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1 結婚しなくちゃダメですか?
しおりを挟む兄が話し出すまではいつも通り、和やかな朝食だった。
「アリスティド、これ以上待てん。婚約者候補に集まってもらうから、その中から必ず選ぶように!」
国王でもある十歳年上の兄にそう言われて、私は青ざめた。
「兄上、いえ、陛下! 無理、無理です! 私は神官として」
「ダメだ。結婚はいいものだ。それに、今はお前が継承権第一位だぞ」
結婚して数年、女の子が二人生まれていて夫婦仲も良さそう。
男だけしか王位継承権がないってのが、問題なんだと思う。
「早く、女性も継承できるように改革して下さい! ですよね、義姉上」
私と仲良しの王妃である義姉上は、笑って頷く。
「ええ、本当に。そうしたら、アリスティドの負担も減るのにね」
「そのように動いてはいるが、今もし余に何かあったら困るだろう?」
兄が片眉をあげる。
「そんな不吉なことは言わないでください! 兄上はこの国に必要なお方です!」
第二王子として生まれた私には、前世の記憶があった。
日本という国で、ごく普通の一般家庭に生まれた、ごく普通の女子高生だったこと。
普通のサラリーマンのお父さんと、普通のパート勤めのお母さん。それと、ごく普通の兄。
普通の高校に通って、普通に友達とおしゃべりして。
大学行こうかな~って思ってたくらいのぼんやりした記憶。
幼い頃から男であることに違和感はあったけど、そんなことを少しずつ思い出した。
まず私に王様とか無理。
闘争心、カリスマ性ともにゼロ。
ポンコツ王、爆誕しちゃう~!
もちろん結婚も無理。
だって私、心は女の子だもん。
結婚なんて、精神的百合になっちゃうから!
でも、男同士ってのもなんか違う。
物理的に無理!
男同士であれこれなんて考えられないし、私が女の子を……なんて、考えたくない‼︎
今だって女の子に囲まれて、理想の王子様像をおしつけられるの、きっついよ。
牽制しあって、裏でコソコソしてるのとか、か弱いフリとかされても、知ってるしー!
可愛い女の子よりカッコいい男の子は目の保養になるけど、チラ見しかしないようにしてる。
だって、私に忠誠を誓うって手のひらとか足先とかにキスしようとしてきた輩とか、鍛錬だって言ってベタベタ触ろうとするのとか色々いたから。
しかたないんだ。
鏡を見るたび、びっくりするくらいのイケメンが映る。
二十年もこの顔につき合っているのに、何度だって驚いちゃう。
兄より優れているのはそこだけ。
サラッサラの金髪に碧眼、優しげな顔立ちのいかにも王子様な見た目で幼い頃から可愛かった。
とにかく、結婚は無理。
第二王子は見た目のみ。
凡庸で、なよなよして頼りにならない、大好きなお兄ちゃんには逆らいません、のスタイル、いやスタンスで生きてきた。
第二王子派とかできても困るし。
私にすり寄ってくる奴らはすべて兄に告げ口したし。
暗殺とかされたくないし。
今ではけっこう、クリーンよ、この国。
剣術? 無理無理。
乗馬? あー、ギリOK。
社交? 最低限なら。
勉学? まぁ、数学は簡単だし。普通。歴史は面白いかなー。
神官より研究者のセンのがいいのかな。
そのほうが兄上にも貢献アピールできたかも。
「明日にも、隣国から婚約者候補の王女がやってくるし、国内の候補者は本日よりそれぞれ滞在できる部屋を用意した。三ヶ月を目処に、誰か一人、必ず選びなさい。もっと早くてもいい」
いつの間に⁉︎
滞在っていつでも会っちゃうなんて、息詰まるよー!
「必ずですか⁉︎」
「無論。余が選び抜いた相手だ。気にいる相手がいるだろう」
兄上、断言しちゃったけど!
無理ですって。
独身を~! 独身を貫かせて下さい~‼︎
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