山で出逢っていなければ

能登原あめ

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 あの時、乗合馬車が直るのを待っていたらこんな出会いはなかったはずなのに。
 ハンナがため息をつくとディルクがうなじに口づけを落とした。

「眠れないか?」
「まぁね。この状況がよくわからないわ……ディルクは私とどうなりたいの? 私、恋人以上の関係はいらないわ。子どもを産むつもりがないから」
「どうして?」

 ハンナはふーっと息を吐いて言った。
 
「山村で生まれたから、出産は家族や近所のおばさん達と協力するんだけど、母が妹を産むのを目の前で見たの。母が死ぬと思ったわ」
 
 ディルクは黙ったままハンナの背中を撫でた。

「八歳の私には衝撃的過ぎて忘れられない」
「それは幼い子には大変だったな」

 そうね、と答えてハンナはため息をついた。
 今は遠い記憶となっていても、前世で出産後に命を落としたであろうことにもチクリと胸が痛む。
 これは墓場まで持っていくつもりの話だけれど。

「子供を望まない男と恋人になることは考えなかったのか?」
「そんな人、会ったことない」

 この世界の男は自分の子孫を残したい欲求が強い気がする。
 子沢山自慢をあちこちで聞くから、避妊には特に注意を払っていた。

「俺と付き合えばいい。ハンナがいればそれでいいから。それに俺は子供ができないだろうと医者に言われたことがある」
「…………」
「それは、なにか、証明できる?」
「大怪我した時の医者の元まで行けば話してくれるだろう」
「……そう、大変だったわね」

 そうか。そういう場合もあるか。
 だから彼は山奥で一人で暮らしているのかもしれない。

「俺と結婚すれば今後その件について悩まないですむ」

 普段は避妊薬を持ち歩いているけれど、わざわざ買いに行く手間がなくなる?

「家事は得意だし、金もある。街中に家を構えてもいい」
「悪くないのかも……」
「悪くないだろう」
「そうね……」

 丸め込まれたような気がしないでもないけど。
 ディルクが嬉しそうに笑ってハンナを力いっぱい抱きしめた。
 それを見たらそんなに大袈裟に考えなくてもいいような気がする。

「俺はハンナを好きだ。ハンナの思うままにしていいから、そばに居させてほしい」
「出会って日が浅いのに」
「俺はお前のことを知っていた。同業だしな。それに一緒にいた時間の長さは関係ない。その分これから一緒に過ごせばいい。心配するな、一生愛し続けるから」
 
 やっぱり重いタイプの男だ。
 同業者というのも回復薬を持っていたからもしかして、とは思っていたけれど。

 結婚。
 私が結婚か……。
 それも悪くないと思っている自分がいる。
 子どもは持たないという一択しかない男。
 完全に流されている気がするけれど、悪くない選択なのでは?
 
 しばらく逡巡した後、ハンナは口を開いた。

「……私もディルクのことは気に入っているみたい。本当に私でいいの?」

 今は非日常に、浮かれている自覚がある。
 ディルクがじっとハンナの目をみつめた後、顔中にそっと口づけた。

「もちろん、ハンナがいい。少しだけ触れさせてくれ」
「今の流れでそうなる?」
「おかしいか?」
「おかしいわ」
「嬉しいんだ」
「……わかったわ」

 どうしてこの男に強く出られないんだろう。
 もう惹かれているからだろうか。  
 ディルクに借りた寝巻きをあっさりはぎ取られ、ハンナを執拗に攻め立てた。


 前戯云々言わなければよかった、とハンナは自分の迂闊さを呪う。

 心まで何も身を守るものがなく、すべてをさらけ出して喘がされる。
 彼の唇も手もハンナの反応する場所を探してこれでもかと攻めた。
 ここまでドロドロにされるものだっただろうか。

「ここ、好きか? 好きなようだな」

 肋骨の上の薄い皮膚を舐められて吐息を漏らす。
 ハンナはぞわぞわとした感覚にとらわれてディルクに腕を伸ばした。

「もっとか?」

 強く吸い上げ跡を残しながら、噛んだり吸ったり、より反応を引き出そうとハンナを窺う。
 そのまま胸の膨らみを辿り、甘噛みして舌で先端の周りをなぞってから転がした。
 ハンナが脚をすり合わせてもぞもぞと動いた。

「俺のために作られたみたいだ、愛おしい」

 ディルクが口の中でつぶやき、へその窪みに舌を這わせた後、下腹部に口づけを落とす。
 ハンナはぴくりと腰を揺らした。

「……ね、もう、いいから」

 足の間に位置取り、ハンナの目を見ながら秘核をむき出しにして舌を這わす。
 強い刺激にハンナは声が抑えられない。
 ディルクはふっと息を漏らして笑うと、秘核を啄ばみながら、指先で蜜口の周りをゆっくりなぞった。

「ここはまだ触ってない」

 ハンナの腰が揺れるのを見ながら、二本の指をぐっと差しこむ。

「あぁ……!」

 愛液が滴り、蜜口がひくひくした。
 絶頂が近い。
 もう一本指を増やし、ゆっくりと中を擦る。

「ディル、クっ……もう!」

 挿れて。
 ハンナは唇を噛みしめて言葉を飲み込んだ。
 身体の相性が抜群にいい。
 もうすでに体から堕とされていると思う。

「明日起きたいだろうから、俺のは挿れない」

 指を増やされ押し広げられた衝撃に、ハンナは短く声を上げて達した。
 秘核を舐められ指はゆっくり抜き差しされて快感を引き延ばされる。
 ハンナは浅い呼吸を繰り返し弛緩した体を放り出したまま彼を見つめた。
 ディルクはハンナの下腹部に唇を押し当ててしばらくの間抱きしめてから、起き上がる。

「きれいにしておくから、先に寝ていいぞ」

 ベッドから降りようとしたディルクの腕を掴んだ。さっきまでの強引さはどこへいったのだろう?
 このままでいいはずないのに。
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