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過去
ダンスを
しおりを挟むレオが十六歳になって、成人した。
もう結婚だってできる……私が十三歳じゃなかったら。
「ジュジュ、踊っていただけますか」
レオが差し出した手に、そっと私の手を重ねる。
叔母様がピアノの前に座った。
今度初めてレオが舞踏会に出ると聞いて、羨ましい気持ちと寂しさと、なぜか不安になってしまった私に、今日は特別な時間。
お母様達がこれは本番と同じよ、って小さな舞踏会を開いてくれた。
レオは焦茶色の髪に碧い瞳で、顔立ちも整っていて背も高い。でも、優しげな雰囲気だから仲良くしたいと思ってしまうし、一緒にお茶会に出るとみんなが彼を見つめる。
『レオはすごく、ものすごくもてるのね。……みんな見てるもの。私、心配だわ』
『……みんなが見ているのは、ジュジュだよ。今でもこんなに……綺麗なのに、デビューするのが心配だな』
少し前にそんな会話をしたのを思い出す。
会うたびにレオが大人っぽく、格好よくなっていくから、私だって綺麗に見えるように夜更かししないとか、甘いものを食べすぎないとか、すごくつらいけど気をつけている。
だから、レオに褒められると嬉しかったし、もっと頑張ろうって思えた。
「レオ、私がデビューする時は絶対にレオが一番に踊ってね」
レオは二つ年上の従姉妹をエスコートして、ダンスを踊ると聞いている。
従姉妹とは会ったこともあって、彼女は年下なんて興味がないと言っていたし、心配しなくてもいいはずなのに……これはやきもちなのかな。
レオが柔らかく笑う。
「もちろん」
私の手をぎゅっと握る。
それを見て叔母様がピアノを弾き始めた。
四組で踊る、カドリーユ。
辺境伯夫妻に、公爵夫妻、お兄様と婚約者、そして私達。
ずっとレオと踊れるわけではないけれど、みんなで手をつないで大きく回ったら、お辞儀をし合って、パートナーを替えながらステップを踏む。
女性同士で手を取り合ったりするから、少し複雑だけど、覚えてしまえばみんなで楽しめるダンスだと思う。
みんな近しい人達だから、間違っても大丈夫と思える気楽さがあってのびのび踊ることができた。
踊り足りないのは私達と、お兄様。
お兄様達は来月結婚するのだけど、いつ見ても友達同士みたいにみえる。
お兄様の婚約者のカサンドラは伯爵令嬢で、薬草についてすごく詳しくて変わり者だと言われているし、実際そうだと思う。
でも、とても面白い方でお兄様も同じように思っているみたい。
ジュジュ達みたいにお互いが好き合っている関係が珍しいって言われたし、レオのことで困ったことがあれば俺に言えよって。
お兄様はレオより四つ年上だからすぐに相談した。
レオのことが好き過ぎて困るって。
少し黙った後、よかったなって肩を叩かれて、助言をもらうことができなかった。
せっかく相談したのに!
「叔母様、ワルツを弾いてもらえませんか?」
お兄様がそう言うと、カサンドラが驚いた顔をして後ろに一歩下がった。
「……私、ワルツはちょっと……」
「カサンドラ、たまには練習しておこう。ここでなら、いくらでも足を踏んでいいんだから」
カサンドラはワルツが苦手みたい。
私はレオを見上げた。
「ジュジュに踏まれることくらい、たいしたことじゃない」
「……ありがとう。頑張ってみる」
私達の会話を聞いて、カサンドラがため息をついて言った。
「ごめんなさい。先に謝っておくわ」
カサンドラがお兄様の肩に手を置いた。
それを合図に叔母様がピアノを奏で、私達は踊り出した。
カドリーユと違って、二人の距離が近いから、どきどきする。私だって背が伸びているのに、レオがどんどん大きくなって見上げてばかり。
以前言われたように、レオに包まれて守られている気持ちになるけれど。
「……ジュジュ、上手だな」
「本当? ダンスは好きだし、いっぱい練習しているわ! それに……甘いものを食べすぎちゃった時も動くといいかなって」
「ジュジュは少しくらい太っても、綺麗だよ。……会うたびに綺麗になるから、心配になる」
「心配?」
レオに綺麗と思われるのは嬉しいけれど、どうして心配するんだろう。
私はレオしか見てないし、結婚するのもレオなのに。
「他の男に奪われないか、って。あと三年もあるから」
「私だって思うわ。レオと会うたびに格好良くなるから、他の女の人に取られないかって心配になるの……あの、私はレオだけが好きだから、安心してね」
小声でそっと伝える。
元々近い距離がもっと狭まって、恥ずかしい。
「俺も。……ジュジュだけだから」
心臓がキュンとなって、胸が苦しい。
どうしよう。大好きでたまらない。
「結婚するのが、レオで本当によかった」
******
お読みいただきありがとうございます。
カドリーユ(カドリール) フォークダンスの一種です。念のため。
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