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ノア殿下と二人きりになってまた緊張してきた。
「今日は少し顔色が良くないね。大丈夫?」
顔色が良くないのは淡い黄色のドレスが似合わないから。
私にとって顔色が悪く見える色みたい。
お母様の得意げな顔が浮かんだから、急いで頭から消した後、口を開いた。
「……今日のことを考えてよく眠れませんでしたけど、気分はいいんです。スイセンがとてもたくさん咲いていてきれいですね。春は色々な花が咲くから好きです」
花の絵を描くのが好きで、最近は少しだけ値段が高く売れるようになった。
領地の教会に寄付したり、直接パンを届けたりして子どもたちが笑顔を見せてくれるのが嬉しい。
公爵家の領地で絵を描きながら未婚のまま一生を終えると思っていたのだけど。
「この辺りは落ち着いているから静かに過ごせるんだ。さぁ、どうぞ」
ガゼボの中の椅子に腰かけて庭園を眺める。
小さな池もわずかな風で静かに揺らいでいて綺麗。
「素敵ですね」
「私もそう思う」
隣に腰かけたノア殿下がにっこり笑った。
「私たちはうまくやっていけると思うんだ。早く領地へ向かう必要があるから、結婚までの期間が短いし不安に思うかもしれない。だが、これから先の人生はまだ長いから、少しずつわかり合っていきたいと考えている」
ノア殿下はとても誠実だと思う。
「イーディス嬢、私と結婚してくれませんか?」
「あの……今日はまだ返事をするなとお兄様に言われているんですけど」
ノア殿下は何を言っても受け止めてくれる気がする。
話しやすい雰囲気を作るのがとても上手。
「うん」
「私でよければよろしくお願いします」
「ありがとう、嬉しいよ。こちらこそよろしく」
手をぎゅっと握られて、ずっとつないだままだったことに気づいて内心あわてた。
指を動かすのも緊張して、このまま何もしないほうがいいのか、握ったほうがいいのかもわからない。
ダンスの時は手袋越しだったけど、今は直接熱が伝わってくるから――。
「少し、赤くなっている? 可愛いね」
にっこりほほ笑まれて、不自然に顔をそむけてしまった。
表情がとぼしいと言われるのに、ノア殿下には私の内面まで読まれてしまいそう。
好きだと知られたくない。
「今日は温かいですから」
「……そうだね」
つないでいた手が離れてしまった。
残念に思う自分がいるけど、ノア殿下も手を放すタイミングに困っていたかもしれない。
「今話したことを知られたらアンドレに怒られてしまうかな。公爵夫妻にも、わかってもらえるように話をするつもりだよ」
ノア殿下なら権力で命令することだってできるのに。
「私からも家族に話します。お母様は私の味方だと思います」
「そう……じゃあ、公爵とアンドレだね。二人が特別に好きなものは何? 懐柔するのにプレゼントを用意しようか」
意外と甘いものが好きな二人だけれど、家族以外に知られたくないかも。
「そうですね……なんでしょう……? 難しいです」
考えながら眉間にしわが寄ってしまった。
ノア殿下は黙ったまま私の返事を待っている。
「ごめんなさい、すぐには浮かびません。少しお時間をいただけたら……何か」
晩餐の時によく飲んでいるお酒を調べたほうがいいかも、なんて考えていると。
「難しい顔をしているね。……ノアといても楽しくないだろう」
現れたのは王太子であるジェイソン殿下だった。
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