結婚式に私を番だと言って現れた竜人が溺愛してくる

能登原あめ

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「待て! 彼女は私の番だ。この結婚は認められない」

 刺繍と宝石が縫いつけてある豪奢ごうしゃなウェディングドレスを身にまとった私は、父とともにバージンロードを歩いていた。
 3年前から準備を始めたドレスで、とても重くコルセットはいつも以上に締めてある。

 他国の来賓も多く失敗なんてできない。
 そんな時に竜人の国からやって来た美貌の公爵が私の前に立って言った。

「申し訳ないが、この式は中止にしてもらえないだろうか」

 先ほどの勢いはない。
 落ち着いた公爵の声は大きくないが、静かな教会に響き渡る。
 彼は王子、それから国王、私の隣に立つ父にも願った。
 父は小さく息を吐いて一礼し、私の手をぽんぽん叩いてから一歩後ろへ下がる。

 人間よりも上位の存在とされる竜人の公爵は、命令することもできたのに静かに返事を待っていた。

「……わかりました。それでは、急ではあるが、お集まりの皆様にはこの後のダンスパーティーを楽しんでいただきたい」

 少し青ざめたようにみえる国王の声に、人々が移動していく。
 急きょ、結婚のお披露目パーティーはダンスパーティーへと変わった。
 王子の結婚式が中止だなんてあり得ないことだけど、竜人の公爵に反対する者など現れない。

 祭壇の前に立っていた王子が私の前までやって来る。

「殿下……」
「……君の判断を尊重するよ」

 王子も突然のことで困惑しているのが伝わってきた。
 彼はこの国を背負っていく人で、ここに残れとも公爵の元へ嫁げとも安易に発言できないのかもしれない。

 でも、何年も一緒にいたのに淡々とした声と表情に少しがっかりした。
 1つ年下の王子とは幼い頃に婚約して、長い間姉と弟のように過ごし、彼が成人するのを待った。
 お互いに信頼関係は築けているはずだけど、私たちは愛し合っているわけではないから仕方ないのかもしれない。

 彼は竜人の公爵に一礼して、こちらを見ることなく去った。


「このような時に出会えると思っていなかった。きっと今の貴女は混乱しているだろうが……できれば私を夫として選んでくれないだろうか?」

 いつのまにか私たちはとり残され、離れたところに神官たちが待機している。
 私たちの会話は聞こえないと思うけれど、あとで様子を報告するのかもしれない。

「貴女を幸せにする。王子妃にはしてあげられないが、私は貴女を女王のように扱うことを約束する」
「それは……」

 私は幼い頃から王子と結婚するようにと言われて育ってきたから簡単に考えを切り替えることができない。
 公爵は隣国の王弟だから不自由のない生活ができるとは思う。
 でも今、全く想像がつかなかった。
 
 もし、私が断ったら――?
 番に選ばれても人間にはその感覚がよくわからない。一応、断ってもいいとされている。
 だけど……この国はどうなってしまうのだろう。

 番を失った竜人は気が狂い、ありとあらゆるものを破壊すると聞いたことがあるし、過去には他国で衰退したという文献も読んだことがある。
 さらさらのプラチナブロンドと澄んだ空よりも淡いブルーの瞳をじっと見つめながら、なんと言っていいか困っていると、

「訊きたいことがあるなら、遠慮せず言ってほしい。何でも答えよう」
「もしも……私が断ったらあなたはどうなさるのでしょう……?」

 会ったばかりで、いきなり公爵を選ぶのは難しい。
 彼は悲しげに笑った。
 淡いブルーの瞳にほんのり灰色が混じる。
 雨が降る前の空のようだと感じた。

「それは……番を失った者たちが住まう村へ行くよ。お互い同じ身の上、頭がおかしくなったら洞窟の奥深くに篭り、場合によっては鎖でつながれて、命の灯火が消えるまでそこにいるだろうね」

 瞬きして彼は続ける。

「それでも、番と出会えることは奇跡で、幸せな時間を過ごせたのだ。わずかな時間でも……。貴女に私を選んでほしいけれど、貴女が幸せであるほうが……嬉しい」

 彼の表情はとても穏やかで、本当にそう思っているみたい。

 どうしたら。
 王子の顔が浮かぶ。
 ずっと一緒に頑張ってきた。
 私は他の生き方を知らない。

 だけど――。
 王子には私じゃなくても婚約者になりたい令嬢たちがいる。
 私たちは政略結婚だ。
 王子も国王も、国のためにも私に隣国の王弟を選んでほしいと思っている気がする。

 それに国家の秘密に関わるようなお妃教育は始まっていなかったもの。
 目の前の彼は私じゃないと駄目で――。
 答えは一つしかない。

「わかりました。……あなたの伴侶となる道を選びます」

 すると蕩けるような、とても嬉しそうな笑顔を浮かべて彼が言った。

「愛しい人、ヴェールをあげてもいい?」
「……はい」

 彼が両手でゆっくりとヴェールを上げ、私の顔をじっと見つめた。
 今までこれほど愛しげに見つめられたことがなく、羞恥に頬が染まる。

「きれいだ。とても美しい。……触れてもいい?」

 頷く私の頬に、壊れ物に触れるように優しく触れた。
 想像したよりひんやりした手。でも嫌じゃない。
 私の熱が移って、お互いの体温が近づいた。

「愛おしい」

 そのまま彼が近づいてきて、唇が重なる。

「……このまま、国に連れ帰ってもいいか?」
「その、今日集まってくださった方々や、家族にも話をしたいのですが」

 初めてのキスにドキドキしながらも、平静を装って言った。

「もちろん。さぁ、行こう」

 彼が私に手を差し出した。
 手を重ねると包み込むように握って歩き出す。
 重いドレスでも彼のエスコートはとても歩きやすい。

 王族に公爵の求婚を承諾したことを告げると、満面に笑顔を浮かべて喜んでくれた。
 王子は心の整理がもうできていたのか、あっさりおめでとうと言う。
 これがきっとお互いにとって最善なのだろう。

「今までありがとうございました」


 家族にも挨拶したところで、国王が私と公爵の婚約を発表した。
 他国の来賓たちは笑顔のまま動じていないのは、竜人のふるまいに慣れているのかもしれない。

 国内の貴族たちが祝福してくれたのも、思いがけず空いた王子妃の地位に娘が選ばれるかもしれないと浮かれているとか?
 それとも、ここに参加していない貴族たちに今日の話をしたくてたまらないのかも。

 どんな理由にしても、騒ぎがあまり大きくならないといいなと思う。
 父は悩ましげな顔をしている。
 野心がなく家族思いの父だから、私が年下の王子と結婚することをずっと喜んでいなかったのは気づいていた。
 そして新たな相手は竜人だもの――。

「落ち着いたら顔を見せてくださいますか?」

 母の言葉に公爵が笑顔で答える。

「もちろんです。それとよければこちらにも遊びに来てください。歓迎します。番が大切にするものは私にとっても大切だから」

 両親がほっとしたように笑顔を見せる。
 そうして私と公爵はその日、国を発った。
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