みんなに優しい王子様に求婚されました

能登原あめ

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10 舞踏会



 ネモフィラの花のような澄んだ青い色のドレスを身にまとい、同じ生地を部分的に使ったテイルコートを着た長身の――お兄様の腕に手をかけて歩く。

 お兄様は今日も完璧なすきのない姿で、とてもきれい。格好いいと言うには整いすぎていて、ちょっとまぶしいくらい。

「また、私に見惚れているのか?」
「はい、お兄様はとても素敵ですから」
「……イーディス、ここは公爵家うちではない。戦場だ!」

 一歩外へ踏み出したら戦場だと言うのはお父様も一緒。ちゃんと使い分けができないのはダメだと言われながら育ってきた。
 
「ごめんなさい、お兄様と一緒だと安心してしまうの。気をつけます」
「クッ……気をつけなさい」

 お兄様の眉間に深いシワ。
 ノア殿下よりひとつ下なのにお兄様のほうが年上に見える。
 私が迷惑ばかりかけているからかな。

「お兄様、いつもありがとう。大好き」
「…………ッ、イーディス。パーティーはまだ始まったばかりだ。もっと注意深くあれ」
「はい、お兄様」

 いつも私たちの周りには人が近づいてこないから、どんなことを話しているか聞こえていないはず。
 今だって、令嬢たちが「アンドレ様がお怒りみたい」だなんて話している。
 お兄様は照れているだけなのに。

「始まるぞ」

 王室ご一家が入場して、国王様があいさつをした後、ゆったりとした音楽が流れ始めた。
 今日の夜会もノア殿下の花嫁選びを兼ねたダンスパーティーとなっているみたい。

 ノア殿下は白いテイルコートがとても似合っている。
 今日もキラキラ輝いて見えるけど、見つめすぎないよう視線をはずした。
 国王様と一瞬目が合ったから、黙礼をとる。
 もしかしてノア殿下が話したのかな。たまたまかな。

「先に挨拶に行こう」

 大股で歩くお兄様に早足でついていく。
 お決まりの挨拶の後、国王様が鷹揚おうように頷いた。

「相変わらず美しいな」
「過分なお言葉ありがとうございます」
 
 お兄様に合わせて一緒にお辞儀をする。
 国王様も認める、お兄様の美しさに私も嬉しくなった。

「イーディス嬢、この後ノアと踊ってくれるか? まだ誰にもダンスを申し込んでいないと言うのだから奥手で困る」

 驚きの声をあげそうになってなんとか言葉を飲み込んで答えた。

「…………はい、わたくしでよろしければ」

 ノア殿下はいつも通りほほ笑んでいるけど、王太子殿下は口元をゆがめて笑っている。

「では、イーディス嬢、のちほど」
「…………はい、よろしくお願い、いたします」

 王太子殿下にじっと見つめられているのが気になって静かに視線を下げた。
 見た目がそっくりな国王様はおおらかさがにじみ出ているのに、今夜もジロジロ見られて評価されているみたいで居心地が悪い。

 それでもなんとか挨拶をすませて退場すると、サバンナ嬢と顔を合わせた。

「ごきげんよう、イーディス嬢。……ふふっ、今日も可憐なドレスがとても良くお似合いだわ」
 
「ごきげんよう、サバンナ嬢。ありがとう、あなたのドレス、サルビアみたいにあざやかですてきね」

 赤いマーメイドラインのドレスの裾にひらひらしたフリルがついている。
 ドレスを見て夏の領地に咲く花が浮かんだ。

「……薬草で例えるなんてイーディス嬢らしいわね。王子様ならもっと上手にほめてくださるわ」

 あざやかな花だし嫌味のつもりではなかった。観賞用のサルビアもあるから……。
 いつものことだからか、お兄様もサバンナ嬢のお兄様も黙礼だけで口をはさまない。
 彼女のお兄様は王太子派で、もともと仲が良くないのもあるかもしれないけど。
 
 ホールに戻って、挨拶を受ける王族の方々を眺める。
 未婚の令嬢はノア殿下の目に留まろうと必死でいつもより時間がかかっていた。
 普段ならそっと抜けてしまうのだけど、ダンスするまで帰れない。

 チラチラとこちらを見てくる人が多いけれど、今夜は友人のところに行かずにお兄様が隣にいてくれるのが心強い。

「……みんな機会を狙っているな」
「お兄様と踊りたいのでしょう? 殿方は交友を深めたいでしょうね、自慢のお兄様と」

 お兄様はとてもきれいだから目立つもの。

「無自覚なのも困るな……まあ、いい。ノア殿下と踊ったらまっすぐ戻ってきなさい、必ず」
「はい」

 ノア殿下が私の元へやって来た。







******

 テイルコート→燕尾服
 
感想 10

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