ったウェンディは、武器に使われていた毒で生死を彷徨う。 幸にも目覚めたウェンディの前に現れたのは――竜王を名乗る美丈夫だった。 「命をかけ、勇気を振り絞って助けてくれたあなたを妃として迎える」 「お、畏れ多いので結構です!」 「それではあなたの忠実なしもべとして仕えよう」 「もっと重い提案がきた?!」 果たしてウェンディは竜王の求婚を断れるだろうか(※断れません。溺愛されて押されます)。 さくっとお読みいただけますと嬉しいです。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました! ※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)  狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。  突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。  だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。  そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。  共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?  自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。

処理中です...