伯爵令息の異母兄より花火職人の番と結婚します!

能登原あめ

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2 運命の出会い

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「エメリーヌは今日はどんな予定?」

 朝食でそう兄に訊かれて、私はスラスラと答えた。

「今日は、ドレスを買いに行くわ。新しいものがすぐ必要になりそうだし……お母様も一緒にいかがですか?」
「いいわね~、新しいドレスって気持ちが華やぐわよね。ウキウキしちゃうわ。……ええ、ぜひ、一緒に行きましょう」
「はい、お母様。その後で、ティールームに寄りません? お友達がとてもおいしいところがあるって紹介してくださったの」
「……もしかして、新しくできたところ?」

 兄も会話に加わる。

「そうなの、個室は予約が必要で寛げるそうだけど、人目につくテラス席に座るのがステイタスなんですって!」
「まぁ、すてき! 次のお茶会で自慢できるわね」
 
 派手好きなお母様が楽しそうに笑って、ぜひ行きましょうと言った。

「次は私も一緒に行きたいな」
「あら、ポール……ごめんなさい。でも女同士だから許してちょうだいね。今回は二人で偵察してくるわ」

 兄と母が目配せしあう。
 やっぱり二人で協力しているみたい。
 今日買い物に誘わなくても、母は私が逃げ出さないように、一日見張っていたのかも。
 
 私の実の母なのに。
 半分血が繋がっているんだから、そっちを応援しないでよね。
 娘の気持ちも考えて欲しかった!

「お兄様、お仕事がんばってね」

 今日一日王宮でこき使われればいいよ。

 それにしても、どうして兄にこれまで結婚話がなかったんだろう?
 ずっと私と結婚したかったってわけじゃないよね?
 そんなの気持ち悪い。

 職場結婚だって、ありなのに。
 美人の王女様に見初められたらよかったのになぁ。
 お年頃の未婚の王女様で、宰相の息子とか騎士団長の息子とか、隣国の王子様にも熱烈にアピールされてるって噂で聞いた。
 王女様は美形好きらしいから、兄と恋に落ちたらいいのに。

 うちはただの伯爵家で父も出世欲のない人だし、王女様の相手となるには身分とか色々足りないから、夢物語だけど。

 どちらかというと、ちょっと鈍感なおっとりしたお嬢様が兄には必要だと思う。
 母も嫁にイラッとしたらいいよ!

 そんなことを考えながら私は母と二人で出かけ、母がドレスに夢中になっている間に先にティールームに向かうと伝えてもらうことにして、そっと店を出た。








 兄、怖いわー。
 御者が見張りとして立っていたけど、堂々と通り過ぎた。
 お店で買った一番簡素で地味なドレスと帽子とベールを身につけて。
 私のことはチラ見して、すぐに仕立て屋のドアをみつめていた。

 ご高齢のご婦人が地味すぎると返却したドレスのセットで、思いがけず私の変装に役立ってくれた。
 荷物も、大きめの鞄を買って入れ直したし、まずまず順調なスタートが切れたと思う。

 とりあえず、馬車に乗って港街へ向かおう。
 運が良ければ夕方の船に乗れるかもしれない。
 母が気づくまで一時間くらいかな。

 それから、ティールームに行って私がいないってなって、兄に連絡が行くまで……さらに一時間として。
 兄を出し抜けるはず。  


「私の勝ちだわ」

 馬車に揺られて、海が見えた。
 そろそろ私がいないことに気づいたかもしれない。

 部屋に置いてある私の文箱に、結婚できないから除籍でお願い、探さないでって内容を書いて置いてきた。
 多分そのうち手紙を見つけるんじゃないかな。

 兄なら部屋に入って開けると思う。
 時々やけに私のこと詳しかったから。
 
「よーし! ちょっと緊張するけど、これからがんばるぞっと!」

 船着場の近くで馬車を降り、御者には港街じゃなくて別の街に行ったと告げるように伝えて多めのお金を渡した。
 協力金、大事!
 大事なお金だけど、ちょっとの油断も命取りだからね……。

「今日出港の船あるかな~?」

 船乗り場に向かって歩き出した私の方へ、誰かが駆けて来る。
 一直線に向かってきて怖い。
 え?
 私、知らない人だよ。
 まさか、さっそく兄の手下⁉︎

「ここまできて捕まりたくない!」

 怖い、怖い、怖い。
 だけど男は走り出した私を追い越した。

「……なんだ……」

 恥ずかしい……勘違いしちゃったよ。
 自意識過剰だったわ。

 海辺の男、熱いな。
 次の瞬間、男がくるりと振り返って私の前に立ちはだかった。

 茶色い髪に、茶色い目のムキムキマッチョさん。
 それほど背は高くないけど、すごい筋肉で、彫りの深い甘い顔。
 顔が可愛らしいから、ちょっとギャップ萌えする。
 
 やっぱり知り合いじゃない。
 捕まえようとしているわけじゃなさそうだし、兄は関係ない……?
 マッチョさんが、じーっと私を見つめて言った。

「見つけた。俺の番! 一目惚れだ! 愛してる!」

 ストレート!

「俺の魂が求めているんだ! どうか名前を教えてくれ。心に刻みたいんだ!」

 どストレート!
 胸が熱くなるわ。
 兄は関係なかったんだ、よかった……。

「エメリーヌよ。……あなたは?」
「エメリーヌ……エメリーヌ‼︎ なんてイカした名前なんだ! 俺は、フロラン。どうか俺を伴侶にして欲しい」

 私に手を差し出して頭を下げるから。
 日本のお見合い番組で観たことあるなって思いながら、その手を握った。

 握っちゃったよ!
 だって、とっても私好みの手だったから。
 ぎゅうって、握り返されてドキドキする。

「結婚、してくれるのか……? 幸せにするぞ! エメリーヌのために、でっかい花火を打ち上げてみせるよ!」
「花火……観たいな」

 どっか~ん、と体に響くような大玉も好きだし、ぱぱぱぁーんって、ちっちゃい連続花火もいい。
 
 花火って最高だよね、日本の夏を思い出す。

「よし。近々観せてやるよ。なぁ、一緒に夕飯はどう? 家はどこだ? ご両親に結婚の許可をもらいに行くよ」 

 展開が早い!


 
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