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26 領地では
しおりを挟む夜遅くに領地についた二人は、アントワーヌに迎えられた。
「お早い帰宅でよろしゅうございました……」
「……留守をありがとう、アントワーヌ。バセットを起こさなくていいわ。……何か急ぎの用件があるの?」
何か言いたげな様子のアントワーヌに、ロゼールは尋ねる。
「いえ、明日で大丈夫です。では、何かありましたらお声かけくださいませ。失礼いたします」
アントワーヌを見送ってから、そのままそれぞれの部屋の前に立つ。
「おやすみなさいませ、旦那様」
「おやすみ、領主殿」
そうしてお互いの部屋に入り、ロゼールは寝支度を整えた。
しばらくすると、お互いの部屋をつなぐ扉が静かに開く。
「いいか?」
「はい」
二人は領地でこれまで通りの呼び名と態度で過ごすことに決めていた。
もしかしたら誰かが知らないうちに屋敷の中の出来事を話して、どこかに漏れてしまうかもしれない。
少なくともコロンブが結婚するまではこの状態のつもりでいる。
「この寝台で抱ける日はいつになるのかな」
寝台に横になり、マルスランの腕に頭を乗せて、隙間がないくらい抱きしめ合う。
「……それは、しばらく先に……」
毎晩抱かれていたから、それが当たり前になっていたけれど、ロゼールは抱きしめられるだけで満たされた。
けれど、マルスランはそうでもないようで。
「……離れはできた?」
マルスランがロゼールの髪を撫でる。
「あちらに行ってしまうの?」
それは寂しい。
こうやって眠るのに慣れてしまったから。
けれどマルスランは優しい笑みを浮かべて言った。
「いや、時々離れの寝台を使いたいと思ったんだ」
「…………」
「昼間に落ち合ったら、逢引きみたいだろ?」
「……昼間から?」
時間なんて関係ないんだって、言うけれど。
「きっと楽しい」
「……たまになら」
困惑するようなこともしてくるけど、嫌だと言えばやめてくれるし、基本的に甘くて優しい人だと思う。
ロゼールの額に口づけして、そっと頭を撫でた。
「明日は早起きして明るい領地を眺めたい。まだ帰ってきた実感が乏しいから」
「そうね……」
彼がここを帰る場所だと思ってくれてとても嬉しくて、幸せな気持ちのまま眠りについた。
朝になって、バベットが体調不良と聞いて一人で着れるドレスを選んだ。
代わりに来た侍女からここ数日休んでいると聞いて心配になる。
本人は大丈夫だと言っているらしくクレマンにも診てもらうように、ここは大丈夫だからいつもの仕事に戻るように言った。
「何か手伝うか?」
ドレスの前ボタンを止めていたら、マルスランが部屋をのぞいた。
「もう終わるわ。ありがとう」
王都の屋敷でも、日常は同じようにしていたから問題ない。
髪も、簡単にまとめるくらいならロゼールにだってできる。
マルスランが近づいてきて唇にそっと口づけした。
まるで恋愛結婚をしたみたいで、幸せすぎてくすぐったい。
「そんな顔されると……」
もう一度強く唇が重なって、マルスランが離れた。
「まずいな。俺の顔も緩む。領主殿、先に下で待っている」
「はい、旦那様。愛してます」
「…………俺もだよ」
今まで通りに過ごすには、いつも以上に気合を引き締めなければと、ロゼールは深呼吸して心を落ち着かせた。
「塩泥棒? それで、被害は……? 怪我人は出ているの?」
朝食の時に、アントワーヌが淡々と話した。
「二日前に塩蔵を狙って泥棒が現れました。早朝のことです。塩蔵の鍵を壊そうとしていた所を見張りがすぐに見つけて鐘を鳴らし、近くで鍛錬をしていた者達が取り押さえました。五名ほどいまして、張り切って泥棒に飛びかかった者が転んで膝を擦りむく怪我をした程度です。全員捕まえて、自警団に渡しました。出稼ぎに来ていた者が先導したようです」
ロゼール達がこちらに向かっているだろうと思って連絡しなかったと言う。
本来なら明日の夜かあさっての帰宅になっていただろうから。
「わかったわ。ありがとう。早く戻ることにしてよかった。……では、まず塩田の責任者の元へ行ってみるわね。アントワーヌ、馬車をお願い」
「領主殿、俺も行く」
塩田の責任者と会い、詳しく話を聞いた。
夏の出稼ぎ中に今年は塩を盗めなかったから、友人に声をかけて忍び込んだらしい。
夏は訓練をしていなかったし、鍵を付け替えたけれど、見張りが強化されたことには気づかなかったのかもしれない。
秋になって肌寒くなると、塩田に朝早くから出ることもなくなり、仕事の始まる時間が遅くなる。
けれど、意識の高い者達が、マルスランの教えた通り早朝から自己鍛錬をしていたらしい。
「今自警団のところにおりますが、どうしましょう? 今後のことを考えたら厳しい処分が妥当だと思いますが」
責任者の声にマルスランも頷く。
話し合いの結果、良識ある自警団長に処分を任せて、街で噂が広まるに任せることにした。
もしかしたら、来年は出稼ぎにやってくる者が減るかもしれない。
でも、マルスランのおかげで格段に治安は良くなるだろうと思った。
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