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side アンジー
しおりを挟むヴァルは私を侯爵家へ連れてきた。
どこまで気づいているのかな。
お母様はオーロラが一番可愛くて、これまで彼女の望んだことはすべて叶えようとしてきたこと。
少し前に彼女が侯爵夫人になりたいと言ったから、ヴァルに私じゃなくて彼女をお嫁さんとして選んでもらおうとしていること。
それなら伯爵家の体面が傷つかないから。
私はお父様にそっくりだからお母様に嫌われていること。
そのお父様は私の婚約が決まった後は仕事と兄の跡継ぎ教育に力を注いで、私のことは見向きもしないこと。
ヴァルが全て知ったら私のこと嫌いにならないかな。
客間に案内された私は、侯爵家で働くみなさんの温かいもてなしを受けながら、席を外したままのヴァルが戻るのを待っていた。
「お待たせ、アンジー。今から父様のところへ案内するよ」
このタイミングで侯爵と会うだなんて、何かよくないことがあるのかもと不安になる。
なんだか怖い。
私の様子に気づいたヴァルが、手を握ってくれる。
「大丈夫だよ、僕がついてるから心配しないで」
「明日から侯爵家について学んでもらおうと思う。覚えることはたくさんあるし、伯爵に手紙を出しておくからこれからのことは何も心配しなくていいよ。……急なことで驚いただろうけど、式の準備も全てこちらに任せて欲しい」
侯爵の言葉に私はよろしくお願いいたします、とかお気遣いありがとうございますとか、多分言ったと思う。
ヴァルは心配するなと言ったけど、それでもずっと悪い方に考える癖は抜けなくて、今予想外のことに頭が働かない。
「嬉しいな。これから毎日アンジーと過ごせるなんて」
ヴァルの言葉にはっとする。
このまま伯爵家に戻らなくていいの?
あの寂しい家に。
「……二人とも、式の前に子どもは早いからね。……節度を守りなさい」
「節度……わかりました」
ヴァルがしれっと答えていたけど、私はなんだか恥ずかしい。
ヴァルが客間まで送ってくれたけど、もう少しおしゃべりしたくて部屋へ誘った。
「……色々期待しちゃうから、庭に行こう?」
ヴァルがそんなふうにいうから一気に顔が熱くなる。
「アンジーがかわいすぎてつらい」
「ヴァルのほうがかっこいいし頼りになるよ……連れ出してくれてありがとう……」
「そんなことない……僕、幸せ……」
もうどうしたらいいかわからない。
ヴァルに見つめられるとますます熱くなる。
繋いだ手も熱くて、私なのかヴァルなのかわからないけどじっとりと汗ばんできた。
でも離したくないと思う。
「この辺りまで来れば大丈夫かな。……あのね、父様にこれまでのことを話したんだ。僕はずっとずっとアンジーが大好きだから、あの二人が考えているようなことは絶対に起こらないよ。僕がアンジーを幸せにしたい! 近々父様と伯爵で話し合うだろうけど、このままアンジーはここで暮らして僕の妻になって」
出会った頃よりすごく背が伸びたヴァルが、私をまっすぐに見下ろす。
彼はいつも私に正直で、恥ずかしくなるくらい気持ちを伝えてきた。
どうして太った私なんかを好きとか、かわいいとか言うんだろうって最初は思っていた。
だけど、彼に優しく見つめられて、紡ぎ出される愛の言葉を一身に受けて、彼を信じて大丈夫だと、私はそれほど不器量じゃないかもしれないと、ある日彼の言葉を受け入れていたことに気づいた。
それから私は自分のことはちょっぴり、彼のことはどんどん好きになって、今は胸がいっぱいで好きが溢れてくる。
だから私も伝えなきゃ。
「はい。嬉しい……ヴァル、好き。大好き」
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