望まれて少年王の妻となったけれど、元婚約者に下賜されることになりました

能登原あめ

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過去

結婚まであと半年

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 結婚式が待ち遠しい。当日のドレスについて考えるのが楽しい。
 けれど、悲しいこともあった。
 九ヶ月ほど前に私の叔父でもある陛下が逝去された。
 結婚式は半年先だから予定通りの日取りで挙げるけれど、国の状況をみて盛大に挙げるか、縮小するかはもうしばらく経ってみないとわからない。
 今はドレスを着て大好きなレオとの挙式を夢見る。
 そんなふうにふわふわ浮かれていたのもいけなかったのかもしれない。

「ジュジュ、どうして笑っているの?」

 九歳で即位し、十歳になったばかりの従兄弟のアンベールにそう訊かれて私は正直に答えた。

「ドレスのことを考えていたの。とっても素敵なの」

 アンベールがつまらなそうな顔をする。

「母上もそうだけど、女の人ってどうしてそんなにドレスにこだわるんだろう。体は一つしかないのに、何枚も何枚も欲しがって」

 もともと賢い子なのだけど、王として必要な帝王学を日々学んでいるから、年齢よりも大人っぽく感じる。
 もともと自分の弟のように可愛がってきたし、父王を亡くしたというのに気丈に振る舞っているから無理をしているんじゃないか、寂しくないかと頻繁に顔を見せていた。

 アンベールの母と妹もしばらくは王宮にいたけれど、うるさすぎると離宮へ移られた。
 うるさすぎる、と言ったのはアンベールや、周りで支えている宰相をはじめとする側近達。
 だけどアンベールが正しい道に進めるよう、息の詰まるような生活を送っているのがちょっと心配になる。
 
「必要以上のドレスはいらないけど、私が考えているのは結婚式に着るドレスだから。一生に一度しか着ることができない大切なものなの。とにかく、特別なのよ」

 アンベールが何かを考えるように首をかしげた。

「ジュジュは辺境伯の子息……レアンデルと結婚するんだよね。どこに住むの?」

 すでに国中の貴族の名を覚えたらしい。もしかしたら関係性まで。
 何気ない、たわいもない質問に私は夢見るように答えた。

「そうね、王都と辺境伯領を行ったり来たりすることになると思うわ。でも、きっと……領地にいることの方が多くなるかもしれないわね」

 結婚してレオとの間に子どもを授かったら、きっと自然の多い領地でのびのび子育てをすることになると思うから。
 そんなことを考えていたから、アンベールがどんな顔をして私を見ているか気づかなかった。

「そんなのいやだ……」

 アンベールの声に、私は彼が赤い顔で涙を浮かべているのに気づいた。
 父親を亡くして、姉のような私もいなくなると思ってしまったのかも?
 私は慌てて口を開く。

「大丈夫よ、結婚まで半年先だし、その後だってもちろん、ここには何度も顔を出すから」
「いやだ! ジュジュに遠くに行ってほしくない!」

 珍しく子供らしい癇癪に戸惑っていると、書状を手にした宰相が現れた。

「歓談中に失礼いたします。少しばかり、問題がありまして……。おや? これは何事ですか?」

 宰相が首を傾げて私達を見比べる。
 アンベールがポロリと涙を流して叫んだ。

「ジュスティーユと僕が結婚する! 辺境なんかに行かせない! このまま、このまま王宮にずっといればいい」
「……アンベール、やめて。変なこと、言わないで」

 好かれているのはわかっていたけど、そんなふうに騒ぐのはよくない。

「変なことじゃない! 王命だ!」
「やめて、アンベール!」

 引けなくなったのか、それとも、これまで我慢していたものが一気に噴出したのかもしれない。
 とても最悪な形で。

「……陛下、少し落ち着きましょう」
「僕はっ、ジュジュが近くにいないと嫌だ!」

 泣き出した彼のそばに専属の侍従が控えめに立つ。彼は幼い頃からアンベールと共にいるから任せておけば、大丈夫だと思った。

「……今は話ができる状況じゃなさそうですね……ジュスティーユ様はあちらの部屋で詳しい話を」

 宰相がそう囁いて私の背中を押した。

「ジュスティーユ、帰っちゃダメだからな!」
「陛下、大丈夫ですよ。別室にご案内するだけですから、すぐに戻ります。陛下はまず落ち着いて、考えをまとめてください」

 なんとなく落ち着かない気持ちになる。
 ただの子どもの癇癪だけど、彼は小さくてもこの国の王だから。
 
「ジュスティーユ様、こちらでお待ちください。……先程の話を詳しく訊いてもよろしいですか?」

 私は思い出しながら話した。

「……と、言うわけなのです。だから、本気にしないでほしいのです。ずっと頑張ってきたから些細なことで爆発したのかもしれません。私は従姉妹だから、言いやすかったのでしょう」
「そうですな、陛下はあのお歳でよく頑張っていらっしゃる。……とても我慢強く、賢いですから。さて、ではあちらに戻りますがこのまま公爵が戻るまでお待ちいただけますかな」

 私が頷くのを確認してから、笑顔で宰相が出て行った。

 あぁ、これでお父様がいらしたら、帰れるわ。
 私はのんびりと紅茶とマドレーヌを口にした。
 バターがたっぷり使われているから、またダンスの特訓をしなくちゃ。
 それからあのドレスの裾に、刺繍はどうかしら、アイビーとか?
 花言葉の永遠の愛を誓うの。
 純白のドレスに、同系色の刺繍なら上品に見えると思う。
 でも、リボンで飾ってもらうのも可愛くなるかもしれない。それって、子どもっぽくなってしまうかしら……?
 しばらく取りとめのないことをぼんやり考えていた。

 だけど。
 私はその日から家に帰ることができなくなった。
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